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【MOVIEブログ】2018シドニー映画祭日記(下)

シドニー映画祭日記ブログ、後半戦!

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作品賞はパラグアイの『The Heiresses』
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シドニー映画祭日記ブログ、後半戦!

<6月12日>
12日、火曜日。午前中は部屋で仕事をしてから、12時のランチへ。午前中は雨。

審査員チームで送迎の車に乗り、シドニーのシンボルのひとつであるオペラハウス脇のレストランへ。ランチを取りながら、3時間のミーティングをすることになっている。ちょうどコンペの半分の6本を見終わったので、前半を振り返ろうというわけだ。

それぞれが前半を総括しながら、目下の自分のベスト3を挙げてみる。すると、みんなが同じ3本を挙げる。その3本の中の順位は微妙に異なるけれど、他の3本はほぼ検討圏外となったことになる。もっとも、比べる必要がなければ、それら圏外の3本も十分に面白く、審査というものは本当に難しい。

3時間の予定が1時間半で終了し、すっきりした気分でレストランを出ると、雨が上がって青空が広がっている! とても気持ちがいい。

ホテルに戻るのが少しもったいないので、周辺を1時間ほど散歩して、久しぶりの太陽とシドニーの街並みを楽しんでみる。

夜は、18時15分からコンペの『Wajib』を全員で鑑賞。パレスチナを舞台にした父と息子の物語。

上映が終わり、今宵は日本料理店へ。シドニーでも有名な店らしく、「Yoshi(僕のこと)のお墨付きがもらえるかどうか楽しみだよ」と周囲の人から言われていたので期待していた夜なのだ。高級感のある店で、上品な個室に15名程度が座り、おつまみ、お寿司、てんぷらなど、とても豪華。東京でも寿司やてんぷらを日常的に食べているわけではないし、とてもありがたく美味しく頂く。日本酒も美味しい。みんなも大満足で嬉しい(自分が招待したわけでもないのに)。

<6月13日>
13日、水曜日。午前中は部屋で仕事。

昼はホテルの横のレストランに入り、ひとりランチ。行儀悪いけど、食事しながらパソコン打つ。

それから部屋に戻って仕事をしていたら、時間を完全に勘違いしてしまい、審査員と監督との写真撮影に遅れてしまった。ごめんなさい。そのまま18時半からコンペ作品で『Aga』。ロシア北部の氷に覆われた辺境の地を舞台にした、ブルガリアの監督による作品。

上映後、今宵はフランス料理店でのディナー。とても有名な店であるらしく、広い店内が満席だ。案内されるがまま店の奥に進み、ひとつドアをくぐると、なんと小さい映画館が現れ、客席とスクリーンの間のスペースにレストランの机が並び、そこで食事をする演出になっている。これは素晴らしい!

スクリーンには赤いビロードのカーテンがかかっていて、部屋全体が赤い照明で統一されている。暗く赤い部屋。まるでデビッド・リンチの世界! とみなで興奮して頂く。

僕の隣にタイのペンネーク・ラッタナルアーン監督が座り、ここで会えると思わなかったのでびっくり。久しぶりの再会を祝し、監督の近況など詳しく伺う。

料理もとても美味しく、このお店は最高だ。毎晩、厳選されたシドニー店にゲストを連れて行く映画祭のホスピタリティーに感動する。

<6月14日>
14日、木曜日。本日は7時半起床。昨日ワインを飲み過ぎてしまったようで、体が重い。いかん。

そして、午前中は映画祭が用意してくれる観光ツアーに参加することにする。これまで観光行事に全く参加せず、自由時間は部屋にこもってばかりだったので、あまりに付き合いが悪いと思われるのもつまらないし、なんといっても天気が抜群にいいので参加することにした次第。

10時半にホテルを出て、地下鉄に乗って2駅目で降りると、オペラハウス脇のフェリー乗り場に着く。そこでフェリーに乗り、30分ほど内海を行く。冬とはいえ、そこはオーストラリア。真っ青な空と海は感動的だ。フェリーが着いた先は、マンレー・ビーチという場所で、これぞビーチ! というような美しい景色が広がっている。

参加したのは審査員数名と、監督たち。映画祭スタッフの青年について散歩道を歩き、気持ちの良い景色と空気を満喫する。1時間ほど歩き、ビーチ脇のスタンドで巨大なフィッシュ・アンド・チップスを頂いてから、フェリーに乗ってふたたびシドニー市内に向かい、ホテルに戻ったのが15時。目の保養になったし、大いに気分転換になったので、やはり行ってよかった。夏休みのない人生がかれこれ15年以上続いているので、美しい海が見られるのは心の底から嬉しいことだ…。

