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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭予習<「監督週間」編>

カンヌ映画祭作品予習の第4弾。「監督週間」部門です。

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カンヌ映画祭作品予習の第4弾。「監督週間」部門です。

【監督週間】
「監督週間」はカンヌ映画祭からは独立した事務局が運営している部門ですが、広義ではカンヌ映画祭の一部と呼んで差支えありません。つまり、「監督週間」に出品が叶えば、堂々とカンヌ映画祭に参加したと表明して大丈夫です。

今年は「監督週間」設立50周年の年に当たり、多くの映画人の登場が期待できそうです。マーティン・スコセッシ監督もそのひとりで、特別賞「黄金の馬車(キャロス・ドール)賞」を授与されることになっています。また、選定ディレクターのエデゥアール・ウィンズロップ氏の任期が今年で最後であり、今年の「監督週間」は特別な雰囲気に包まれることになりそうです。

今年の「監督週間」の長編は下記20本(ほかにも短編が数本ありますが割愛します)。

『Birds of Passage』(コロンビア/シロ・グエラ&クリスティナ・ガレゴ)
『Amin』(仏/フィリップ・フォコン)
『Carmen & Lola』(スペイン/Arantxa Echevarria)
『Climax』(仏/ギャスパー・ノエ)
『Buy Me A Gun』(メキシコ/フリオ・ヘルナンデス・コルドン)
『To the End of the World』(仏/ギヨーム・ニクルー)
『The Snatch Thief』(アルゼンチン/アグスティン・トスカノ)
『En Liberte』(仏/ピエール・サルバドリ)
『Treat Me Like Fire』(仏/マリー・モンジュ)
『Leave No Trace』(米/デブラ・グラニク)
『Los Silencios』(ブラジル/ベアトリズ・セニエ)
『The Pluto Moment』(中/シャン・ミン)
『Mandy』(カナダ/パノス・コスマトス)
『未来のミライ』(日/細田守)
『The World is Yours』(仏/ロマン・ガヴラス)
『Petra』(スペイン/ハイメ・ロザレス)
『Samouni Road』(イタリア/ステファノ・サヴォナ)
『The Load』(セルビア/オグンジェン・グラヴォニッチ)
『Dear Son』(チュニジア/モハメド・ベン・アッティア)
『Troppa grazia』(イタリア/ジャンニ・ザナシ)

おおっ、と驚く名前もありますね。フランス以外はラテン/南米勢が目立っているようですが、1本ずつチェックしてみましょう。

『Birds of Passage』(コロンビア/シーロ・ゲーラ&クリスティナ・ガジェゴ)(写真)
「監督週間」部門のオープニングを飾るのは、コロンビア映画の存在感を世界に知らしめた『彷徨える河』(15)のシーロ・ゲーラ監督とプロデューサーのクリスティナ・ガジェゴが共同監督として製作した新作『Birds of Passage』です。

『Birds of Passage』は、70年代のコロンビアを舞台に、ドラッグ取引の活発化が農家をビジネスに巻き込んでしまう状況下において、ある原住民一家が重要な役割を果たす、という物語のようです。濃密な映像の迫力で魅了した『彷徨える河』はカンヌで大評判となり、ついにはアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるに至りましたが、果たして新作は同様のインパクトを与えられるのか。「監督週間」もオープニングから注目度全開です。

『Amin』(仏/フィリップ・フォコン)
2015年の「監督週間」に選出されたフィリップ・フォコン監督の前作『Fatima』が大好評を博したのは記憶に新しいところです。『Fatima』は、フランスに住むアラブ系母娘の物語で、フランス語をあまり話せない移民一世の母と、フランス人同然に育った二世である娘たちと間のギャップを描き、感動的で肯定的な作品でした。カンヌの好評に次ぎ、フランスのアカデミー賞に当たるセザール賞で作品賞を受賞するに至ります。

新作『Amin』の主人公はセネガルからフランスに出稼ぎに来ている青年で、故郷に妻と子どもたちを残している。真面目に働く青年だったが、フランス人女性と関係を持ってしまう…、という物語のよう。関係を持つフランス人女性にエマニュエル・ドゥヴォス。前作に続く秀作が期待できるかどうか、移民をテーマに創作を続けるフォコン監督に注目です。

