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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭予習<コンペ編>

今年のカンヌ映画祭は例年より1週間ほど早い開催で、5月8日にスタートします。本年も注目作が目白押しですが、間近に迫った出張に備えて上映作品の予習をしてみます。

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今年のカンヌ映画祭は例年より1週間ほど早い開催で、5月8日にスタートします。本年も注目作が目白押しですが、間近に迫った出張に備えて上映作品の予習をしてみます。

以下の表記ですが、タイトルは原則英題ですが、一部原題を併記している作品もあります。カッコ内の国名は、製作国だと特定できないこともあるので、基本的に監督の出身国を書いてみました(一部不明な人もいますが)。

【コンペティション】
例年、有名監督がぞろりと並ぶオールスター的ラインアップが良くも悪くもカンヌのコンペティションでしたが、今年はかなり趣が変わったというか、若手を抜擢して大幅に新陳代謝が図られ、チャレンジングなセレクションになりました。常連が少し減り、次代を担うと目される監督が続々とコンペ入りしています。今年ほど世代交代を意識したセレクションは近年記憶にないほどです。カンヌ側の強い意欲が伺えます。

まずは全作品を並べます。21本です。

『Everybody Knows』 (イラン/アシュガー・ファルハディ)
『At War』(仏/ステファンヌ・ブリゼ)
『The Wild Pear Tree』(トルコ/ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)
『Ayka(The Little One)』(カザフスタン/セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ)
『Dogman』(伊/マッテオ・ガローネ)
『The Image Book』(仏/ジャン=リュック・ゴダール)
『Knife + Heart』(仏/ヤン・ゴンザレス)
『Asako I & II(寝ても覚めても)』(日本/濱口竜介)
『Sorry Angel』(仏/クリストフ・オノレ)
『Girls Of The Sun』(仏/Eva Husson)
『Ash is Purest White』(中国/ジャ・ジャンクー)
『Shoplifters(万引き家族)』(日本/是枝裕和)
『Capernaum』(レバノン/ナディーン・ラバキー)
『Burning』(韓国/イ・チャンドン)
『Blackkklansman』(米/スパイク・リー)
『Under the Silver Lake』(米/デヴィッド・ロバート・ミッチェル)
『3 Faces』(イラン/ジャファル・パナヒ)
『Cold War』(ポーランド/パヴェウ・パヴリコフスキ)
『Happy as Lazzaro』(伊/アリーチェ・ロルヴァケル)
『Summer(Leto)』(露/キリル・セレブレニコフ)
『Yomeddine』(エジプト/AB Shawky)

一般的な知名度がさほど高くない監督がいるかもしれません。いままでの巨匠限定高級秘密クラブの入会規約を緩和して、これから全盛期を迎える超期待の才能を続々と入会させ、クラブの若返りを図った感があります。またオールスター戦かよ、と揶揄する声も毎年聞かれていたカンヌコンペ、去年から変化のきざしはありましが、今年はついにここまでやったかとの印象です。

地域別に見ると、欧州からはフランス5本、イタリア2本、ポーランド1本。ロシア地域からはロシア1本、カザフスタン1本。アフリカ~中東からはイラン2本、トルコ1本、レバノン1本、エジプト1本。アジアからは日本2本、韓国1本、中国1本。アメリカ大陸からは米国2本。

西欧は仏伊の2国のみ、南米からはゼロである一方で、中東を含むアジアの存在が目立ちます。これは本当に例年にない分布で、アジア人としては嬉しい限りです。しかし、カンヌが国威発揚の場であることは否定できないものの、第一には個々の芸術家が集う場であることは言うまでもありません。以下、オープニング作品以降は、カンヌ公式HPに倣い、監督の苗字のアルファベット順で各タイトルをチェックしていきたいと思います。

なお、作品を見る前なので、あらすじ紹介は間違っている可能性もあり、その場合はご容赦を!

『Everybody Knows』 (イラン/アシュガー・ファルハディ)(写真)
南米系ゼロと書きましたが、イランのファルハディ監督新作はペネロペ・クルスとハビエル・バルデムが主演のスペイン語映画です。今年のカンヌのオープニング上映に位置づけられています。カンヌは初日からムンムン系(なんとなくラテン系のセクシー派に使いたくなる)になりそうだ!

