本作は、映画史上、唯一無二のスタイルを持ち、今なお愛され続ける日本の巨匠・小津安二郎の素顔に迫る伝記であり、その精神世界の奥深くへと迫るドキュメンタリーである。小津自身の言葉をナビゲーターに、日記やノート、書簡、写真、インタビュー、これまで広く世に出ることのなかったホームムービーなどの貴重なアーカイブに加え、黒沢清、ヴィム・ヴェンダース、リュック・ダルデンヌ、ツァイ・ミンリャンといった映画監督たちの考察や、俳優の香川京子や城澤勇夫、プロデューサーの山内静夫ら小津と時代をともにした映画人の回想を織り交ぜながら、小津がいかにして個人的な喪失や戦争のトラウマを『晩春』『麥秋』『東京物語』『秋刀魚の味』といった不朽の名作へと昇華させていったのかを辿っていく。計算し尽くされ、一見するとシンプルに思えるその物語と、独自の映像スタイル。それは、家族や愛、そして「無常観」を詩的かつ人間味あふれる視点から探求するための表現手法であった。日本文化に深く根ざしながらも、世界中の人々の心に響く小津の作品は、映画という芸術にどれほどの可能性があるかを、今も私たちに教えてくれている。
ダニエル・レイム