※本サイトはアフィリエイト広告を利用しています

【MOVIEブログ】コンペ作品紹介(3/3)

コンペ作品紹介の第3弾です。15本中、最後の5作品です。ヨーロッパ、北南米に続き、今日はコンペの中のアジア作品です。回を追うごとに長文化しますが、よろしくお付き合い下さいませ!

最新ニュース スクープ
注目記事
【MOVIEブログ】コンペ作品紹介(3/3)
Greenlight Pictures Indie Works 【MOVIEブログ】コンペ作品紹介(3/3)
  • 【MOVIEブログ】コンペ作品紹介(3/3)
コンペ作品紹介の第3弾です。15本中、最後の5作品です。ヨーロッパ、北南米に続き、今日はコンペの中のアジア作品です。回を追うごとに長文化しますが、よろしくお付き合い下さいませ!

〇『メルボルン』 (イラン)

西アジアから始めますが、本作はイランの作品。昨年のトウキョウで審査員特別賞を受賞したのは、イラン映画の『ルールを曲げろ』でしたが、『ルールを曲げろ』が現代の青年たちを主人公にしたドラマであったように、本作も「ファルハディ後」と呼びたくなる都会派の現代劇です。『別離』で世界中を熱狂させたアスガー・ファルハディ監督の影響はとても大きいようで、隙の無い脚本で観客の心を掴み、達者な役者が映画を引っ張る、という作品がイラン映画に増えてきた印象があります。本作も、その正統な系譜に連なる作品と言ってよさそうです。

イランの若いカップルが、オーストラリアのメルボルンへの数年間の留学を控えている。出発当日、アパート引き渡しの手続きをしたり、ひっきりなしに訪れる訪問客の相手をしたりで、片付けが遅々として進まない。そんな中、とんでもない事態が発生してしまう。表向きは平然を取り繕いながら、裏では事態への対処に迫られるカップル。希望の日に突如訪れた異常事態に、彼らはどう対処するだろうか。果たして、無事に旅発てるのだろうか…。

設定は、極めてシンプル。舞台は、ほとんどアパートの内部。それでも、小ささや狭さを全く感じさせない。例えシンプルな設定であっても、脚本を練り上げることによって、映画はここまで面白くなれるのだ、というお手本のような作品です。映画作りを志す若者たち全員に見ることを勧めたくなります。非常事態は映画の開始ほどなくして発生するので、観客はカップルに感情移入しながら、終始ハラハラしながら過ごすことになります。なんというサスペンスの見事な作り方。

見事な脚本に説得力を与えているのが役者陣の演技で、カップルの女性役のネガル・ジャワヘリアンは近年の出演作で内外の映画賞にノミネートされている実力派女優であり、男性役のペイマン・モアディは前述のファルハディの『別離』で、ベルリン映画祭の主演男優賞に輝いています。

そして、やはり演出にも注目したい。室内劇というと、舞台演劇を見ているような印象を受けることが良くも悪くもあるけれど、本作の場合は、見終わった後に「そういえばほとんど室内だったか」とはじめて気づくほどで、人物の動かし方、アパートのドアを利用した境界の設定の仕方、そして場面転換の上手さなど、鮮やかな演出の冴えに唸ります。

イランの若者が海外に出ることの難しさを、昨年上映した『ルールを曲げろ』は描いていましたが、イラン特有の事情がサスペンスを盛り上げているのは間違いないとしても、本作は世界中どの国でもリメイク可能。日本版も見てみたくなります。とにかく、映画初心者の人にも、映画通の人にも、揃ってお勧めしたいのが、『メルボルン』なのです。

〇『壊れた心』 (フィリピン)