ブエノスアイレス在住のスペイン人女性が、子供たちを連れてアルゼンチン人の夫とともにマドリッドに帰郷しようとし、その旅路で起きるトラブルを描く内容のよう。ああ、いかにもファルハディが得意にしそうな物語ですね。もちろん、妻がペネロペで夫がバルデム。家族の諍いを激しいセリフの応酬と驚きの展開で描いてきたファルハディが、ラテン系家族をどのように演出するのか、しょっぱなから注目です。

『At War』 (仏/ステファン・ブリゼ)
2015年に『ティエリー・トグルドーの憂鬱』でヴァンサン・ランドンに主演男優賞をもたらしたステファン・ブリゼ監督は、尊厳死を冷静に描いた『母の身終い』(12)、モーパッサンの代表作を鮮やかに映画化した『女の一生』(16)など、近年絶好調が続いています。今回も早い段階からカンヌコンペ入りは確実視されており、順当な結果になった印象です。

『At War』は、突然の工場閉鎖に対して労働者が抵抗する物語で、『ティエリー・ドグルドーの憂鬱』の系譜に連なる社会派作品なのだろうと予想されます。労働者の代表となって企業と戦う主人公にヴァンサン・ランドンが再び起用されていることからも共通点を探ってしまいますが(ただしランドンのブリゼ作品への出演は4回目)、毎回作風を変えてくるのがブリゼ流でもあるので、一筋縄では行かないでしょう。

『The Wild Pear Tree』(トルコ/ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)
今年のカンヌのラインアップが4月12日に発表されると、事前に予想されていた幾人かの大物監督の名前が無いことで業界に軽いどよめきが走りました。前作の『雪の轍』(14)でパルムドール(1等賞)を受賞したジェイランの名前もなく、僕はその時にちょうどイスタンブールに滞在していたので「なぜジェイランが入っていない?」のかトルコ人とおしゃべり出来たのは貴重な思い出になりました。「いやいや、まだ追加発表があるんじゃない?」と落ち着いている人も多く、果たしてその通りになり、数日後にジェイランの名前は無事コンペに入ることになったのでした。

新作は、父の借金に苦しむ作家志望の青年の物語とのことで、『雪の轍』が夫婦の物語であったのに対し、今回は濃密な父と息子のドラマが描かれるようです。今作も3時間8分の長尺ですが、ジェイランは映画の長さは小説のように自由であるべきだと考えている監督ですし、長さに必然性があるので見る側にとって問題にはなりません。しかし、カンヌはかつて2時間を超える作品にカットを要求したことがあると噂され、最初にジェイランが選ばれなかった時、映画の長さで揉めたのではないかと外野で邪推したものでした。

さて、『雪の轍』は美しいカッパドキアが重要な背景になっていましたが、今回の舞台はアナトリアの村としか分からず、具体的な土地は作品を見ないと分かりません。しかしどこであろうと、ジェイラン作品は常に曇天であるのが特徴で、毎回僕には登場人物がその曇天の中に囚われている印象を受けます。『スリー・モンキーズ』(08)、『昔々、アナトリアで』(11)、『雪の轍』を僕は勝手に「囚人3部作」と呼んでいるのですが、窒息しそうな閉塞感から生まれる心の動揺はジェイラン作品以外では経験できません。今作でも父子の葛藤がどのようなドラマを生むのか、そして2作連続パルムドールは果たしてあるのか、猛烈に楽しみです。

『Ayka』(カザフスタン/セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ)
ついに!! 監督第1作の『トルパン』がカンヌの「ある視点」部門で受賞し、その素晴らしさに感動した僕は東京国際映画祭のコンペに招待し、見事グランプリを受賞したのが2008年。あれからまさに10年。ドヴォルツェヴォイ監督が新しい作品に取り組んでいるという話は、本人からも含めて何年も前から聞いてはいたけれど、ついに完成した! 10年振りの2作目です。本当に、本当に待ち望みました。

今作の舞台はモスクワで、不法移民の女性が出産し、いったんは子どもを捨てるもののやがて取り戻そうする過程で社会の矛盾が次々に露呈していく物語とのこと。『トルパン』は雄大なステップを舞台にした遊牧民家族の物語でしたが、今作は都会に生きるキルギスタン移民を通じて現代の格差社会の暗部を描いているようです。

ヒロインを演じる女性は、なんと10年前の『トルパン』に出演していた少女だとのこと! 長い年月をかけて丁寧に作り上げた作品がどのような出来栄えであるのか、今年のカンヌで僕が最も縁を感じる1本でもあり、最も期待を寄せる1本です。

