【MOVIEブログ】2018ベルリン映画祭 Day3

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『Dovlatov』
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17日、土曜日。6時起床、毎朝のルーティーンをこなして外へ。曇り、それほど寒くはない。パキパキに冷えている朝が好きなので、少し拍子抜け。

毎朝9時からメイン会場でコンペのプレス試写があり、プレス優先だけれどもマーケットパス保有者も遅れて入場ができる。それでも8時45分にはメイン会場に着いて並んでいたい。

問題なく入場でき、本日はロシア映画『Dovlatov』(写真)からスタート。僕はこのブログの「予習編」で、ロシアのセルゲイ・ドヴラートフは発禁処分を受けた作家と書いたけれども、これは大きな誤りだった。お詫びしつつ訂正したい。小説家志望のドヴラートフは、原稿がどの出版社にも受け入れられず、長年不遇をかこった作家だったのだ。

本作は、70年代初頭のレニングラードを舞台に、キャリアがどこにも向かわず、人生が足踏み状態にあるドヴラートフの数日を描いていく。友人たちと詩や文学談義を繰り返し、造船所の機関紙用に気が進まない原稿を書き、そして自分の芸術はどの出版社にも理解されず、ドヴラートフの日々は完全に停滞している。映画はその様子を丁寧に描き、主人公に合わせて「停滞」する。映画もどこにも向かわない。芸術的に妥協せず、その報いで足踏みする主人公を描く映画がドラマチックな展開に満ちていたら、それは自己矛盾というものだ。監督のアレクセイ・ゲルマンJrは、ドヴラートフと同様に妥協を排した演出に徹底し、日々の断片をストイックに綴っていく。

絶えることのない会話や、画面の隅々で起きる細かい出来事、そしてカオティックな集団描写は、いやでもゲルマン父の演出を彷彿とさせずにはいられない。しかし、父より演劇性が抑えられ、よりナチュラルな印象を与える。決して容易くはないけれど、とても見応えのある作品だ。

続けて、12時15分から同じメイン会場でコンペ作品『Transit』のプレス試写に並ぶ。しかしドイツ映画ということで地元の記者が多いからなのか、とてもプレスの数が多く、マーケットパスの入場はほぼ不可能になってしまった。45分並んだところで断念。例年はこの時間のプレス上映には入場できていたのに…。この枠でコンペ作品が見られないとなると、出張中に組んでいるスケジュールが狂ってしまうのでつらい。さて、明日からどうするべきか。

くよくよしてもしょうがないので気を取り直し、12時半から「パノラマ」部門の『Jibril』というドイツ映画を観ることにする。こういうときにこそ当たりが出るものさ、とうそぶいてみたものの、人生はそんなに甘くはない。3人の娘を育てるシングルマザーが、ひょんなことから刑務所の服役中の青年と恋に落ちる様をリアリズム演出で見せるもので、僕には物語が無茶にしか思えず、全く乗れなかった。

14時に会場を出て、モールの大好きなソーセージ屋さんに行ってみると、お気に入りのメニューが品切れだとのこと。んー、ちょっと今日はツキがないか?

14時半から17時までマーケット会場でミーティング。週末がピークとなるマーケットは多くの人で賑わっている。

ミーティングを4件済ませ、17時半に上映に戻り、「フォーラム部門」の『Mariphasa』というポルトガル映画へ。監督のサンドロ・アギラールはミゲル・ゴメス監督の『熱波』や『アラビアン・ナイト』などのプロデューサーとして有名だ。自らの監督作となる今作では、アート映画のひとつの極北を描いてみせた。

夜間警備員の仕事に就く男がいて、そのほかに幾人かの男女と、子どもがいる。建物の中で家族と思われる面々が何かに取り組んでいる。亡くなった女性の話題が出る。そして犬が吠え続ける。それ以外は、ほとんど何も分からない。というのも、ほぼ全てのシーンが夜の闇の中で進行し、影になった人物の顔のシルエットが浮かぶ以外は、誰が何を何の目的で行っているのかが全く見えず、分からない。ひとつの物語が進行はしているのだろうけれど、映画に映るのは影になった断片ばかり。不条理劇とはまた違う。たぶん物語はある。ともかく何も見えないのだ。

不穏なショットが一定のリズムを刻んで積み重なり、家族のダークな闇の世界が垣間見える。映画に対する監督の挑戦的な美学に貫かれたメガ級の難解作だ。相当な数の観客が途中で退場して行ったけれど、解読に必死だった僕は退場する暇もない。呆然としながら終わりを迎えることになった。まったく、ベルリンのフォーラム部門はとんでもない部門だ。そして、ペドロ・コスタ、ミゲル・ゴメス、さらにこのサンドロ・アギラールを擁する現代ポルトガル映画に改めてきちんと向かい合わないといけないと痛感させられる…。

不意打ちの刺激に心身を痛めつけられながらよろよろと会場を移動し、19時15分から「フォーラム部門」でフランスのクレール・シモン監督新作『Young Solitude』へ。クレール・シモンはドキュメンタリーとフィクションの境界を曖昧にさせる作品を発表してきている貴重な存在で、最近ではフランスの有名な映画学校であるFEMISの受験の様子を追った『Le Concours』(16)が滅法面白かった(実を言うと東京国際映画祭での上映をギリギリまで検討した)。

今作は、十数人の高校生たちが自分の家族の話や、悩みや、将来への不安などを友人たちと語り合う様子を描くドキュメンタリーの形を取っている。しかし実際には、高校生たちに事前にインタビューした監督が話の内容に衝撃を受け、改めて自分の身の上話を友人同士の会話の中で語りなおす(つまり演じる)という演出で撮ったとのことらしい。様々な背景を持つ高校生たちの話は確かに痛切であり、そして演出のアプローチもとても面白い。さらに、日本の高校生がこれを見たらどのような感想を持つだろうかと考えずにはいられない…。

Q&Aを途中まで聞いてから退出し、ベーグル・サンドイッチを買って飲み込ながらメイン会場に移動して、22時からのコンペ公式上映(チケットを取ってあるので入れないリスクはない)で、ブノワ・ジャコ監督新作『Eva』へ。

上映前に、ジャコ監督に続き、主演のイザベル・ユペール、ガスパール・ウリエル、ジュリア・ロイが入場。プロデューサーのリュック・ベッソンも一緒にいる。イザベル・ユペールはパンツスーツ姿で今日も実にカッコいい!

作品は、ジャコ監督の広い空間の使い方が相変わらず個性的で優雅だ…。

とここまで書いて、本日は力尽きてしまった。上映終わって0時に戻り、早めにブログを書き始めたのはいいけれど、暴力的な睡魔に抗えなくなってしまった…。『Eva』の感想は後日に回すことにして、本日は2時前にダウンします!
《矢田部吉彦》

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