優護は、幼い頃から「他人の聞いている音」が聞こえる少年だった。その声を書き留めた「音ノート」は、中学2年生になった今、82冊を数える。彼には幼少期に母から愛されなかったトラウマがある。現在は優しい里母と寡黙な里父の元で穏やかに暮らしているが、家でも学校でも本音を隠し、波風を立てないよう息を潜めて生きている。クラスでいじめのターゲットになっている乙木理穂に対しても、優護は自分を守るため見て見ぬふりをしていた。夏休みを控えたある日の放課後。優護は下校途中で、廃屋で“フォーリー”(映画の効果音)作りに打ち込む理穂の姿を目撃する。フォーリーアーティストになるのが夢だと語る理穂。それは、優護が未知の世界に触れた瞬間だった。夏休み。理穂と仲良しの古道具屋のおっちゃんが貸してくれたフォーリーに関する本を片手に、2人はフォーリー作りに挑戦することに。手持ち花火の音、◻ーファーの足音、空を切り裂く棒の音。身近なものから、映像に合わせた音を生み出していく魔法のようなフォーリーに、優護はたちまち魅了され、次々とアイデアを出していく。一方の理穂も、仲間と一緒に作る喜びを感じながら、表現を通して自分の殻を破っていく。誰にも理解されないと思っていた孤独な2人は「音」を通して共鳴し、お互いにかけがえのない存在になっていく。自由で楽しかった夏休みが終わり、2学期が始まった。フォーリーの出来栄えの良さに、映画部が2人を勧誘する。ところが、教室の過酷な現実が再び2人を追い詰めていく。
空下慎