『Dogman』 (伊/マッテオ・ガローネ)
『五日物語-3つの王国と3人の女』(15)以来3年振りとなるマッテオ・ガローネの新作。過去にカンヌでは『ゴモラ』(08)と『リアリティ』(12)で2度グランプリ(2等賞)を授賞しており、今回が4度目のコンペです。もはやイタリアを代表する監督のひとりと呼んでも過言ではないはずです。

本作は、犬のトリマーを職業にする平凡だが善良な男が、刑務所から出所した粗野な友人に運命を狂わされてしまう物語とのことで、荒んだ郊外で暴力も大いに絡むらしい。おおっ、これは『ゴモラ』のタッチに戻るのか? 予告があったので見てみると、ああ、犬が…。

果たしてパルム・ドッグ候補になるのか(最高賞の「パルムドール」に引っ掛けて、公式上映作品の中で最も優れた犬に対して「パルム・ドッグ」という賞が存在する!)。かなりストレートで心わしづかみ系のドラマであるとの印象を予告から受けます。ガローネもカメレオン作家というか、毎回内容もタッチも変化する特異の才能なので、本当に楽しみな1本であります。

イタリアと言えば、ガローネと並ぶ存在であるパオロ・ソレンティーノ監督も新作のカンヌ入りが有力視されていましたが、今年は驚きの落選でした。近年の有力作がカンヌで受賞を逃し(僕も憤慨したものです)、ひょっとしたらソレンティーノがカンヌを避けたのか…。色々と邪推は止まりませんが、ソレンティーノについてはベネチアを楽しみにすることにしましょう。

『The Image Book』 (仏/J・L・ゴダール)
ゴダール御大、健在ですね。『さらば愛の言葉よ』(14)で審査員賞を若きグザヴィエ・ドランと分け合ったのは記憶に新しいですが、新作がまたもやカンヌコンペです。

「沈黙のみ、革命の歌のみ。5つの章からなる物語。手の5本の指のように」という紹介文が新作にはついていますが、ゴダールの言葉なのかどうかはわかりません(たぶんそうじゃないかな)。ドキュメンタリーやフィクションの映像を通じて2017年のアラブ世界を考察する作品、のようです。ゴダール特有のイメージのコラージュが浮かんできますが、現在のゴダールがどのように世界を見ているのか、やはり興味は尽きません。

ゴダールはイーストウッドと同い年のはずだから、この二人には永遠に頑張ってもらいたいですね。カンヌには登場しないでしょうが…。

ただ、今年は5月革命から50周年ということで、ひょっとしたら来るかもしれない? いや、そんな分かりやすい図式に乗るゴダールではないでしょう。念のために書いておくと、学生運動が猛威を振るった1968年の5月、映画祭に抗議をしてゴダールやトリュフォーらヌーヴェル・ヴァーグの監督たちがカンヌに乗り込み、結局その年の映画祭は中止に追い込まれたのでした(この場に立ち会っていた山田宏一氏の著作は必読中の必読!)。

ちなみに、その結果として、監督たちが中心となり映画祭から独立した形で翌年立ち上げたのが「監督週間」です。その後、「監督週間」が好評なことに焦った映画祭側が対抗して設立したのが「ある視点」部門であるというわけで、カンヌ的にも68年というのはとても重要な年であります。

『Knife + Heart』(仏/ヤン・ゴンザレス)
フランスのヤン・ゴンザレス監督は短編を多く作ったのち、長編1作目の『You and the Night』(13)がカンヌの批評家週間の特別枠で上映され、独創的で官能的な世界観が次代のアルモドバルかフランソワ・オゾンと評されていたようです。日本では『真夜中過ぎの出会い』というタイトルでアンスティチュ・フランセにて上映されているのですが、僕はいずれの機会も逃しており、恥ずかしながら今回までヤン・ゴンザレスという名を意識していませんでした。「カイエ・デュ・シネマ」誌界隈ではとっくに話題になっている存在であり、僕としては不勉強を猛省するばかりです。

長編2作目となる今回の『Knife + Heart』は、1979年のパリを舞台に、同性愛ポルノビデオの女性プロデューサーが、去ってしまった編集者であり恋人でもある女性を取り戻すべく野心的な作品を作ろうとするが、俳優のひとりが惨殺されてしまい、不可思議な事態に巻き込まれていく…、というのがあらすじ。