『Carmen & Lola』(スペイン/Arantxa Echevarria)
むむー、この監督の名前は読めない! アランシャ・エチェヴァリア、かな…。女性監督で、おそらく本作が長編1作目だと思われます。ふたりの女性の愛の物語ということしか分かりませんが、同性愛がタブー視されるロマ民族のコミュニティーが重要な背景になるようです。

『Climax』(仏/ギャスパー・ノエ)
出ました、ギャスパー・ノエ! 『Love 3D』(15)以来3年振りの新作。90年代を背景に、森の中の閉鎖された元寄宿校に20人を超える若者ダンサーが集まり、3日間に渡って踊りのリハーサルを行う。しかし最後の打ち上げで飲んだ酒に何者かがドラッグを混ぜたらしく、合宿の場はカオスと化し、彼らは天国と地獄を味わうことになる…、というのが紹介文。

ああ、爆音と欲望とトリップ映像の洪水なのだろうとの予感が巡ります。ギャスパー作品に説明は不要で、とにかく見るしかないですね。見るというか、体験するというか。

『Buy Me A Gun』(メキシコ/フリオ・ヘルナンデス・コルドン)
カンヌ初参加となるコルドン監督の『Buy Me A Gun』は、暴力と麻薬と売春がはびこる世界で自由を求めて戦う少女の物語、とのこと。かなり激しい内容になりそうです。

『To the End of the World』(仏/ギヨーム・ニクルー)
ジェラール・ドパルデューとイザベル・ユペールを迎えた『愛と死の谷』(15)がコンペで上映された実績を持つニクルー監督は、毎回作風ががらりと変わる実にユニークな作家で、オーソドックスに見えるドラマに実験的要素が入っていたり、著名な作家が本人を演じるフェイクドキュメンタリー的作品があったり、今回はどの手で来るだろうと楽しみにさせてくれる貴重な存在です。

そして新作は第一次インドシナ戦争前夜を描くドラマのようです。1945年のインドネシアにおいてフランス軍が攻撃を受け、目の前で死亡した兄の復讐にとり付かれる青年の運命が、現地女性との出会いによって変わっていく物語。主演はギャスパール・ウリエル、共演にドパルデューの名もあります。一見普通にも見えるあらすじですが、どのような仕掛けが施されているか、発見が非常に楽しみです。

『The Snatch Thief』(アルゼンチン/アグスティン・トスカノ)
トスカノ監督は2013年の処女長編『The Owners』がカンヌ「批評家週間」に選出されています。『The Owners』は屋敷に住むブルジョワ夫婦と労働者階級の使用人たちの関係を描く物語で、階級の存在や貧富の差という社会問題を深刻になり過ぎずに語る自然体のドラマ作りに好感が持てました。

5年振りとなる長編2作目の『The Snatch Thief』は、バイクでひったくり強盗を行う青年が老女を襲ってしまったことを後悔し、償おうとする。しかし彼の過去が邪魔をし、人生のやり直しは容易ではない…という物語。ティーザー映像があったので見てみたら、フルフェイスのヘルメットをかぶったバイクに乗っている青年が一瞬映るだけで映画の雰囲気は全然分からない。ともかく前作が良かったので、新作も必ずおさえねばと思います。

『En Liberte』(仏/ピエール・サルバドリ)
20年以上のキャリアはあるものの、カンヌは初参加となるピエール・サルバドリ監督新作『En Liberte!』は、主演にアデル・エネルを迎えています。エネルは殉職した刑事の未亡人を演じ、夫がヒーローではなく悪徳警官だったと知ってしまい、夫によって刑務所に送られた無実の男を救おうとする物語。

正統派からエキセントリックな役まで魅力的に演じるアデル・エネルはいまのフランス映画の最重要女優になりつつあり、彼女の出演作は自動的に見たくなります。フランス革命を描く話題の大作『Un peuple et son roi』(カンヌ出品がうわさされていたものの叶わず、仏は今秋公開)にも出演していますが、『En Liberte』は少し彼女のライトな側面が見られるとのことで、ファンとしては待ちきれません。

