【MOVIEブログ】2018東京国際映画祭 Day 7

31日、水曜日。8時00分起床。今年は睡眠3.5時間くらい。昨年より少し短めな気がするけれど、どうしてだろう?

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『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』(c)2018 TIFF
  • 『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』(c)2018 TIFF
31日、水曜日。8時00分起床。今年は睡眠3.5時間くらい。昨年より少し短めな気がするけれど、どうしてだろう? ただ、眠いだけで体調はいいし、とにかく天気が抜群にいいので雨続きの昨年より気分は5割増しだ。というわけで本日も爽やかに事務局に入り。

9時から本日の予定確認と、作品の復習。連日のルーティン。

11時からカフェに移動して、プライベート・インタビュー。本日のお相手はデンマークのマイケル・ノアー監督と、プロデューサーのルネさんとマティルダさん。デンマークの映画学校で一緒だったノアー監督とルネさんは以来20年一緒に仕事をしていて、彼らのもう一人の同志トビアス・リンホルム監督を含めたこの世代がデンマーク映画界において果たしている役割や、ドグマ95世代に対する距離や意識について語ってもらう。

このインタビュー企画はそもそもマイケル・ノアー監督とその世代に関する話を詳しく聞きたいというところから発想がスタートしたので、僕としては好奇心が満たされて猛烈に興奮する。そしてマイケル監督の個性が面白すぎる。近いうちに話をまとめたいというのはもちろん、来年はお客さんを入れて公開インタビューとかできたらいいなあ。

僕のインタビューは50分程度で終わり、そのまま劇場に移動して『氷の季節』の上映後Q&A司会へ。引き続き、マイケル・ノアー監督とのトークだ。

貧富の差を描く格差社会が主題というよりは、娘によりよい人生を送らせるためにある選択をした父親の物語であり、自らのプライベートを着想とした背景を語ってくれる。観客の反応がとてもよく、スクリーン2が適度な緊張で満たされている。

19世紀の文学に影響されたかという質問には、小説を書いた1%の人間よりも、書くことのない99%の人間を描きたいので小説は参考にしなかったと答え、代わりに庶民の歌や詩を研究したという。僕からはビジュアルのインスピレーションとして絵画や映画を参考にしたかと尋ねると、それもあまり重視はしていない様子。あくまで主題が監督の関心事であり、本作のそれは幸せを巡る人間の選択だ。北欧を代表する存在にならんとするマイケル・ノアー監督、日本での注目度が本作をきっかけに高まることを期待したい!

事務局にもどり、鳥の甘辛煮弁当をペロリと頂く。

13時から15時まで時間が出来たので、復習作品の鑑賞に充てる。映画祭で司会を担当する作品が30本近くあるので、中には最後に観てから細部の記憶が薄れている作品もある。観直すのも時間との勝負だ。少しでも合間があれば、映画祭後半戦の作品で復習しきれていないものをおさらいする。

15時半にシネマズに行き、コンペ『愛がなんだ』の司会へ。今泉力哉監督との2度目のQ&Aだ。キャスティングに関する話を中心に進行し、今泉監督はいつものように淀みない調子で回答してくれる。そしてふと、司会をしながら、今泉監督とこうやってご一緒するのは何度目だろうと感慨深い気持ちに襲われてしまった。初めて会ったのは直井卓俊プロデューサーの紹介で飯田橋の喫茶店で話をしたのだった。以来、日常でベタベタ付き合うこともなく、しかし映画祭では絶妙なお付き合いをするという、この距離観が本当に心地よい。今泉映画が関係性の映画であるのは、今泉さんの対人スタンスがもともと優れているからなのだろうと改めて思う。今後もこの関係が続きますように。

どうしても聞きたかった質問を挿入することが出来て、そして観客も許してくれた雰囲気を感じられたので、嬉しい。残念ながらネタバレなので書けないけれど、公開されたら必ずまた観に行こう!

続いて16時10分からスプラッシュ部門『鈴木家の嘘』のQ&A司会へ。野尻克己監督と木竜麻生さんの登壇。野尻監督とようやくご一緒できて安堵する。野尻さんは帽子が似合う味わいのある存在感、そして木竜さんは若さと落ち着きとが同居する珍しい方で、美しさが内面からにじみ出るようで魅力的だ。ちょっと若尾文子さんに似ているかも?