一気に東南アジアまで飛んで、フィリピンの作品です。近年のフィリピン映画は、ブリランテ・メンドーザ監督の国際的な活躍や、ラヤ・マーティン監督の刺激的な活動に牽引されるような形で、とても活況を呈しているという印象を受けます。昨年のトウキョウのコンペで上映した『ある理髪師の物語』は見事主演女優賞を受賞しましたし、今年もフィリピン映画を1本に絞るのにとても苦労したものです。そんな状況の中で、本作はピカいちの個性を放っており、コンペへの選出にいささかの迷いもありませんでした。

スラム街を舞台に展開する、殺し屋と娼婦との絶望的な愛を描くドラマ、ではあるのですが、なかなかそうやってまとめてしまうのは難しい。監督は「パンク・オペラ」という言葉を使っていますが、本作にセリフはほとんどなく、途切れることなく被さってくる様々なタイプの音楽が、効果的にシーンの感情を伝えていきます。本作は、物語ではなく、感情で繋いでいく映画と言えます。

監督のケヴィンは、映像作家でありミュージシャンであり、そして詩人でもある才人で、そんな彼が持つ多様な才能が全てぶちこまれた現代アートという見方も出来るかもしれない。ケレン味たっぷりの映像、細かい場面転換、時制の大胆な組み換え、鮮やかな色遣い、凝った美術、などが自由に合体し、混沌とした世界が展開します。その中で、殺し屋と娼婦のある種の「愛」が浮かび上がってくる。カオスから立ち昇るロマンティシズムの香り。過激で甘美な愛の物語です。

まあ、一言で言えば、カッコいいです。ルーズなルックスで高い演奏技術を持つロックバンドのように、見かけはラフでいながら、混沌を演出し、そこからカタルシスを生み出すテクニックがカッコいい。

主演に、浅野忠信。『ルパン3世』の公開日の舞台挨拶の際に、海外ロケについて質問された浅野さんは「ルパンの前に入っていたフィリピンの現場がすごかった」という旨を壇上でコメントされたそうですが、そのフィリピン映画というのが本作というわけです。浅野さんが、ボロボロになってセルフィー撮り(?)しながらスラム街を駆けずり回っている姿は、なるほど現場の過酷さを感じさせるものではありますが、いやでもそのカッコよさといったら!

共演女優のナタリア・アセベトはカルロス・レイガダス監督の『闇のあとの光』で映画デビューしたメキシコ人、プロデューサーはドイツ人、そして撮影は豪州のクリストファー・ドイル、ということで、真に国際的なアジア映画と言えるしょう。ただ、そのルックは国際的というよりは、無国籍的で、詩情あふれる過激なファンタジーという、ケヴィン監督が君臨する夢の国のような世界です。

現在のフィリピン映画の、というよりは、アジア映画の最先端の姿のひとつを発見して頂きたい!

〇『破裂するドリアンの河の記憶』 (マレーシア/写真)

大型新人登場fromマレーシア!監督のエドモンド・ヨウ君(少し前から知っているので、つい「君」付で呼んでしまってごめんなさい)が長編を撮っているという報せを聞き、是非完成したら見せてほしいと連絡を取って、そして届いた映像素材。アジア部門の石坂ディレクターを交えた他のスタッフと共に見て、「これは素晴らしい。是非コンペでお願いしよう」と全員一致の即決でした。

基本的には青春映画なのですが、そういうひとつのジャンルでくくってしまうわけにはいかない、懐の深さを備えた作品です。美しい幼なじみと付き合えることが嬉しい高校生の男の子を中心とした設定がある一方で、学校の近くにレア・アース工場の建設が計画され、地域の住民は反対している。その反対運動に参加しているのが、男の子が通う高校の女教師で、彼女は歴史を教えている。そして優等生の女生徒が、その先生に憧れを持つ…。

幾人かの視点をリレーするように、映画は進行します。入口は青春映画なのだけれど、社会問題への取り組みが横軸となり、やがて、歴史とは何かという問いかけがなされていきます。その展開のスムーズさと、演出の鮮やかさには舌を巻かずにいられません。シュガーコーティングされた青春ものとは完璧に一線を画し、シリアスな視点を巧みな手法で挿入し、世の事象に対するリテラシーの重要性を問いかけてきます。その思考の照射距離の長さは、まさに新人離れしていると言えます。