『Treat Me Like Fire(Joueurs)』(仏/マリー・モンジュ)
マリー・モンジュ監督による長編デビュー作。「監督週間」も果敢に新人を抜擢していますね。本作は、女が男に惹かれ、彼の主戦場であるパリの地下賭博の世界を発見する…、という物語とのこと。内容もさることながら、日本で7月公開予定の『リダウタブル(原題)』(17)でアンヌ・ヴィアゼムスキーを素敵に演じているスタシー・マルタン(英語読みならステイシー・マーティンだけどフランス人なので表記はどっちがいいのか悩むところ)が個人的にはとても楽しみ。

『Leave No Trace』(米/デブラ・グラニク)
ジェニファー・ローレンスの存在を世に一躍知らしめた『ウィンターズ・ボーン』(10)のデブラ・グラニク監督新作です。オレゴン州の広大な森の中で世間から隠れて生きてきた父親と13歳の娘が、ある出来事をきっかけに都会での暮らしを強いられ、それぞれの試練が描かれるドラマのよう。アカデミー賞にノミネートされるまでに至った『ウィンターズ・ボーン』以来、グラニク監督8年振りの長編監督作となるだけに、今作は大いに注目を集めそうです。

『Los Silencios』(ブラジル/ベアトリズ・セニエ)
ベアトリズ・セニエというブラジル監督の存在を僕は知りませんでしたが、2010年に『Bollywood Dream』という史上初となるブラジル・インド合作映画を手掛けたチャレンジングな姿勢の持ち主だそうで、『Los Silencios』は2本目の長編監督作です。

母親と二人のこどもが戦乱から逃げ、ブラジルとペルーとコロンビアの国境近くのアマゾン河に浮かぶ小さな島にたどり着くと、やがて戦死したと思われた父が現れる。果たして彼は亡霊なのかそれとも…、という物語。リアリズムタッチなのか、ジャンル映画風なのか、これは全く予想が付かないですが面白そうなのは確かで、ブラジルの気鋭の才能がとても気になります。

『The Pluto Moment』(中/シャン・ミン)
中国のシャン・ミン(章明)監督作品がカンヌ入りを果たしています。9本目の長編となる『The Pluto Moment』のポスタービジュアルには『冥王星時刻』という中国語題名が見えますが、シノプシスは簡潔に「映画と政治と都市と地方の関係についての作品」とだけあり、おそらく文化大革命が都市と地方の関係に与えた影響に触れているものと予想されます。

シャン監督は北京電影学院で教授を務め、中国インディペンデント映画にも関わりが深いことから(日本の「中国インディペンデント映画祭」でも過去作が上映されています)、かなり貴重な内容が期待できそうです。「監督週間」に中国映画が入るのも珍しい気がしますし、注目です。

『Mandy』(カナダ/パノス・コスマトス)
イタリア系カナダ人のコスマトス監督による2作目長編『Mandy』は、今年1月に開催されたアメリカのサンダンス映画祭で既に話題を呼んでいます。愛する女性を殺された男がカルト宗教集団に復讐する血みどろのジャンル映画、でいいのかな?なかなかすごそうです。プロデューサーがイライジャ・ウッド、主演がニコラス・ケイジ、共演にアンドレア・ライズボロー。これは日本公開も期待できるかも?

『未来のミライ』(日/細田守)
日本では7月20日公開予定の細田守監督新作、カンヌでワールド・プレミア!