17時に審査員は集合し、カフェで昨日の作品を巡ってミーティング。

18時から本日の上映『Daughter of Mine』を鑑賞。産みと母と育ての母の間で揺れる少女を描くイタリア映画。

上映後、今宵はカジュアルなフュージョン料理。オーストラリアのビールはとても美味しい。審査員仲間のユエン・レスリーさんに勧められるまま、みなで痛飲。

<6月15日>
15日、金曜日。本日は夕方まで公式行事がないので、部屋で仕事。

昼はルームサービスで「和牛バーガー」を頼んでみる。30分ほど経ってから届いたそのバーガーは直径20cmほどある巨大なシロモノで、そしてこれがとても美味。付け合わせのポテトと、アボカドのディップも絶品だ。ルームサービスだけあって結構高いけど(3,000円くらい)、一度くらいはいいか。

ずっと仕事の映画をパソコンで見続けてから、18時にロビーへ。審査員で集合してメイン会場のステート・シアターへ向かい、今夜のコンペ作品へ。

見たのは、アメリカの『Leave No Trace』という作品。森の中で暮らすPTSDを抱える元軍人と娘の物語。

上映後、シドニーの有名なモニュメント「シドニー・ハーバー・ブリッジ」の美しいライティングを展望するレストランに行き、映画祭ディレクターのナシェン氏と審査員の交流ディナー。映画祭もいよいよ終わりに近づき、総括的な話も多くなる。そして、終わりが近づく寂しさも少し込み上げてくる。しかしながら、明日は2本鑑賞し、それから最終討議が待っている。センチメンタルになるのはまだまだ早いのだ。

この店は結構賑やかだったので、皆の会話が聞こえづらく、100%集中して聞いていないと英語ネイティブどうしの会話から脱落しがちな僕としてはなかなか試練の時間帯が続く。しかしまあ、ワインを1~2杯いただくとほとんど気にならなくなる(というか理解している気分になる?)のが不思議。

いや、英語力はまあどうでもよくて、それより自分がどれだけ言いたいことがあるかのほうがはるかに重要で、あまり言いたいことが浮かばない作品の感想をしゃべらなければいけないときが一番つらい。日本語だと、ごにょごにょとごまかしてしまうところだけど、英語で「どうだった?」とストレートに聞かれたときにクリアな返答が出来ないのは、日頃の自分の思考習慣に問題があると思わざるを得ない。Never late than never、ということで、もういい年なのだからと諦めず、ものごとに対する考え方を進化させていかねばと自分を戒める豪州の夜。

<6月16日>
16日、土曜日。午前中は部屋で仕事して、昼に劇場へ。コンペ鑑賞もいよいよ最終日。やはり寂しさが込み上げる…。

13時30分からパラグアイの『The Heiresses』。都市部のブルジョワ階級が没落する様を、1人の中年女性の独立の物語を通じて描く作品。

上映が終わり、映画祭の共有スペースでコーヒーを飲みながら少し意見交換する。市の建物のホールに設置されたこのHUBと呼ばれるスペースは毎晩交流パーティーの場となり、昼間も自由に使えるのでとても便利だ。

そして18時からコンペ作品最後の鑑賞となる12本目の作品は、スパイク・リー監督『Blackkklansman』。カンヌのコンペでプレミア上映され、是枝裕和監督の『万引き家族』に次ぐ2等賞のグランプリを受賞した作品。

上映終わって20時。今宵は、オーストラリアで尊敬される俳優であるブライアン・ブラウン氏とその妻で女優のレイチェル・ウォードさんご夫婦がご自宅に招いて下さったので、みなで出かける。ブライアン・ブラウン氏は、最近だと昨年の東京国際映画祭で上映した『スウィート・カントリー』の警察官役が印象的で、レイチェル・ウォードさんに至っては第2回(1987年)の東京で主演女優賞を受賞している!

夫妻はシドニー映画祭を訪れるゲストを招くパーティーを毎年開いているとのことで、ブライアンさんが言うには「映画祭に行くと、ホテルにチェックインしてQ&Aして、そのまま帰る、ということで終わることが多いので、交流の場を設けたいと思い、ウチで毎年パーティーすることにしたんです」とのこと。なんて素晴らしい方なのだろう!

シドニー中心部から車で30分ほど行ったところにご自宅はあり、海に下りられる庭を持つ素晴らしいロケーション。温かいモダンアート絵画が飾られる部屋の雰囲気が抜群に素敵で、気分はもうすっかりスターのお宅訪問。盛り上がらないわけがない!

招待客は60人ほどだろうか。アコースティックな3人バンドの演奏があったり、とても美味しいフィンガーフードが供されたり、なんともまあ贅沢な経験に興奮しながら、結局は審査員メンバーで集まっておしゃべり。やはりコンペ作品の関係者とは交流しづらいし、どうしても審査員で固まりがちになる。楽しいメンバーで本当に良かった。

23時くらいにお開きとなり、ホテルへ。

<6月17日>
17日、日曜日。少し寝坊して、朝食を抜いて、いざ会議へ。

10時から市の建物の一角にある部屋を会議室とし、審査員5人が集まって討議を開始する。とはいえ、全作品鑑賞後に集まって話しあっているし、中盤で長い会議も行ったし、おおよそお互いの考えはすでに共有している。前半でふるいに落とした作品もある。なので、イチから議論することは避け、話し合うべき作品名を確認するところからスタートする。審査員長のリネット・ウォルワースさんがとても上手に仕切ってくれる。