若手監督がシリアスな題材に取り組む時は(あるいは、題材にシリアスに取り組む時は)、とかく生硬になりがちであるのに、ヨウ監督は全く肩に力が入っていない(ように見える)のが驚きです。視点の推移がスムーズであることもそうなのだけれど、社会問題を扱いつつも、優れた青春映画に特有の、胸の痛みとロマンティシズムが全く失われないのが素晴らしい。リアリズムとリリシズムが同居し、幾層の物語が展開するスケールの大きさ。期待の大型新人と呼びたくなる所以です。

もう少し柔らかいことを書くと、出演する女優さんたちがみな素晴らしく、そして美しい!主役のひとりの女優さんは、『青空娘』の頃の若尾文子に面影が重なり(池脇千鶴を思わせるという説もあり)、僕はすっかり降参。男の高校生役の青年も、実にいい顔をする。決して2枚目ではないのだけど、あの時期特有のやるせない思いみたいな感情が、実に上手く表情や仕草に出ていて、大いに感情移入してしまう。

撮影、編集ともにうっとりする出来栄えで、そこに実に的確なタイミングで美しいピアノのスコアが流れてくる。絶妙。

先日のラインアップ発表記者会見の時に、「ヨウ監督は、もしかしたら次代のホウ・シャオシェンになるかもしれない資質を感じます」と紹介したけれど、僕はそれほど大げさな言い方ではなかったと思っています。監督は早稲田大学に留学した経験を持ち、その資質の育成に日本がいくばくか貢献しているとしたら、とても誇らしい気持ちになります。一方で、日本の若手監督たちに本作を是非見てもらいたい。そして、大いに嫉妬してほしい!

〇『遥かなる家』 (中国)

中国の辺境、少数民族が暮らす大地。放牧を生業とする両親と離れて暮らす幼い兄弟が、夏休みになっても迎えに来ない親に会うに行くべく、ラクダに乗って旅をする物語。

映画を見るとき、もう子供モノには簡単には騙されないぞ、という気持ちはあるのですが、そうは思っても年に1~2本は「もうダメ。ここまで可愛かったら無理。降参。」という作品に巡り合ってしまうことがあります。『遥かなる家』は、そんな1本です。

しかも本作は、子供だけではなく、動物も活躍する!少年とラクダのツーショットの、何と絵になることか…!大画面の中で、大自然の中を進む、2頭のラクダと2人の少年。ああ、映画っていいなあ、と幸せをつくづく噛みしめる瞬間が何度も訪れます。兄弟は育った背景が異なる理由で仲が悪く、衝突を繰り返しながら旅を続ける様も微笑ましい。ほのぼのとしたペースで映画は展開します。

少年たちが困難に遭遇しながら前に進んでいく展開は、冒険ものの王道とも言えますが、本作の優れている点は、どこかファンタジーのような雰囲気を維持したまま、厳しい現実も同時に描いていくことです。たんに優れた少年モノものというレベルを超え(それでも十分に素晴らしいのですが)、時代を描く優れた映画へとスケールアップが成されています。

微笑ましい子供たちと並行して描かれるのは、数を減らしていく少数民族への焦りにも似た哀惜の念と、変わりゆく大地と変わらざるを得ない人々に対する悲痛な思いです。子供たちへの優しいまなざしは、現実に対する痛恨の思いの裏返しかもしれないし、そして未来への希望でもあるでしょう。

大画面に映えるスケールの大きい映像と、惹き込まれずにはいられない子供たちの魅力、そして抗うことの出来ない現実を直視する姿勢、これらが見事に一体となり、観る者の心を強く揺さぶる逸品です。

〇『紙の月』 (日本)