これ以上の情報が無いのですが、退廃的なエロスと血の予感がして心がざわつきますね。あらゆるフランス映画がカンヌを目指すという状況の中、高い競争率を乗り越えてコンペ入りしたという事実にはゴンザレス監督が今後のフランス映画を担う存在であるという意味も込められているはずで、ここは気合いを入れて臨もうと思います。

主演はヴァネッサ・パラディ。最近のパラディは作品選定の幅も広く、いずれの作品でも印象的な存在感を発揮しているので、本作の彼女も楽しみです。

『Asako I & II(寝ても覚めても)』 (日/濱口竜介)
濱口竜介監督、カンヌ初参加がコンペ! これは本当に偉業で、日本ではトップニュースで報道される価値があるはずです。是枝裕和監督が『ディスタンス』(01)で初カンヌ初コンペを実現していますが、日本では是枝監督以来ではないかな? その是枝監督とともにコンペに入るとは、本当に興奮する事態です。

濱口監督は震災後の東北で作品を撮り続けたり、プロ経験の無い俳優を起用して独自の人間洞察を表現したり、その真摯な姿勢と将来性を期待する声が後を絶たない存在であったので、今回の選出に喝采を叫ぶ人は多いはずです。ロカルノ映画祭で受賞した『ハッピーアワー』(15)で海外における評価を決定付け、その勢いに乗ったかのように次の作品がカンヌコンペ。もう我がことのように嬉しいです。

久しく、新しい名前が日本からカンヌに現れないと指摘されてきましたが、一昨年の深田晃司監督(『淵に立つ』)と今年の濱口竜介監督の飛躍は、新たな日本映画の姿を世界中に印象付けています。軽々しく「世界」という言葉を使っていますが、カンヌでは文字通り世界中からマスコミが集まり、そのほとんどはコンペ作品の報道を目的とするので、本当に「世界」が見ることになります。一夜明ければ、世界の映画人で「ハマグチ」という名前を知らない人はいなくなるでしょう。カンヌのコンペ入りするということは、そういうことです。

『寝ても覚めても』、僕はまだ見ていないのですが、新人の唐田えりかさんと東出昌大さんによる恋愛映画という知識しかありません。あえてそれ以上は情報を入れないようにして、素の状態で作品に向き合いたいと思っています。ああ、本当に、本当に心の底から楽しみにしています。

『Sorry Angel』 (仏/クリストフ・オノレ)
カンヌコンペは『愛のうた、パリ』(07)以来11年振りとなるクリストフ・オノレ監督新作です。正直に言うとオノレ監督は僕にとってあまり得意な監督ではないというか、いささかつかみどころのない印象があります。『愛のうた、パリ』で名声は確立しているのですが、ちょっと「トンデモ系」というか、監督の意図についていけないことがしばしばあることを白状しておきます。

近作で見ると、『Metamorphoses』(14)は神話的世界の中でジェンダー主題が縦横無尽に語られ、なるほど挑発的な知的遊戯ではあったのですが、どちらかと言えば珍品でした(いや、むしろド珍品でした)。前作の『Sophies Misfortune』(16)は縦長の独特なスクリーンサイズを用いて、わがまま放題の少女の人生を時代劇で描き、興味深くはあったのですがスタイルの独自性が先に来ていた印象が拭えません。

新作は、90年を背景に、20歳の青年と子持ちの中年男性作家との愛の物語のようです。フランス公開が近いので予告編を見ることが出来ますが、近過去へのノスタルジア風味を加え、悲恋が軽やかなタッチで綴られる様子が伝わってきます。予告編を見る限りではオーソドックスな作りなのですが、もはや想像があまり付かないですね。オノレ監督がオーソドックスであるわけがない!ということで、ある意味、最も楽しみな作品の1本かもしれません。

『Girls Of The Sun』 (仏/Eva Husson)
フランスのEva Husson(あえて表記するならエヴァ・ユソンかな)は、本作が長編2本目。彼女も初カンヌがコンペで、競争率が超厳しいフランス映画界において、快挙と呼べるはずです。ハマグチ、ゴンザレス、ユソン。やはりカンヌ攻めてますね。

ユソン監督は長編1作目となる前作『Bang Gang (A Modern Love Story)』がトロント映画祭で上映され、激しいセックスを中心にした若者の恋愛模様を描いた内容が話題になっていました。新作はがらりと趣を変えているようで、クルディスタンを舞台に、支配からの開放を目指して戦う戦闘先頭「太陽の少女たち」を率いる女性リーダーと、彼女を取材するフランス人女性記者の姿を描く内容とのこと。ヒロインには西アジアを代表する女優のひとりとして引っ張りだこのゴルシフテ・ファラハニ、そして記者役にエマニュエル・ベルコ。