野尻監督が助監督としてついた橋口亮輔監督『恋人たち』のプロデューサーとの縁が本作製作へと繋がり、そして監督のパーソナルな実体験が色濃く反映されたという脚本の背景を語ってもらう。ヘヴィーな題材を扱っているものの、明るく笑える側面もあり、その絶妙なバランスこそがこの作品の生命線だ。劇場公開も近く、ネタバレをしたくないのであまり書けないのがつらい。客席が感動していることがひしひしと伝わるQ&Aで、僕は質問に対する監督の答えになるほどと頷くばかり。原日出子さんと岸部一徳さんの修羅場のシーンのエピソードなども強烈だ。新人ではあるものの、豊富な助監督経験を経た野尻監督の手腕はすでに一線級であり、今後の展開が楽しみでならない。

事務局に戻って、時間が早いけどお弁当が来ていたので取りにいくと、金兵衛のさわら弁当! やった! 金兵衛は美味しいですなあ! 17時にペロリと夕食弁当を頂く。

17時15分からカフェに移動し、『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』のパールフィ・ジョルジ監督へのプライベート・インタビュー。ジョルジ監督が10代からいかに映画技術に興味を持っていたか、そのパーソナル・ストーリーを語ってくれて実に面白い。

監督の映像センスは天才的だと思っているけれど、映画と戯れることがとことん好きな無邪気さを持った人だ。スクリーン至上主義でもなく、次回作はスタニスワフ・レム原作をVRで撮ろうとしているし、映画の可能性を広げるあらゆる技術や話法に熱中するオタク気質の人と言っていいかもしれない。とにかく、来日前は気難しい人を予想していた僕としてはジョルジ監督のにこやかな姿勢が驚きで、本当に大好きになってしまった。映画と本人のギャップという意味では、デンマークのマイケル・ノアー監督と双璧だ(映画と本人が一緒なのがフランスのミカエル・アース監督)。

18時半にシネマズに行き、コンペ『ブラ物語』のQ&A司会へ。ワールドプレミア上映だ。ともかく、この『ブラ物語』はプロットを話すと誰もが楽しそうに反応してくれるので、コンペの紹介をするときに引き合いに出しやすく、ここ2か月くらいネタに使いまくっていた作品だ。「つかみ用」の作品といったら聞こえは悪いけれども、それだけ愛すべき作品であり、そして宣伝しやすい作品だ。そのお世話になった作品の上映がついにやってきて、感慨と緊張もひとしおだ。

Q&A開始の1分前にファイト・ヘルマー監督と初対面。完璧主義者という意味ではヘルマー監督もパールフィ・ジョルジ監督と同様であるけれども、少し得体の知れない迫力を備えた人だ。そして多くの女優陣が来日してくれて、とても華やかな壇上になった!

ヘルマー監督以下、パス・ヴェガさん、フランキー・ウォラックさん、サヨラ・サワーフォワさん、ボリアナ・マノイロワさん、イルメナ・チチコヴァさんが女優陣、そしてドゥニ・ラヴァン!

僕の世代にとってドゥニ・ラヴァンは特別な存在なだけに、感動する。いや、感動というよりは正直ビビる。なんといっても『ボーイ・ミーツ・ガール』以来、同時代的に影響を受けた作品群の主演であり、レオス・カラックスの分身であり、つまりは僕らの世代のジャン=ピエール・レオーなのだ。会話を交わす時間は全くなかったけど、同じ舞台に立って感動するなというほうが無理な話だ。

しかし、人数が多いので、ひとこと挨拶だけで時間がほとんどなくなってしまう! それでも、僕はヘルマー監督の処女長編『ツバル』(99)ですでにドゥニ・ラヴァン扮する主人公がヒロイン(チュルパン・ハマートヴァ)のブラジャーの匂いを嗅ぐシーンがあったことを覚えていたので、「監督の趣味は一貫しているということですね」とドゥニ・ラヴァンに質問してみる。それに対して当時の思い出や本作との共通点を語ってくれてとても場が盛り上がる。スクリーン2がヒートアップして熱気がすごい!