『The World is Yours』(仏/ロマン・ガヴラス)
ロマン・ガヴラス監督はフランスのミュージシャンやラッパーのM.I.Aの激しいMVで知られ、ヴァンサン・カッセルを主演にした『Our Day Will Come』(10)で長編監督デビューを果たしています。ちなみに、父親はコスタ・ガヴラス監督。

新作『The World is Yours』は再びヴァンサン・カッセルを主役に、ドラッグ・ディーラーがスペインで失った金を取り戻そうとする物語であるとのこと。共演にイザベル・アジャーニ。かなりPV的でスタイリッシュな映像が予告編で見られますが、カンヌで目立つアート寄りの作品と一線を画する魅力を発揮するか、注目したいです。

『Petra』(スペイン/ハイメ・ロザレス)
スペインのハイメ・ロザレス監督は過去に『The Dream and the Silence』(12)が「監督週間」、『Beautiful Youth』(14)が「ある視点」に出品されるなど、カンヌに縁の深い監督です。『Beautiful Youth』はお金のためにポルノビデオに出演するカップルの物語で、都会の貧困の問題を冷静(というかむしろ冷淡)に語るスタイルが印象的でした。

ハネケとも比較されることがあるロザレス監督の新作『Petra』は、会ったことのない父親を探す旅に出る女性を描きますが、「監督週間」部門の選定ディレクターであるエドゥアール・ウェイントロップ氏によれば「非常に残酷で、スペイン映画としては類を見ない映像、偉大な作品!」であるとのこと。少し怖いですが、覚悟して臨みます。

『Samouni Road』(イタリア/ステファノ・サヴォナ)
ステファノ・サヴォナ監督は、クルドを巡る状況やアラブの春など社会派のドキュメンタリー作品を多く手がけている存在で、新作『Samouni Road』はパレスチナ・イスラエル問題を主題にしています。タイトルの「サムニ・ロード」とはガザ地区郊外の環状道路の名前で、道路名はもともとその地域に暮らしていた農家のサムニ家を由来にしています。

本作は2009年の戦闘の犠牲になったサムニ家の運命を描くドキュメンタリーで、回想場面がアニメーションで挿入される構成であるようです。むしろアニメーションが主体であるようにも見え、社会派アニメと呼べるかもしれません。これは必見の1本になりそうです。

『The Load』(セルビア/オグンジェン・グラヴォニッチ)
Ognjen というファーストネームの読み方が分からないのですが、グラヴォニッチ監督は過去にドキュメンタリー作品で多くの映画祭に参加しています。新作『The Load』は、ドキュメンタリーで取り上げた題材をフィクション映画化したもののようです。

1999年、NATOに雇われてトラックの運転手をしている男が、ある貨物を託されてコソボからベルグラードに向かう。戦争中の地にて、男はショートカットを試みるが…、という物語。選定ディレクターによれば「90年代のユーゴスラビア内戦下、恐怖を見せずに恐怖を描く、とてもとても強烈な作品」であるとのこと。ここまで言われると演出に興味を持たずにいられません。必見と思われます。

『Dear Son』(チュニジア/モハメド・ベン・アッティア)
チュニジアのアッティア監督は長編第1作の『Hedi』(16)がベルリン映画祭のコンペに入り、主演男優賞を受賞しています。底辺の暮らしで行き詰った青年の心情に迫る演出は見応えがあり、監督の才能を感じさせる出来栄えでした。2年振り2本目となる新作は、大切に育てた息子がシリアに向かったことを知った父親が、トルコに探しに出かける物語。選定ディレクターによれば「とてつもなく感動的」で、主演の俳優の演技は「圧倒的」であるそうです。期待しましょう。

『Troppa grazia』(イタリア/ジャンニ・ザナシ)
イタリアのザナシ監督による「完全に頭のいかれたコメディー」(選定ディレクター談)である『Troppa grazia』が「監督週間」部門のクロージング作品に選ばれています。あらすじは分からないのですが、主演がアルバ・ロルヴァケルとエリオ・ジェルマーノという嬉しいキャスト。アルバが出る映画は必ず見るので、本作も必ず見ます。

以上「監督週間」の各作品でした。記念の年ということもあるのか、とても充実していますね。ここでも新人の抜擢が目立ち、個性派、社会派、クセ者など多彩な監督たちが並びます。記念の年の盛り上がりを楽しみにすることにしましょう。

次回予習ブログの最終回は、「批評家週間」を見てみます!
《矢田部 吉彦》

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