【MOVIEブログ】2019ベルリン映画祭予習<コンペ編>

今年もベルリン映画祭が2月7日に開幕します。

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今年もベルリン映画祭が2月7日に開幕します。2001年からベルリンを率いてきたディーター・コスリック氏の本年限りの勇退がすでに発表されており、現体制では最後のベルリンとなります。それだけにラインアップが注目されていますが、ここでコンペ作品を予習しようと思います。

コンペティション部門の中に、賞の対象となる「コンペティション」と、賞の対象にならない「アウト・オブ・コンペティション」とが並存しています。相変わらずちょっと分かりにくいのですが、まずは賞の対象の「コンペティション」をチェックしてみます。

題名は英題表記とし、そして製作国は複数国となることが多いので、ここでは原則として監督の出身地を記してみました。また、監督名のカタカナ表記に齟齬があるかもしれませんが、お許し下さい。そして短いあらすじ紹介も観る前なので間違っていたらごめんなさい!

さて、コンペティション作品として金熊賞や銀熊賞を競う作品は17本です。

■「コンペティション」


・“Synonymes” (ナダヴ・ラピド監督/イスラエル)
・“One Second” (チャン・イーモウ監督/中国)
・“The Ground Beneath My Feet” (マリー・クロイツァー監督/オーストリア)
・“So Long, My Son” (ワン・シャオシュアイ監督/中国)
・“Elisa & Marcela” (イザベル・コイシェ監督/スペイン)
・“The Golden Glove” (ファティ・アキン監督/ドイツ)
・“God Exists, Her Name is Petrunya” (テオナ・スツルガル・ミテヴスカ監督/マケドニア)
・“By the Grace of God” (フランソワ・オゾン監督/フランス)
・“I Was at Home, But” (アンゲラ・シャーネレク 監督/ドイツ)
・“The Kindness of Strangers” (ロネ・シェルフィグ監督/デンマーク)
・“A Tale of Three Sisters” (エミン・アルペル監督/トルコ)
・“Mr. Jones” (アニエスカ・ホランド監督/ポーランド)
・“Ondog” (ワン・チュアンアン監督/中国)
・“Piranhas” (クラウディオ・ジョヴァンネージ監督/イタリア)
・“Ghost Town Anthology” (ドゥニ・コテ監督/カナダ)
・“System Crasher” (ノラ・フィングシャイト監督/ドイツ)
・“Out Stealing Horses” (ハンス・ペテル・モランド監督/ノルウェー)

ヨーロッパ勢が中心ですね。アジアからは有名監督新作が3作入った中国が気を吐いていますが、日本も韓国も東南アジアもないのは寂しいです。それはまあしょうがないので、各作品を少し詳しく見て行きます。

“Synonymes”(ナダヴ・ラピド監督/イスラエル)
好調が続くイスラエル映画。ナダヴ・ラピド監督は長編第2作の『The Kindergarten Teacher』(14)が話題となって多数の受賞を果たし、のちにハリウッドで『キンダーガーテン・ティーチャー』としてリメイクされました(監督は別の人)。短編やドキュメンタリーも多く手掛けていますが、ネットのデータベースによれば今作“Synonymes”が60分以上の長編としては3作目となるようです。

今作はイスラエルを逃れてパリに行きついた男性を主人公に、フランス語とヘブライ語の辞書が重要なアイテムとなる物語とのことで、興味をそそられます。フランス、イスラエル、ドイツによる合作で、フランスの有力プロデューサーが製作に名を連ねている点でも楽しみです。

“One Second”(チャン・イーモウ監督/中国)
チャン・イーモウ監督、前作『影』(18)が昨年本国で話題になったばかりですが、早くも新作が登場です。「辺鄙な農村地域に暮らす映画ファンの青年が女性のホームレスと関係を持つ」との一行がInternet Movie Databaseにのっているのみで、ほかに情報がありません。大作続きのチャン・イーモウが低予算で早撮りした作品だろうか、とは完全に僕の邪推ですが、巨匠が肩の力を抜いて作った作品だとしたら楽しみでなりません。