昨年来、女性と映画や、女性監督と映画を巡る話題が様々な角度から盛んになっていますが、新進女性監督によるカンヌ初参加作品がタフな女性映画であり、審査員長がケイト・ブランシェットとなれば、本作は今年のカンヌの目玉となっていくかもしれません。しかと注目していきたいです。

『Ash is Purest White』 (中/ジャ・ジャンクー)
『山河ノスタルジア』(15)以来となる3年振りのジャ・ジャンクー新作も順調にコンペに入りました。『青の稲妻』(02)と『四川の歌』(08)がコンペ、ドキュメンタリーの『海上伝奇』(10)が「ある視点」部門、『罪の手ざわり』(13)がコンペ(脚本賞受賞)など、アジアを代表するカンヌ常連監督であることは改めて言うまでもないでしょう。

新作は、2001年から2017年へと至る愛の物語。チンピラ少年を愛した少女が、彼を守るために発砲して服役するが、出所後の少年の態度は冷たく、そして年月が流れて行く…。

ああ、ジャ・ジャンクー的な、広い空間と時空を感じさせる雄大なメロドラマを期待してしまうのは僕だけでしょうか…? とても楽しみです。主演はジャ・ジャンクー作品でお馴染みのチャオ・タオ(趙濤)、相手役は『薄氷の殺人』(14)でベルリンの主演男優賞を受賞したリャオ・ファン(廖凡)、フォン・シャオガン(馮小剛)も役者として出演しています。

『Shoplifters(万引き家族)』 (日/是枝裕和)
さきほど濱口監督を賞賛しましたが、是枝監督を軽視しているわけでは全くありません。それどころか、先日拝見する機会のあった今作は是枝監督の最高傑作であると僕は確信しています。これまでの作品の集大成を思わせるような内容に、是枝さんがこれを作って引退してしまうのではないかと心配になったほどです(次作の準備も進んでいるので全くそんなことは杞憂なのですが)。

是枝監督が描いてきた家族の物語が、不可能な家族の姿を通じて抽象的な高みに達しており、家族の概念を揺さぶりつつ人間の繋がりに希望を見出そうとする映画の願いが美術、照明、撮影、音楽、そして奇跡的な(という言葉を使いたくなるほど素晴らしい)配役によって伝わってくる。『誰も知らない』+『海街Diary』と言ったら単純化し過ぎでしょうか。是枝リアリズムのざらついた部分と、クリアなストーリーテラー的側面の両方が高度な次元で融合しています。これぞ総合芸術としての映画だと唸らずにいられません。

鑑賞中にすでに、本作は本気でパルムドール(1等賞)が狙えるのではないかと思ったほどです。カンヌの賞の予想は毎年外れたり当たったりですが、かれこれ20年近くカンヌコンペを見ているので、自分の勘も少しは信用してみたい気分になります(とはいえ、他に20本もあるのだよな…)。いや、賞が全てではないですが、掛け値なしの傑作にカンヌがどう反応するか、本当に楽しみです。

あ、書きたいことは山ほどあるのだけど、あとひとつだけ。安藤サクラと松岡茉優の共演はヤバいです。奇跡の共演です。二人がサシで向き合う場面は多くはありませんが、その数少ない場面では本当にすさまじい化学反応が起きてます。こう書いていて、動悸がしてきた(僕は彼女たちふたりを主演に『探偵はBarにいる』とか『まほろ駅前多田便利軒』の女性版のような、女性バディー映画が見たい!)。

繰り返しますが、『万引き家族』、今年のパルムドール候補に今から推します。

『Capernaum』(レバノン/ナディーン・ラバキー)
ナディーン・ラバキー監督は『キャラメル』(08)で一躍世界的にブレイクした存在です。カンヌ「監督週間」で上映されて話題をさらい、東京国際映画祭でも上映し、日本でも劇場公開されました。『キャラメル』は世界で最も有名なレバノン映画のひとつと呼ばれたほどで、それは今でもさほど変わらないかもしれません。

その後、『Where Do We Go Now?』(11)がカンヌ「ある視点」で上映され、レバノンにおけるデリケートな宗教問題をユーモアを交えて描いた内容が好評を博しています。女優としても活躍していて、例えば現代ノワールの逸品『友よ、さらばと言おう』(14)でヴァンサン・ランドンやジル・ルルーシュと共演していますね。

