【MOVIEブログ】2015カンヌ映画祭 Day9

21日、木曜日。7時に起きて窓を開けると、雨だ! 好天続きだった今年のカンヌ、ついに雨。朝のルーティーンをこなして外に出ると、かなり涼しい。

最新ニュース
carol
  • carol
21日、木曜日。7時に起きて窓を開けると、雨だ! 好天続きだった今年のカンヌ、ついに雨。朝のルーティーンをこなして外に出ると、かなり涼しい。

9時半から、業界紙のコンペ作品を対象にした星取表の点数が今日までのところ最高である、トッド・ヘインズ監督新作『CAROL』(写真)の上映へ。かなり混むだろうと見込んで8時に会場に行き、問題なく入場できたけれど、列は数ブロック先まで延びていたらしい。早起きは三文の得。

『CAROL』はパトリシア・ハイスミスの小説の映画化で、未だ保守的な1950年代のアメリカを舞台に、美しい人妻とデパートの女性店員の愛を描く物語。人妻にケイト・ブランシェット、若い女性店員にルーニー・マーラー。

昨日のソレンティーノの『YOUTH』も圧巻だったけれど、ヘインズの『CAROL』も叫び出したくなるような完璧な傑作だった。全編を通してエドワード・ホッパーであり、ダグラス・サークだ。画面の隅々まで、いや、画面の外まで作りこまれた美術の素晴らしさ、衣装の美しさ、あらゆるコマ(フレーム)がアートになっている至福の映像。

あまりにも、あまりにも素晴らしいケイト・ブランシェット。ダグラス・サークへのオマージュに満ちた極上のメロドラマ。これ以上映画に望むことはない。完璧。

足元がふらつくくらい集中したので、ヨレヨレと外に出て、今回のカンヌで最後のミーティングを1件。今年は同僚との手分けがうまくいったみたいで、総合するとかなりの数の会社とミーティングが出来たみたい。よかった。これから結果を出さないといけないですけどね。

14時から「ある視点」部門のメキシコ映画で『The Chosen Ones』。恋人になるふりをして、相手の女性を家業である売春宿に送り込まねばならない青年の苦悩と、被害にあう女性たちの悲惨さを描く物語。売春現場を露悪的に描くことは避け、無慈悲な状況に抗えない悲痛な感情に焦点を当てる演出に好感が持てる。過不足のない佳作。

16時半から、同じく「ある視点」部門で、ルーマニアのコルネイユ・ポロンボイユ監督新作の『The Treasure』へ。上映前に映画祭ディレクターのティエリー・フレモー氏が、ここ10数年のルーマニア映画の躍進について言及し、改めてルーマニア・ニューウェーヴが健在であることを実感させられる。

ポロンボイユ監督は僕がトウキョウでいつか特集を組みたいと思っている監督のひとりで、長廻しのリアリズム演出を特徴とするルーマニア勢の流れを汲みながらも、どこか遊び心のある作風に魅かれている。本作は、これ見よがしなスタイルの強調は影を潜め、肩の力の抜けた好編に仕上がっていた。

祖父が埋めた宝物を掘り出したいという隣人の誘いに乗ってしまう男の物語で、こんなチャンスは一生に一度だとばかりに、なけなしの金をはたいて金属探知機を買い、隣人の実家の庭を掘り返す。本当にそんなウマイ話があるのか…? 楽ではない生活を送る市井の人々を描きながらも、展開の軽妙さがほどよく、監督がまだまだ進化過程にあることが分かって嬉しい1本。ポロンボイユ監督、これから充実期に突入の予感だ。

18時に上映終わり、ダメモトで18時半からの上映会場に向かうと、ものすごい長蛇の列。それもそのはず、上映されるのは今年のカンヌの待望作の一本である、ギャスパー・ノエ監督新作の『LOVE』。男性器のアップを配した過激なビジュアルポスターが憶測を呼び、あの恐るべき「アンファン・テリブル」のギャスパーがセックスをどう撮るのか(しかも3D!)、注目が集まらないわけがない。昨夜のミッドナイト上映がワールドプレミアで、まだ評判が耳に届いてないのだけれど、さてどうだろう。

パリの映画学校に通う監督志望のアメリカ人青年が、無責任な行動の果てに失ってしまった愛の大きさに気づいて苦しむ物語。「自分がいつか撮りたい映画は、センチメンタルなセックス映画だ」と劇中に主人公が発する言葉が、そのまま本作のジャンルを言い表している。自己中心で身勝手で粗暴な主人公に共感は出来ないのだけれど、彼の執拗に女々しい「センチメンタルな」独白と回想に、強引に引きこまれていく。

回想をさかのぼっていく展開は、あの恐ろしくも美しい『アレックス』を彷彿とさせる。セックス描写は、意外にまともというか、スキャンダラスな変態描写があるわけではなく、局部が露出するものの、あくまでまともな性行為の延長線上にある。って、何を冷静に書いているのだということだけれど、ギャスパー作品に見られる確信犯的で過激な衝撃は無く、物足りないと言うべきか、ギャスパーも深化したと言うべきか。『YOUTH』と『CAROL』で堪能した映像的カタルシスを覚えることはなかった…。

上映終わって、21時。宿に戻って蝶ネクタイを締めて、コンペのホウ・シャオシェン監督新作の『The Assassin』へ。ホウ・シャオシェンが武侠映画を初めて手掛けるということで、数年前から話題に上っていた作品。主演にスー・チーと、チャン・チェン。『百年恋歌』で、スクリーンに極上の光を放ったコンビだ。

ホウ・シャオシェンが商業チャンバラ映画を撮るはずもなく、武侠ものと謳ってはいるものの、極めて純度の高いアート作品。美しい作品であることは間違いないのだけれど、小規模会場の大スクリーンで味わうべき作品であり、大会場の後方の席から見える小さいスクリーンでの鑑賞はいささか無理があった…。しかもかなり強度の催眠効果を備えた作品で、これは再度見なくては。ということで、感想は保留。

とても重要な作品の感想を保留してしまう自分の至らなさを痛感しつつ、ヘビー級が続いた本日は疲労困憊。眠気には勝てず、このままダウンです。おやすみなさい。
《矢田部吉彦》

関連ニュース

特集

page top