“The Ground Beneath My Feet”(マリー・クロイツァー監督/オーストリア)
僕はクロイツァー監督の過去作を見ていませんが、今作が4本目の長編となるオーストリア期待の存在のようです。公私ともに厳格さを求めるビジネスコンサルタントの女性が、ある事件に遭遇することによって過去と向き合う羽目に陥り、現実への対処も出来なくなっていく…、という紹介文。スリリングな心理ドラマか、フェミニズム的社会派ドラマか、想像しながら待ちます。

“So Long My Son”(ワン・シャオシュアイ監督/中国)
過去にベルリン、カンヌ、ヴェネチアにて多数の出品歴や受賞歴を誇るワン・シャオシュアイ監督の新作は、ベルリンのコンペに出品と相成りました。前作『Chinese Portrait』(18)は、タイトル通り、中国各地の工場労働者たちのポートレートを次々と見せて行く内容で、強いメッセージ性を備えた現代アート的というか映像インタレーション的なドキュメンタリーでした。

新作はどうやらフィクションで、80年代から現在に至る激変の時代を生きる2組のカップルを描く内容のようです。東京国際映画祭でも近年上映した『迫り来る嵐』(17)や『詩人』(18)に見られるように、80年代以降の激動の時代に揺れる人々を描く作品が中国には依然として多く見られます。巨匠ワン・シャオシュアイがどのような切り口で描いてくるか、これは期待が高まる1本です。

“Elisa & Marcela” (イザベル・コイシェ監督/スペイン)
『マイ・ブックショップ』(17)の日本公開が3月に控えるイザベル・コイシェ監督、菊地凛子さんが過去作に出演したこともあって日本でも馴染みの存在ですね。新作は1901年を舞台に、女性どうしで結婚するために一方の女性が性別を偽って役所に届け出ようとするドラマ、のようです(全然違ったらごめんなさい)。保守的な時代を背景にしたLGBTの苦闘の物語を予想しています。ちなみにNetflix作品のようです。

“The Golden Glove”(ファティ・アキン監督/ドイツ)
ファティ・アキン監督新作は、1970年代前半のハンブルグを舞台にしたシリアル・キラーの物語とのこと。原作があるようで、ファティ・アキンが脚色。実話を基にしているのかどうかは、ちょっと分かりません。

トルコという自らのルーツを意識させ、鮮やかな展開力を持つ初期の脚本に魅了されていた僕としては、最近のファティ・アキン作品には少し物足りなさを感じていると白状しますが、果たしてあのファティ・アキンがシリアル・キラーをいかに扱っているのか。楽しみにならないはずがありません。心して対峙するつもりです。

“God Exists, Her Name is Pertunya”(テオナ・スツルガル・ミテウスカ監督/マケドニア)
Teona Strugar Mitevska監督の名前の読み方が合っているか全く自信がありませんが、それはともかくマケドニア映画のコンペ選出は快挙ではないでしょうか。とはいえ、監督は2004年の長編デビュー以来本作が5作目であり、着実にキャリアを積み上げている存在のようです。

ベルリンのパノラマ部門に出品されていた2012年の“The woman who brushed off her tears”(12)を見ていますが、パリとマケドニアを舞台にしたヘヴィーな移民ものであると当時の自分のメモにありました。ちょっと記憶があやふやではありますが、社会派の作品を着実に作り続けてコンペにたどり着いた監督であるということは間違いなさそうです。

新作は、女人禁制の伝統行事に立ち向かう女性のドラマのようで、明確な主題を持った社会派作品であろうと予想されます。固い主題は大歓迎ですが、映画的興趣がどこまで味わえるのか、期待して待ちたいと思います。

“By the Grace of God”(フランソワ・オゾン監督/フランス)
相変わらず製作ペースが落ちないフランソワ・オゾン監督の新作がコンペに入っています。99年のデビュー長編『クリミナル・ラヴァーズ』以来、約19年間で18本目の長編。映画黄金時代ならともかく、現代では信じがたいペースです。軽やかな変態性を商業レベルのストーリーテリングに載せる職人技に長けた存在…、いや、適当なことを書いてはいかんですね。どこかでちゃんと分析しないといけません。