予定終了時刻をかなり過ぎつつ、なんとか無事終了。そのまま劇場脇のスペースで別件の打ち合わせ。日本監督協会新人賞受賞の岩切一空監督と、ブラジルのガブリエラ監督との対談が行われるので、司会の方と僕が書いた台本アイディアのすり合わせを行う。僕が別件の都合でどうしても司会が出来ないので、話したら面白いであろう話題をまとめて伝えてみる。期せずして映画と恐怖を語るハロウィンナイト対談企画が出来上がり、これは司会をやりたかった!

EXシアターに小走りで向かい、19時半からコンペ作品『大いなる闇の日々』のQ&A司会へ。マキシム・ジルー監督と、主演のマルタン・デュブレイユ監督の登壇。マキシム監督は超ナイスガイで、話しやすく人懐っこいという意味では今年のベスト・ナイスガイ大賞の有力候補だ!

しかし作品はダークな暗喩に満ちており、「システム」にがんじがらめになる現代世界の暗い側面について監督は語ってくれる。トランプ後の暗い世相に警鐘を鳴らす作品であり、監督のコメントも緊迫を増していく。ちょっと場が深刻になってきたので、僕は話題を変えて俳優の話題に切り替えてみて、レタ・カデブ、ロマン・デュリスやソコなどのフランス系の役者を起用した経緯や、受難の連続に耐える主人公を演じるマルタン・デュブレイユさんに話を振ってみる。硬軟取り混ぜたQ&Aで、僕は『ブラ物語』でいささか緊張していたこともあり、こちらではすっかりリラックスして楽しんでしまった!

Q&Aが終わり、事務局に戻っていくつかのバタバタ調整事項を調整(したつもりになっているだけかもしれないけど)、21時にタクシーに乗り、六本木交差点近くの広いバーに向かってもらう。ドイツ大使館が『ブラ物語』上映を記念したレセプションを開いているので、顔を出す。あまり長く滞在できないのだけど、やはり行かないわけにいかない。挨拶しなければいけない方にご挨拶し、20分少々で中座してトンボ返りで事務局に戻る。

ここに来て急ぎの要件が重なり、少しパニックに陥る。ひとつのことをやっていると別のことが気になり、結局空回りばかりしてしまう、という最悪のパターン。まずい。

焦りながら気持ちを切り替えようと努め、23時にEXシアターに向かい、『ヒズ・マスターズ・ヴォイス』のワールドプレミア上映へ。パールフィ・ジョルジ監督から、映画の内容と関係のあるマフラーをプレゼントされていたので、勇気を出してそのマフラーを首に巻いて登場してみる。気付かれなかったらイタいなあ、と思いながら登壇すると、会場がざわついて小ウケした! よかった! いやはや、いったい何をやっているのだか!

パールフィ・ジョルジ監督、主演のポルガール・チャバさん、脚本のルットカイ・ジョーフィアさんが登壇。監督は優しい熊のような方だ。僕は彼の才能と人柄に心酔しそう。

スタニスワフ・レムの原作の脚色の過程について、そしてその哲学的な解釈について語ってくれる。この作品はとても複雑な構成で、内容もビジュアルも刺激に満ちているので、到底30分のQ&Aで太刀打ちできるものではない。それでも、すごいもの見たなという雰囲気が会場に漂っていて、映画祭独特の知的好奇心に満ちた空気がとても嬉しい。23時過ぎにこんな空気を醸し出せる映画祭の観客は最高だ。

さきほどのパニックを嘘のように忘れ、事務局に戻る。Q&Aの魔力は全てを解消してしまう!

事務局に戻り、本日夜に選択可能だったKIZANの中華弁当が残っていたので、感涙にむせびながら一気に頂く。うまし!

そのまま、調整作業に再び取りかかり、2時半までかかり、ブログを書いて4時。しかしブログを完了できずに限界訪れ、無念ながらに引き上げる。今年は例年以上のスピードで物事が過ぎていく。どうしてだろう? ともかくいよいよ終盤戦! がんばろう!
《矢田部吉彦》

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