全員が改めて自分のトップ3を挙げた結果、5本の作品に絞られていることが確認される。いずれも予想されたタイトルで、困ったのは、全員がこの5本をそれなりに気に入っており、序列が付け難いということ。どの作品が受賞しても誰も文句はないという事態で、ぶつかり合いがない分、ここから絞るのがとても難しい。

これが、作品賞に加えて監督賞や審査員賞など複数の賞があれば、どの作品にどの賞が相応しいかという割り振りをすることが出来るのだけど、なにせシドニー映画祭は作品賞ひとつのみの一発勝負だ。しかも、惜しくも賞を逃した次点の作品に言及して敬意を示す「スペシャル・メンション」は設けないことを、初日の審査員顔合わせ時に確認し合っていた(これは映画祭の方針というよりは、基本的に審査員次第なのが映画祭業界の通例)。

5本から2本を落とすのに1時間かかり、3本に絞られてからがさらに難しい。そこから1時間が経過して2択となり、最終的に全員一致で作品賞が決定した。しばしば映画祭の審査員が「全員一致」と強調することがあるけれど、必ずしもそうでないことは僕も経験してきている。しかし、今回は正真正銘の全員一致だと断言しよう。

審査員が変われば授賞結果も変わるのは当たり前だけれども、審査員どうしが虚心坦懐に議論できるかによっても結果は変わるということが実感できる。つまり、映画祭サイドが審査員間の関係構築にどのような環境を用意するかによって、受賞結果は変わり得る。今回のシドニー出張で得たこの皮膚感覚の経験はとても貴重だ。

受賞したのはパラグアイの作品『The Heiresses』。独裁政権終了後のパラグアイにおいて、没落する支配者階級と、そこに甘んじながらもやがて自ら変化を選択するレズビアンの中年女性のドラマであり、作品の多面性と多様性が最終的に高く評価された。僕は1点だけ留保点があり、いささかインテリ向けで一般受けが難しいかもしれないことを指摘したけれども、そこは「作品賞(Best Picture)」をどう定義するかによる。そして専門家が集まっているとされる審査員による作品選出が深い考察の末の解釈に基づくことに、もとより異議があるはずもなく、僕も全員一致に加わった。

13時には会議が終わり、いったん解放。ホテルに戻って仕事の映画を見始めたものの、さすがに午前中に頭をフル回転させたので気持ちが切り替わらない。しょうがないので、珍しくバスタブに浸かったりして、しばしボーっとして休む。

そうこうしているうちに18時になったので、スーツを着てネクタイを締めて、ロビーに下り、審査員チームで再集合して授賞式が行われるステート・シアターへ向かう。飲み物片手に楽屋でしばらく雑談などして、20時ごろに全員で登壇。

連日通っていた壮麗な劇場(キャパは2,000近い)をついに舞台側から見ることが出来て興奮する。3階席の上につられている巨大シャンデリアは、南半球最大だそうだ。普段は演劇やコンサートが中心で、映画上映の場として使うのはシドニー映画祭時だけのよう。特別な鑑賞体験を演出できるこのような会場を持つ映画祭は幸せだ。

審査員長のリネットさんがコメントと受賞結果を読み上げ、『The Heiresses』のマルセロ・マルティネッシ監督(写真右から3人目)が喜びの登壇。賞金が6万豪ドル(約500万円)なので、映画産業が発達途上にあるパラグアイの監督としては次回作に向けて大きな糧となるに違いない。そういう監督を評価し、応援できる立場の一員になれたことで、僕もとても幸せを感じる…。

クロージング上映は見ないことにして、全員で21時くらいに会場近くの素敵なバーに行って1~2杯。それから正式のクロージング・パーティーに合流して数杯。さらに1時近くになって、ピザが美味しいというバーに行き、数杯。音楽がガンガンかかっている店で会話もままならないけれど、ようやくたどりついたピザをぱくついて、ああもうグロッキーだ。2時くらいに退散。

ということで、以上をもってシドニー映画祭終了!

<6月18日>
18日、月曜日。帰国のフライトが夜なので、ホテルの部屋で仕事をして過ごす。遅いチェックアウトを認めてもらえてとてもありがたい。午前中はもちろん二日酔い。外は結構な雨だ。昼におみやげを買いにショッピング・モールに行ってみる。面白そうな店がいろいろあって、もっと早くくればよかったなあ。

夜になり、空港へ。20時50分の便で、羽田へ。

<6月19日>
19日、火曜日。午前5時羽田到着。一度家に帰ると絶対出てこられなくなると思い、羽田空港でシャワーを浴び、ロビーの椅子でしばらくうとうとしてから、職場へ。

8時に映画祭事務局に到着。このブログを書き終えて、これからアップしてもらうべくシネマカフェさんに送ろう。数日後にはフランス映画祭が開幕し、僕も少しだけお手伝いをすることになっている。休んでいるヒマはない!
《矢田部 吉彦》

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