新作の『Capernaum』は7年振りの長編監督作であり、初めてのカンヌコンペ入りを果たしたことになります。中東の漁村を舞台に、親から生き方を押し付けられることに反発した子供が、親相手に訴訟を起こすという物語とのこと。おそらく寓話的に描かれると予想され、これはとても惹かれます。『キャラメル』を上回るインパクトを与えらるのかどうか、大いに期待したいです。

『Burning』(韓国/イ・チャンドン)
韓国の名匠イ・チャンドン監督も、コンペ入り濃厚の噂がしばらく前から聞こえていました。順当に選出されましたが、カンヌは脚本賞を受賞した『ポエトリー アグネスの詩』(10)以来ということになります。新作『Burning』は村上春樹の短編「納屋を焼く」の映画化ということでも日本で話題になっていますね。

しかし、何といっても本作の話題は主演がユ・アインと、スティーヴン・ユアンだということではないでしょうか! これだけで悶絶するおばさま(失礼)が続出だと思いますが、スティーヴン・ユアンと聞いてピンと来ない人!「ウォーキング・デッド」のグレンですよ!! って、今さら知らない人いないですね。『オクジャOkja』でそのチェックは済んでいますね。

そして同じく説明不要のユ・アイン。『ベテラン』(15)でファン・ジョンミンの向こうを張った悪役青年の存在感は見事でした。その年の香港で開催されたAsian Film Awardに来場したユ・アインを目撃したときは僕も興奮したものです。いやあ、めちゃめちゃ脚が長くてカッコよかったなあ。

もちろん、イ・チャンドン監督なので浮ついたところのない文芸映画になっていることが予想されるのですが、村上春樹の人気短編を名匠がいかに演出し、2大韓国系スターがいかなる存在感を発揮するのか、これは興味が尽きません。韓国人と日本人はカンヌで大騒ぎするはず!

『Blackkklansman』(米/スパイク・リー)
スパイク・リー! 僕は90年からゼロ年代にかけて熱狂的なファンでしたが、最近は少しご無沙汰している感があります。いや、ベルリンで『Shi-raq』(15)がありましたが、スパイク・リー映画を字幕なしで理解するのはなかなかハードルが高く、表面しかなぞれなかった悔いが残っています。

昨年は『Rodney King』(17)という、スパイク・リーが本領を発揮するはずの主題で作品を作っていますね。未見ですが、一人芝居でロドニー・キング殴打事件を再現する実験的な内容のようです(ネットフリックス作品で、今でも普通に見られるようなので、なるべく早く見るつもり)。

さかのぼって調べてみると、『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(1986)が「監督週間」、『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)、『ジャングル・フィーバー』(1991)がコンペ、『サマー・オブ・サム』(1999)が「監督週間」。以来多くの作品を手掛けながらもカンヌには選ばれていないので、今回が長編監督作としては19年振りの参加ということになります(正確に言えば、オムニバスの1本を監督とした『テン・ミニッツ・オールダー』で2002年に参加している)。

となると、いったいどういう内容なのだ! と気になりますが、タイトルを良くみれば「KKK」が含まれていることが分かるように、黒人差別を標榜する集団「KKK」を扱っています。黒人警察官が覆面捜査でKKKに潜入し、支部のヘッドに就任する…、という物語のようですが、実話ベースとのこと。主演のジョン・デビッド・ワシントンがデンゼル・ワシントンの息子のという点でも大注目です。どうやら『マルコムX』(92)に子役で出演していたらしい!

ああ、2018年にスパイク・リー。いまだに戦い続ける孤高の作家の存在に震えます。

『Under the Silver Lake』(米/デヴィッド・ロバート・ミッチェル)
『イット・フォローズ』(14)で世界中を狂喜させたデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が早くもカンヌコンペ入り! これも今年の嬉しいニュースのひとつです。『イット・フォローズ』は14年のカンヌ「批評家週間」に出品されて大いに話題になり、その後世界を席巻しました(その年の「批評家週間」の作品賞がウクライナの『ザ・トライブ』で、若手部門の「批評家週間」はコンペよりレベルが高いと言われたものです)。

セックスとブラック・ユーモアを交えた抜群のセンスで観客を震え上がらせた異色ホラー『イット・フォローズ』に続くとなると、かなりのプレッシャーだったのではないかと想像してしまいますが、コンペ入りしたということはそんな凡人の心配を軽々と吹き飛ばしたということなのでしょう。