新作は、少年に性的虐待を与えていた神父と、トラウマを抱えたまま大人になった被害者の男性たちとその家族を巡る苦悩のドラマ(ネットで予告が見られます)。今回はかなり深刻なドラマのようです。メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ(『ジュリアン』は必見!)、スワン・アルローの3人の男性が中心になり、彼らの演技がかなりの見ものになりそうです。これは楽しみです。

“I Was at Home, But”(アンゲラ・シャーネレク監督/ドイツ)
クリスチャン・ペツォルトやトーマス・アルスランと並んで「新ベルリン派」のひとりと位置付けられるシャーネレク監督について、僕が尊敬するドイツ映画の専門家でいらっしゃる渋谷哲也さんは「今世界でもっとも繊細に感情を捉えられる映画の作り手」(昨年行われた特集上映の公式サイトから引用)と評されています。

アルスラン監督はミニマルで禁欲的な作風で知られ、毎回カンヌやロカルノなどの映画祭で話題になっていますが、意外にもお膝元のベルリン映画祭では初のコンペ入りです。跡形もなく蒸発した13歳の中学生が1週間後に突然戻ってくると、周囲の大人たちは実存的難問に直面し、人生を見つめ直さざるをえなくなる…。という内容とのこと。現代の重要作家の待望の新作、姿勢を正して臨みます。

“The Kindness of Strangers”(ロネ・シェルフィグ監督/デンマーク)<写真>
日本でもスマッシュヒットした『幸せになるためのイタリア語講座』(00)で世界の映画ファンを喜ばせたデンマークのロネ・シェルフィグ監督、その後はスター俳優を起用する国際的大物監督にあっという間にステップアップを遂げたのは周知の通りです。今作もゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロウ、タハール・ラヒム、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズなどが出演し、今年のベルリン映画祭のオープニング作品でもあります。

シェルフィグ監督が脚本も書き、4名の人物が人生最悪の危機に直面する様を描くドラマであるよう。それ以外に情報はないのですが、役者も魅力的ですし楽しみです。オープニング上映が見られるかどうか保証がないのが心配なのだけど…。

“A Tale of Three Sisters”(エミン・アルペル監督/トルコ)
アルペル監督は長編2作目『錯乱(Frenzy)』(15)が東京国際映画祭の「ワールド・フォーカス」部門で上映されており、来日もしてくれました。優れた社会派サスペンスであった『錯乱』は同年のヴェネチア映画祭で審査員特別賞を受賞しており、アルペル監督は現在のトルコで最重要な存在のひとりであると言えます。

新作は80年代を舞台にし、貧困地域の3人の女の子がアナトリアの裕福家庭に引き取られるものの、結局馴染むことができずに故郷に送り返され、夢を奪われてしまう物語が語られるとのこと。アルペル監督は現代トルコ史で博士号を取得しているだけに、トルコの80年代がどのように描かれるのか楽しみでたまりません。

“Mr. Jones”(アニエスカ・ホランド監督/ポーランド)
ポーランドの大物ホランド監督は、前作『Pokot』(17)がベルリンの銀熊賞を受賞しています。残念ながら僕にはあまり響かなかった作品で受賞を不思議に思ったものでしたが、そういうこともあるさということで今回は心を入れ替えて臨むつもりです。

狂信的動物愛護主義者の女性の暴走を描いた前作と打って変わって、新作は30年代にソ連で起きた飢饉を命がけで世界にレポートしたウェールズ出身のジャーナリストの伝記映画であるようです。飢饉は陰謀だったのかという点を巡る現代史エンタメなのか、もっとアーティーなタッチなのか、もろもろ気になる1本です。

“Ondog”(ワン・チュアンアン監督/中国)
チャン・イーモウ、ワン・シャオシュアイ、そしてワン・チュアンアンという中国の重要監督が3人も揃うことが今年のベルリンのコンペの特徴のひとつかもしれません。中でも、『トゥーヤの結婚』(06)で最高賞の金熊賞を受賞し、『再会の食卓』(10)でも脚本賞を受賞したワン・チュアンアン監督はベルリンの申し子のひとりと呼びたくなるほどです。

