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【MOVIEブログ】2019ベルリン映画祭 Day8

2月14日、木曜日。ハッピー・ヴァレンタイン! ということで、ベルリンにその気配は微塵もないけれど、何となく気分を盛り上げながら本日もいそいそと支度して外へ。今朝もどんより曇天。

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"So Long, My Son"(c) Li Tienan / Dongchun Films
2月14日、木曜日。ハッピー・ヴァレンタイン! ということで、ベルリンにその気配は微塵もないけれど、何となく気分を盛り上げながら本日もいそいそと支度して外へ。今朝もどんより曇天。

9時のコンペ作品上映からスタートで、中国のワン・シャオシュアイ監督新作“So Long, My Son”(写真)。上映時間が3時間。息子を事故で失った(かもしれない)夫婦の人生を描いていく内容で、親と息子の関係を軸にしつつ、主題となるのは70年代に文革を体験し、80年代には工場勤務、そして大経済改革の波をくぐってきた親の世代の生きざまである。

映画の3分の2は、見ていてとても苦労してしまった。というのも、夫婦の人生をふり返るためにフラッシュバックが多用され、しかも様々な時点に行ったり来たりするので、いま見ているのが物語上のどの部分なのか分からなくなってしまうのだ。ちょっと編集に振り回されてしまう感があり、エピソードの小出しはやめてくれと文句を言いたくなってしまう。

しかしその苦労は残りの3分の1で報われる。不明だった点はものの見事に回収され、鮮やかで感動的なエンディングへと映画は収束していく。フラッシュバックで頭を悩ませているうちに3時間はあっという間に過ぎ、つまり混乱で観客の集中を削いでしまうのではなく、逆に引き込む力を映画が持っているということであり、実際に長尺は気にならない。ワン・シャオシュアイの力量に脱帽だ。

主演の父親役を演じたのは、2013年の東京国際映画祭のコンペ作品『オルドス警察日記』で主演男優賞を受賞しているワン・ジンチュン。人懐っこい表情が印象に残る素晴らしい俳優だ(ちょっと三宅裕司さんを彷彿とさせる)。そして妻役をはじめ、全ての役者が完璧にはまっている。堂々たるスケールを備えた人間ドラマとして屹立し、これは受賞を狙えるに違いない。

上映が終わって12時。12時半から鑑賞を予定していた次の作品はスキップすることにして、ワン・シャオシュアイの余韻を楽しみ、モールでお土産を買ってホテルに置きに行き、またまたモールに戻り「ソーセージと+ザワークラウト+ポテト」のプレートを頂いて(本当に毎日これでも構わない)、14時からの上映へ。

向かったのは、「ジェネレーション」部門(子どもやティーンが主人公の作品を集めた部門で、同世代の観客に向けてはいるものの、完全に大人向けの作品が含まれることも多い)に出品されている日本の長久允(ながひさ・まこと)監督の長編デビュー作である『ウィーアーリトルゾンビーズ』。

まずは会場にベルリンのティーンがたくさん詰めかけていることが嬉しい。子ども向けの上映についてベルリン映画祭は世界でも先駆者であり、学校との連携のあり方が優れていると思うのだけれど、見習わなくてはとつくづく思う。上映前にガキどもが騒いでいるのがこんなに嬉しいなんて。そして、日本映画の海外上映は一般客と一緒に見るに限る!

両親を亡くした中学生の少年が同じ境遇の少年少女たちと出会い、冷めた自分の感情と折り合いを付けるべく破天荒な行動を起こす物語、と要約していいかな。テレビゲームの世界や、ロックやパンクやポップ音楽をふんだんに取り入れ、主人公たちが置かれた厳しい状況を楽しさに溢れた世界観の中で描く離れ業に成功している。何よりも、もしかしたら日本映画を初めて見るかもしれないベルリンの少年少女たちを喜ばせる作品に仕上がっていることが誇らしくてならない。作品に何も関係していない僕が言うのも変だけれども、海外に出るとそういう気分になってしまうものなのだ。

長久監督は広告代理店勤務でいらっしゃるとのことで、CM演出で腕を磨いていたとは言うものの、長編映画1作目とは到底思えない完成度の高さだ。サンダンス映画祭の受賞もむべなるかなと思うばかり。ベルリンで見られて本当に良かった!