コンペ作品紹介、全15本の最後の作品は、日本の『紙の月』です。この作品をコンペ部門にお迎えできることは、映画祭にとって(もちろん僕にとって)今年最もエキサイティングなことのひとつです。松竹というメジャーの会社による、冬の勝負作とも言える大作をコンペで上映できることは、長年の夢がひとつ叶ったという思いでもあります。

日本映画はとかく外国の映画祭に行きがちですが(海外で話題になりたいという気持ちはとてもとても理解できる)、やはり期待の勝負作を、おひざ元のトウキョウのメイン部門であるコンペティションでプレミア上映する、という形が本来求める姿であるはずで、今回の『紙の月』の参加がついにそのブレイクスルーとなり、今後の映画祭と日本映画との付き合い方に大きく影響を与えていくと思っています。

が、しかし松竹のメジャー作品だから選んだ、ということではもちろんありません。僕が注目していたのは吉田大八監督で、吉田監督の新作をお迎えしたいという思いはかねてより強かったのです。処女長編『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07)をカンヌで見たとき、誰だこの監督は!とびっくりしたものですが、『クヒオ大佐』(09)の大胆さに驚きつつ、『パーマネント野ばら』(10)で監督に対する想いは決定的になったのでした。

先日吉田監督にお会いして少しお話を伺ったのですが、女性の描き方が上手い、というのは指摘されるほどには本人は意識していない、ということのようです。周りは監督の描く女性像をあれこれ分析してみせるけれど、監督としてはそれはなるほどねえ、という感じで受け止めるものの、事前に意識することはないとのことでした。そうなのだろうな、と思うものの、ここは映画祭中にも聞いていきたいところです。

吉田監督の作品には、「勘違いした女」が出てくる、というのが僕の「分析」です。『腑抜けども』の佐藤江梨子は自分に女優の才能があると勘違いしているし、嫁の永作博美は家族を手に入れたと勘違いしている。『クヒオ大佐』の女性たちは、騙されている時点で勘違いしているし、『野ばら』の菅野美穂は、勘違いが狂気にまで至ってしまう。しかし、彼女たちは、そんな行為にどこか自覚的であり、あえて「勘違い」することで心のすき間を埋めようとしている…。

そして、宮沢りえさん。そんな吉田的「勘違いした女」の系譜に連なるのかどうか。それは見てのお楽しみで、実に見事な演技で映画を牽引します。もはや大女優の道を確実に歩んでいるかのような風格を備え、大胆な行為に走りつつ危うく脆い一面を持つ複雑なキャラクターを見事に演じきって、素晴らしいの一言。

映画版『紙の月』は、原作から大幅に構成を変えており、『桐島、部活やめるってよ』もそうでしたが、原作を映画的に脚色する際の抜群のセンスが吉田監督の持ち味でもあります。このあたりの工夫の仕方について、映画祭Q&Aの場などで是非聞いてみたいですね。とにかく、原作を読んでいても、NHKのドラマを見ていても、映画『紙の月』は全く新鮮な物語として見ることが出来るので、是非期待して頂きたい。

共演の役者陣も見事で、池松壮亮さんはその自然体の演技がますます冴えており、小林聡美さんは実に怖い(あのような銀行員の先輩、確かにいた。辛い記憶がよみがえった…)。大島優子さんについて僕はほとんど知識がないのだけれど、演技の上手さにびっくり。もちろん本人の実力であることは疑いようがないけれども、吉田監督がフィルモグラフィーを通じて、女優の素晴らしい演技を引き出していることもまた事実であって、映画祭ではその秘密にも迫ってみたい!

『紙の月』をコンペティションにお迎えすることができ、本当に興奮します。この興奮を観客のみなさんとも共有することにさらに興奮する!

ということで、コンペの15本でした。長文になってしまった!各作品の魅力や見どころが少しでも伝わったらいいのですが…。一本でも多く、観客の胸に響く作品がありますように。良き出会いがありますように!
《矢田部吉彦》

関連記事

特集

【注目の記事】[PR]

特集

page top