新作はロサンゼルスを舞台に、失踪した女性の行方の捜査にとりつかれていく33歳の男性を巡る物語とのこと。主演はアンドリュー・ガーフィールド。シュールで混とんとしたLAのダークサイドに導かれる…とのことで、ああ、これ以上は情報を入れるまい。『イット・フォローズ』の熱狂の記憶がまだ人々に新しいこともあり、『レザボア・ドッグズ』のあとのタランティーノを待った時のような、『Under the Silver Lake』はカンヌで最も注目される1本になる予感がします。

『3 Faces』(イラン/ジャファル・パナヒ)
イランのジャファル・パナヒ監督は、政権と対立したかどで逮捕され、2010年から自宅拘留状態が続いています。各国の映画祭は本人が来られないことを承知の上であえてパナヒを招聘し、映画業界の精神的サポートを表明してきました。2011年のカンヌはパナヒを審査員として招聘し、欠席を余儀なくされた彼の席を壇上に用意しています。

しかしパナヒが並外れているのは、軟禁下においても作品を作り続け、そしてその作品の質が高いという点に尽きるでしょう。『人生タクシー』(15)が特殊な状況を描くエッセイ映画に終始せず、エンタメ性すら備えた映画として抜群に面白いということでベルリン映画祭の金熊賞(1等賞)を受賞したのは記憶に新しいところです。

新作はドキュメンタリーなのか、あるいはフェイクドキュなのかこの時点では判断できないのですが、パナヒ監督自身とイランのスター女優レイラ・ハタミが出演しています。レイラ・ハタミが、超保守的な家族から虐待を受けているので助けてほしいと訴える少女のビデオを入手し、パナヒ監督にビデオの真偽の判断を相談した上で、ともにその少女が暮らす北西部の山村を訪ねる…、という内容のようです。これほど興味を惹かれる内容もないだろうと思うくらい、惹かれます。またまた超必見。

『Cold War』(ポーランド/パヴェウ・パヴリコフスキ)
シャープにして繊細、極上の映像美で溢れた『イーダ』(13)は映画ファンの熱狂を集め、世界中の映画祭を席巻し、ついにはアカデミー賞の外国語映画賞を受賞するまでに至ったのは周知のとおり。英国をベースに活動しているポーランド出身のパヴェウ・パヴリコフスキ監督は、日本でも『マイ・サマー・オブ・ラブ』(04)や『イリュージョン』(11)などが紹介されているように既にキャリアを確立していますが、『イーダ』で世界的な大ブレイクを果たしたと言っても間違いではないでしょう。そして切望された新作が初のカンヌ選出となりました。

新作は、タイトル通り50年代の東西冷戦下の時代を背景に、自由を奪われているポーランド人の男性音楽家と、奔放なフランス人の女性歌手との愛を描く内容であるとのこと。スチール写真を見ると、モノクロの画面に男女が寄り添っており、クラシカルな雰囲気を醸し出しています。『イーダ』の美しさを全世界が期待しているでしょうが、その美しさを徹底して深めるのか、それとも新機軸を見せるのか。絶対に見逃せません。

『Happy as Lazzaro』(伊/アリーチェ・ロルヴァケル)
イタリアの新星が連続でカンヌコンペ入りを果たしています。アリーチェ・ロルヴァケル監督の長編デビュー作『天空のからだ』(11)はカンヌ「監督週間」でプレミアされ、少女を主人公にした「瑞々しい」という表現がぴったりの秀作は直ちに話題を呼びました。妹のアルバ・ロルヴァケルは演技派女優としての地位をいち早く確立していましたが、その姉が実力を備えた映画監督であるという発見に、僕を含むイタリア映画ファンは興奮したのでした。

そして、アリーチェは2作目の『夏をゆく人々』(14)で早くもカンヌコンペ入りを果たしています。自伝的要素を含む家族の物語を政治的背景も交えて美しく語った演出はもはや成熟の域に達しており、見事グランプリ(2等賞)に輝きました。そして4年振り3作目の本作『Happy as Lazzaro』もカンヌコンペ入りし、アリーチェはいよいよイタリアの若手監督の第一人者として揺るぎない存在となった感があります。

本作は、人里離れた村で暮らす善良な農夫が、貴族の息子と友人になり、やがて自分が周囲から搾取されていることを理解していく物語とのことです。自然の中でドラマを紡ぐスタイルはアリーチェの特徴として定着していますが、3作目で初めて男性を主人公に据えており、どのような世界を見せてくれるのか、大いに注目されます。