8年振り(いろいろあったみたいですね…)となる待望の新作は情報があまりなくて内容がわかりません。中国語の媒体には何かしら報道されているのかもしれませんが、僕は中国語を解さないので残念です。まっさらの状態で臨むようにします。

“Piranhas”(クラウディオ・ジョヴァンネージ監督/イタリア)
本作が長編4作目となるジョヴァンネージ監督は、前作『花咲く恋』(16)がカンヌ映画祭「監督週間」に出品され、日本でも17年のイタリア映画祭で上映されています。若者が中心となるドラマを作り続け、非職業俳優を好んで起用し、リアリズム重視の演出が特徴の監督という印象があります。

本作はナポリを徘徊する武装した若者ギャングを描く内容のようです。何かと映画の舞台になりやすいナポリですが、またもやヘヴィーな一面が見られるのでしょうか。無軌道に生きる若者たちを描く内容にどれだけ新味を加えることに成功しているかが見どころになりそうです。

“Ghost Town Anthology”(ドゥニ・コテ監督/カンヌ)
多彩な作品で知られるカナダの個性派ドゥニ・コテ監督。作品ごとにスタイルが異なるために簡単に紹介がしにくい存在ですが、ドキュメンタリーとフィクションを交互に手掛ける才人です。一言で言えば(好んで自然と人間を対比させるという意味での)自然派なのだけど、無理にレッテルを貼る必要もないですね。ベルリンのコンペ入りは『ヴィクとフロ 熊に会う』(13)と『Boris Without Beatrice』(16)に続いて3度目です。

辺鄙な場所の小さな町で青年が事故死を遂げ、その影響が町全体に及んでいく様子を描くドラマ、としか分かりません。おそらく、雪に閉ざされた辺鄙な町という環境も大きな役割を果たすような予感がします。カナダのフランス語圏の作品に注目が集まる中、本作は今年のコンペで最も楽しみな1本でもあります。

“System Crasher”(ノラ・フィングシャイト監督/ドイツ)
フィングシャイト監督(Fingscheidtの読みに自信なしですが)はドキュメンタリーを多く手掛けており、本作がフィクション長編1作目のようです。

感情の激しい9歳の女の子に周囲の人たちが手を焼き、実の母は娘を恐れて手放そうとし、誰もが少女を扱いかねる中で、アンガー・マネージメントを専門とするセラピストが少女の面倒を見始める中で変化が訪れる、という内容のよう。ドキュメンタリー出身ということから、実話をベースにしたリアリズムタッチの作品が予想されますが、どうでしょう。どうやら「システム・クラッシャー」というタイトルは、幼児保護プログラムを壊してしまうほどの少女の激しい性格を指すようなのですが、ちょっと観るのが怖くなりますね。心して臨むことにしましょう。

“Out Stealing Horses”(ハンス・ペテル・モランド監督/ノルウェー)
ハンス・ペテル・モランド監督はノルウェーのベテラン監督(55年生)で、『ファイティング・ダディ 怒りの除雪車』(14)や『特捜部Q Pからのメッセージ』(16)などの近作がアマゾン・プライムで視聴可能です。これらの作品からサスペンスフルな商業映画を手掛ける監督とのイメージを受けがちですが、ベルリンのコンペに入るのは今作が4回目という実力派監督でもあります。

ステラン・スカルスガルドを主演に迎えることが多く、本作もスカルスガルドが妻を亡くして悲しみに暮れる男をに扮し、彼が田舎に戻って過去と向き合うドラマであるようです。エンタメ要素があるのか、シリアスなドラマなのか、ちょっと分かりませんが、ベルリンが盛り上がる予感がします。

以上、17作品が賞の対象となるコンペティション作品です。全体的にベルリンらしい硬派な印象を受けますが、果たしてどうでしょう。1本でも多く見て、ブログで報告できるようにがんばります。楽しみです!
《矢田部吉彦》

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