【MOVIEブログ】2018ベルリン映画祭 Day7

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『Pig』
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21日、水曜日。映画祭もそろそろ終盤。6時半起床。昨夜は早々にダウンしたおかげで6時間寝られたので、気分は爽快。本日も晴れ、朝の気温は0度くらいかな。気持ちの良い朝。

9時からコンペ部門のマスコミ試写で本日もスタート。見たのは、ドイツのフィリップ・グレーニング監督新作『My Brother’s Name is Robert and He is an Idiot』。

ハイティーンの双子の男女が自然の中で戯れる様を描くアート作品で、冒頭数秒から嫌な予感がしたのだけど、残念ながらその予感を上回るしんどい時間になってしまった。夏の日差しが照り付ける中、ふたりは草むらで近親相関的な戯れに興じ、哲学的な会話を交わす。それが延々と3時間続く。

陽光の中のナチュラルな美しさを評価する人もいるかもしれないけれど、僕には監督のエゴの押しつけとしか感じられない。しかも3時間。これは拷問だ。「作家性」と「エゴ」を隔てるラインはとても細い。申し訳ないが、本作は後者だ。幼児的な戯れが不条理な悲劇へと暴走する展開には、ハネケあたりを引き合いに出すべきなのかもしれないけど、いや、分からない。もう他の人にまかせたい。

客席の3分の1は途中退場し、最後まで残った人々からはブーイング。ああ、くたびれた…。

気を取り直していったんホテルに戻り、所用をこなしてからショッピング・モールに赴き、お馴染みの店でソーセージとザワークラウトを頂く。上映に戻り、13時45分から「フォーラム部門」に出品のロシア映画『Victory Day』へ。カンヌの常連監督セルゲイ・ロズニツァ監督の新作で、今回は小品のドキュメンタリーだ。

小品とはいえ、とても刺激的で面白い。ロシアの戦没兵士墓地で第二次大戦の勝利記念日を祝う人たちの様子が映し出され、広い敷地のあちこちで、賑やかな音楽に合わせて市民が楽しそうに歌い踊っている。ただそれだけの内容で、市民たちは普通に幸せそうにしているだけなのだけれど、やがて、人びとの姿が不穏なものに見えてくる。無邪気に愛国に酔いしれる姿が怖くなってくるのだ。映画はただ映すだけで、表立って批判やジャッジはしない。しかしカメラはどうしても語ってしまう。そう、カメラは怖い。

さすがロズニッツァ、との思いを噛みしめながら、15時半からベネチア映画祭のプログラマーに会い、1時間ほどお茶をする。

16時半に上映に戻り、「ジェネレーション部門」(若者向け、あるいは若者が主題の作品を集めた部門)でデンマークの『Denmark』という作品へ。10代後半の男女のささやかな愛の物語で、手持ちカメラのインディー風味が程よく、感じのよい佳作。ただ、どうしてタイトルが『デンマーク』なのかはちょっと不明。

上映が終わり、少し時間があったので、会場の階段の踊り場にある映画本を販売しているコーナーに寄ってみる。そこでいつも衝動買いをしてしまうのだけれど、今日も分厚い(本文750頁!)オーソン・ウェルズ本を買ってしまった。嬉しいけど、とても重い。

19時から、メイン会場でコンペのイラン映画『Pig』(写真)へ。従来のイラン映画のイメージを覆すような派手なブラック・コメディ。映画製作がままならず、フラストレーションを溜め込んでいる映画監督が主人公で、自分のミューズ女優が他の監督の作品に出演することに嫉妬を爆発させている。そんな彼の周辺で映画監督を標的にした連続殺人事件が起きる…、という物語。

映画ファンには嬉しい設定だし、程よくバカバカしく、程よくバイオレエントで、結構笑える。本作の監督のマニ・ハギギ監督も劇中でちゃんと殺されたりして、見ていて楽しい作品だ。でも、娯楽映画の体ではあるものの、監督の活動を国が制限するブラックリストの存在が明らかにされてドキリとするし、そもそも映画監督が殺される設定自体が現在のイランの表現の自由に対するハギギ監督の痛烈なメッセージであるはずで、そうそう能天気に喜んで見ているばかりではいられない。

イラン国内の公開に支障がないといいのだけれど、どうだろう。ミューズ女優役にはレイラ・ハタミ。相変わらず猛烈に美しい。

上映が終わり、場内は大喝采。時計を見ると20時57分なので、後ろ髪引かれる思いで会場を飛び出し、ダッシュで別会場へ。21時からの「フォーラム部門」の『The Chaotic Life of Nada Kadic』というボスニア・ヘルツェゴヴィナの作品にぎりぎり間に合う。

著しく落ち着きのない幼女を抱えて奮闘するシングルマザーの姿を描く作品。登場するのは実際の母娘であり、母役の女優は本作の共同脚本家でもあるという。まったく言うこと聞かない幼女は自閉症の疑いがあるとされるものの、まだ幼過ぎるという理由で医者が診断書を書いてくれない。医者の勧めでセラピーに通わせるが、高いセラピー代の補助を国に申請しても、診断書がないという理由で却下されてしまう。出かけるのにとても時間がかかってしまうため、常に保育園に預ける時間に遅れてしまい、母親はいつも苦情を言われる…。

こんな厳しい現実に関わらず、終始母親が驚異的な忍耐力を発揮して、優しくユーモアをもって娘に接するので、こちらの胸は暖かくなる。こんな忍耐力が現実にあり得るのだろうかと思ってしまうほどなのだけれど、実際の母子のやり取りでもあるので感嘆するしかない。そのようなドキュメンタリー要素を含み、後半はサラエヴォからボスニア地方に向かうロードムービーにもなったりして、小品ながらもとても素敵な作品だ。今年も「フォーラム部門」はとてもいい。

22時半に上映が終わり、少しQ&Aを聞いてから、ホテルへ。朝の1本目の作品に対するコメントがひどくなり過ぎないように注意しながらブログを書いて、ぼちぼち1時を回ったところ。本日も少し早めに寝られそう。ベルリン滞在もあと2日。寂しくなってきたけれど、残りも元気でがんばろう!
《矢田部吉彦》

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