『LETO(Summer)』(露/キリル・セレブレニコフ)
キリル・セレブレニコフ監督(69年生)は、ロシアで最も注目したい現代監督のひとりとして、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督(64年生)と並ぶ存在だと思っています。ただ、『父、帰る』(03)や『ラブレス』(17)などが順調に日本で公開されているズビャギンツェフと異なり、セレブレニコフ監督はまだあまり紹介されていません。幾度も東京国際映画祭での上映を検討しながら実現出来なかった僕としては、本当に慚愧の念に堪えません。

新作『『LETO(Summer)』が長編7本目となりますが、過去の作品はいずれも多くの映画祭で上映され、受賞しています。迫力と熱量を伴った作風は強烈で、ベネチアでコンペ入りした『Betrayal』では、冒頭から乗用車がバス停留所に突っ込んで吹っ飛ばす場面を長廻しで一気に撮って度肝を抜いてから、独特の愛のドラマが展開しました。カンヌ「ある視点」でプレミアされた前作『The Student』(16)は、宗教が巻き起こす現代の争いを狂信的な高校生が暴走する物語に象徴させる激烈な内容で、その年のカンヌのベストの1本だと思ったものでした(これをTIFFで上映しなかったことは一生悔いが残ります)。

そしてついに初のカンヌコンペとなった本作は、80年代初頭のソ連で活躍した、ヴィクトル・ツォイというインディー・ロック・スターの物語だそうです。おそらく監督がファンだったのだろうと思わせますが、ただの伝記映画で終わるはずもなく、いかにソ連時代を切り取っているのかが注目されます。

だがしかし。セレブレニコフ監督は彼が率いる劇団にまつわる詐欺容疑で当局に逮捕されてしまい、現在自宅拘束中の身になっています。カンヌに参加することができないのは確定的です。ロシアのアート業界はセレブレニコフの逮捕を不当と抗議しており、反プーチンの姿勢が影響したことは疑いようがないと言われています。思えば、『The Student』はあらゆる隠喩に満ちた作品であり、セレブレニコフの危機感を反映した作品でありました。パナヒと並び、政治的抑圧の犠牲になっているセレブレニコフを支援する姿勢がカンヌから伝わります。しかと見届けようと強く思います。

『Yomeddine』(米/AB Shawky)
ついに名前を初めて聞く監督が登場しました。少なくとも僕は聞いたことがないのですが、調べてみるとドキュメンタリーを撮ってきた監督で、今作がフィクション長編は1作目のようです。いったいどのような存在なのでしょうか?

Abu Bakr Shawkyというのがフルネームのようですが、あまり情報が見つかりません。ニューヨークを拠点に仕事をしているエジプト系オーストリア人で、2012年に現代エジプト社会を描くドキュメンタリーを製作しています。バラエティ誌によれば、多分に政治的メッセージを含んだドキュメンタリー短編も作っているとのことで、2011年のエジプトの革命の模様も映画に収めているようです。

今作の舞台もエジプト。人里離れたハンセン病療養所で育った男が妻に先立たれ、ついに療養所を出る決意をし、ロバに荷物を乗せて自分を療養所に放置した親を探す旅に出る…。という内容のようです。カンヌのディレクターであるティエリ・フレモー氏は、本作を評するにあたってイタリアン・ネオリアリズモに言及しています。さらに曰く、「本作はエジプトの深みに光を充てた、独創的で詩的な芸術品です。そして他の映画がそうであるように、自分とは何か、他者とは何か、そして世界とは何かについて、示唆を与えてくれるのです」。何しろ長編1作目がカンヌコンペに入るのは快挙中の快挙で、並の作品ではあるはずがないという期待がいやでも高まります。

長編1作目がカンヌコンペに入った最近の例としては『サウルの息子』(15)がありますね。グランプリ(2等賞)を受賞し、ついにはアカデミー賞外国語映画賞受賞に至ったのはご案内のとおり。果たして『Yomeddine』が同じ道を辿るかどうか、刮目して待て!

ふうー。以上、コンペ全21作品を紹介してみました。本当に、1本たりとも見逃せない作品ばかりです。そして、次代を担う才能が続々と入っていることに改めてゾクゾクします。例年と違う雰囲気のカンヌになるかもしれません!

次回は「特別上映」系を紹介します!
《矢田部吉彦》

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