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【MOVIEブログ】2016カンヌ映画祭 Day5

15日、日曜日。前夜3時半就寝の6時半起床でも、きっちり目が覚める映画祭出張モード。不思議だ…。東京でもいつもこうだといいのになあ。

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"Raw" Julia Ducournau "Raw" Julia Ducournau
15日、日曜日。前夜3時半就寝の6時半起床でも、きっちり目が覚める映画祭出張モード。不思議だ…。東京でもいつもこうだといいのになあ。

8時半からのコンペ上映を見るべく1時間前に入場し、ニコール・ガルシア監督新作の『From the Land of the Moon』から本日は開始。50年代の南仏を舞台に、美しい画面とクラシカルな品格を備えた愛の物語。ほぼ出ずっぱりのマリオン・コティアールを堪能する作品、かな。僕は『サンドラの週末』以来彼女に傾倒気味なので(遅いよ)、これはこれでよしとする。

続いて11時15分から「ある視点」部門で『Dogs』というルーマニアの新人監督による作品。ルーマニアへの期待については「カンヌ予習」ブログに書いた通りで、今作もとても楽しみにしていた1本だけれど、しかし、残念ながら不発だった! 祖父から広大な土地を相続した都会暮らしの青年が、その土地を売ろうとしたことで地元民との危険なトラブルに巻き込まれていく物語。

丁寧な長廻しと、極端な省略を併用するスタイルを目指しているのは分かるのだけれど(実際に良いシーンも少なくない)、省略の部分がかなり乱暴で、途中から全く話がわからなくなってしまった。いや、思い返せば「あれはああいうことか」と考えることも出来るのだけれど、見ている最中は置いてきぼりをくらっている気分になるばかりで、省略が上手さに繋がっていない。先日見たトルコ映画の『Album』も同様で、省略の多用でセンスをアピールしようとするのは、とても危険な賭けだと思わざるを得ない。「作家性」の獲得は、かくも難しいものなのだ…。

13時から17時半まで、今日は午後中ミーティング。ちなみに本日の天気は素晴らしく、ピーカンで気温も上がり、ついにリゾート地らしい天気になった! ミーティング会場のはしごも、太陽を思いっきり浴びられるので嬉しい。もうかれこれ10年以上夏休みがないので(と年に1度はこのブログでぼやいている気がする)、カンヌの初夏の太陽で一年分の光合成をするのだ…。

ところで、カンヌも序盤を終わったということで、有力業界紙「スクリーン・インターナショナル」のコンペの星取表(批評家たちが点数を付けている)の途中経過を書いておくと、4点満点中ダントツの平均点3.8点を獲得して首位を独走しているのが、ドイツのマーレン・アーデ監督の『Toni Erdman』。評者12人のうち9人が満点で、平均3.8点とは、これはもうべらぼうに高い。こんなこと過去にあっただろうか? と思ったら、同紙史上最高点を更新したそうな。おお。そしてこの作品を僕は見逃しているので、まさに地団駄を踏む思い。絶対に後半戦で見るようにしよう。

さて、18時に上映に戻り、「批評家週間」部門の『Raw』(写真)というフランスの女性監督の長編デビュー作へ。これが激烈に面白かった! 極力内容に触れたくないのだけど、少しだけ書くと、獣医の大学に通うベジタリアンの女子学生が、上級生の手荒い歓迎を受けて肉の味を覚え、やがて…、というもの。

血みどろホラーとも、サイコスリラーとも呼べなくもないのだけど、基本は成長とアイデンティティーに関する真面目な青春ドラマ(いや、これも違うか…)。家族愛の映画でもある(たぶん)。ジャンルものでありつつ、低予算なB級感は皆無で、ルックはきちんと予算をかけたアート・ムービーというギャップの作り方が、とことん上手い。奇天烈でショッキングな描写の連続には目を覆わずにはいられず、場内からは爆笑と悲鳴が同時多発して、もう大変な騒ぎ! ジュリア・デュクルノー監督、ジャンル特有のお約束事の中にも、新感覚を挟み込んでくる。いやあ、これはすごいセンスの持ち主だ。カメラ・ドール(カンヌの部門を横断した新人賞)、可能性あるんじゃないか?

これは日本でも必ずウケるはずだと思うのだけれど、単なるホラーではないので、逆にマーケティングがしづらいのではないかとの映画会社の方の懸念も耳にしたりして、んー、なるほどと思ったり。公開が難しいのなら映画祭でやりたい! 苦情が来るかな??

すげー、と興奮しながらホテルに戻り、1時間ほどパソコン仕事。21時過ぎにまた外に出て、「ある視点」部門のイスラエル映画で、エラン・コリリン監督新作『Beyond the Mountain and Hills』へ。軍を引退した父、高校教師の母、そして人権活動に関心を示す高校生の娘の3者が、それぞれの試練に直面する模様を描くドラマ。

『迷子の警察音楽隊』のコリリン監督らしく、淀みない物語進行や、緊張と緩和でユーモアを作るセンス、そして深いテーマを深刻になり過ぎずに描く力量も健在で、きちんとした佳作に仕上がっている。ただ、それぞれのエピソードに少し無理がある箇所も見えてしまい、そして小さくまとまってしまったきらいもあるので、佳作止まりなのが残念かな…。

上映終わって0時。ホテル戻ってこれ書いて、まだ1時半だ。今日は早く寝よう!
《矢田部吉彦》

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