続けて17時から、「パノラマ」部門でフランスの造形アーティストでもあるプリュンヌ・ヌーリー監督による“Serendipity”というドキュメンタリー作品へ。乳癌を患った監督が、自らのキャリアをふり返りつつ、病と向き合う姿を映像に収めた一種のセルフ・ドキュメンタリー。僕はプリュンヌ・ヌーリーという存在について名前しか知らなかったので、着眼点がとてもユニークなこのアーティストをこれからも追いかけたいと思わせてくれたことに感謝したい作品となった。

上映終わって18時45分。19時に一瞬ホテルに戻ってパソコンを叩き、19時半に会場に戻って20時の上映へ。

「パノラマ」部門でスーダンの監督による“Talking About Trees”というドキュメンタリー。これまた優れた作品で、スーダンの4人のベテラン映画監督で構成されている映画機関が、無くなって久しい映画館を復興させようと画策する姿を描いている。スーダンは89年に軍事クーデターが起きて独裁政権が誕生し、以来映画は迫害され、映画史は分断されてしまった。

4人の老年監督の深くも微笑ましい絆を描いていく中で、スーダンが置かれた政治的状況を告発する内容にもなっている。映画では触れられていないけれど、スーダンでは昨年の12月から反政府デモが盛り上がっており(制圧による被害者も出ている)、30年に及ぶ圧政がついに変わるかもしれない、と登壇した面々が語る。そして「しかし国際社会は全く注目してくれない」とのコメントに、場内は厳粛な空気に包まれ、やがて大拍手。とても貴重な上映であった…。

続けて22時45分から、同じく「パノラマ」部門に出品されている日本のHIKARI監督による“37 Seconds”へ。HIKARI監督の長編デビュー作品だ。

脳性麻痺を患う23歳の女性が真の独立を得るべく格闘する物語、という要約は乱暴だろうか? 障害者の、精神的あるいは肉体的独立を描く作品はこれまであったかもしれないけれど、本作ほど笑いと温かみに包まれた作品を僕は知らない。隣席に並んだドイツ人のおばさんたち(失礼)は、冒頭からずっと笑いっぱなしで、最後は鼻をすすっていた。僕はといえば、恐るべき才能の出現に呆然としていた…。本作が今年の日本映画を代表する1本になることは間違いない。

監督は10代で単身アメリカに渡り、映画製作の教育を受けたと聞いている。やはり、難しい主題をメジャー系のルックに昇華させる意識と技術において、日本はアメリカに遠く及ばないのかもしれない。しかし、それはひとまず脇に置いておくとして、新たな才能の誕生を僕はひたすら祝福したい。

奇跡的と思ってしまうようなヒロイン役の女性の存在を始め、母親役の神野三鈴さん、近年出色の美しさとハマリ役で魅せる渡辺真起子さん、そして『旅立ち~足寄より~』以来僕の最も好きな俳優のひとりである大東駿介さんが作品を盛り立てる。

上映終わりが0時45分。いくらベルリンといえども、さすがにこの時間からQ&Aは無いか。監督にご挨拶できなくて残念。いつか機会が来ますように。

ホテルに戻って1時過ぎ。不思議なほど疲れていないのは、22時台の作品の興奮のおかげだろうか?

『ウィーアーリトルゾンビーズ』の主人公の男の子の名前が「ひかり」、そして“37 Seconds”の監督名がHIKARI。期せずして、日本映画の「光」をふたつ目撃する日となり、刺激的過ぎて昨日に引き続きブログを書くのに時間がかかってしまう。ついに3時を回ってしまった。ダウンします!
《矢田部吉彦》

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