ファッション小噺vol.61 自意識過剰な19世紀のアイコンが魅せるコスプレ

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『エンジェル』 -(C) 2006 - Fidelite Films - Headforce 2 - Scope Pictures - FOZ - Virtual films - Wild Bunch - France 2 Cinema
  • 『エンジェル』 -(C) 2006 - Fidelite Films - Headforce 2 - Scope Pictures - FOZ - Virtual films - Wild Bunch - France 2 Cinema
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近頃、観ているこちらを圧倒するほど派手なコスプレ映画がないなと思っていたら、登場しました。『スイミング・プール』や『まぼろし』など、現代劇をリアルに描くという印象が強いフランスの鬼才フランソワ・オゾンの新作『エンジェル』です。女流小説家エリザベス・テイラーによる原作小説が持つ、極めてイギリス的なビクトリア朝やエドワード朝の雰囲気をきちんと表現したいと、フランス人のオゾンがあえて挑んだ英語作品。女性が自立を始める以前、19世紀後半の英国を舞台に、女流作家として名を成し、傲慢に、でも自分に正直に、自らが思い描いた小説のような人生を生きる姿をエキセントリックに、エモーショナルに映し出しているとても興味深い映画です。

上昇志向が誰よりも強い田舎育ちの少女が、自らの文才を足がかりにして、憧れの上流階級に足を踏み入れ、名声も富も手にし、贅を尽くした暮らしを満喫するものの、あまりに強いエゴゆえ、愛する人々を傷つけずにはいられず…というかなり激しい物語。欲望に正直な主人公・エンジェルの姿は、見ていてすがすがしいほどですが、その一方で、女性が社会的に成功するって一体何なのか、人間として幸せになるって一体どういうことなのかと、深く考えさせられる作品でした。

そんなテーマを語る上で、監督がこだわったというのが衣裳です。テクニカラーが多用されていた1950年代のハリウッド映画が大好きというオゾン監督は、色彩を駆使して物語を見せるというハリウッド黄金期の作風を大いに参考にしたのだとか。
「エンジェルは、派手すぎて女性が着るのがあまり好まれなかったスカーレットレッドやレーシンググリーンのドレスを身に着けます。そういったエンジェルのエキセントリックなキャラクター像が、コスチュームに大胆さを与えてくれましたね」と監督。本来ならば、ビクトリア朝時代でもエドワード朝時代でも、女性はもっと慎ましく、エンジェルのように肌を露出しないものだったそうですが、エンジェルは一風変わった性格であり、想像の世界で生きている女性でもあるので、衣裳は時代考証にこだわる必要がなかったそう。当時からすれば、時代の最先端を行っていた女性ということになるのでしょうか。

また、衣裳が豪華である反面、美しく着飾れば着飾るほどに、心の空洞が露呈してしまうあたりも見事に表現。必要以上に女らしさを誇張し、目立とうとする様子には、精神的に満たされない女が、わびしさを埋めるために外見を飾り立て、自分を主張しようとする心理がミエミエ。“物質的には恵まれているけれど、愛が足りない人生を送る者”の哀愁がにじみ出ています。ただ、そんな寂しさにもめげず、パワフルに着飾るエンジェルが、観ているうちに段々いじらしく思えたりして。最初は“ナルシスティックで奇妙な女の子”とか“自意識過剰で嫌な女”にしか見えなかったのに、悲劇に見舞われ、寂しい別れがあってもなお、ますます豪華に着飾って、気丈に振舞い続けるエンジェルに、思わず拍手してしまった私。観終わった後には、「どんな道も、極めれば天晴れだな」となんだか晴れ晴れとした気持ちで劇場を後にしたのでした。さて、あなたは?

《text:June Makiguchi》

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