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大作の延期が相次ぐ…難題が山積のハリウッド撮影時における“新型コロナ対策ガイドライン”とは?

新型コロナウイルスの影響で3月半ばから麻痺状態に陥っていたハリウッド映画・TVのプロダクションが、9月後半に入って非常にゆっくりとではあるが少しずつ動き始めた。だがその行く手には難題が山積している。

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トム・クルーズ&ヘイリー・アトウェル『ミッション:インポッシブル』第7弾撮影現場Photo by Elisabetta A. Villa/GC Images
トム・クルーズ&ヘイリー・アトウェル『ミッション:インポッシブル』第7弾撮影現場Photo by Elisabetta A. Villa/GC Images
  • トム・クルーズ&ヘイリー・アトウェル『ミッション:インポッシブル』第7弾撮影現場Photo by Elisabetta A. Villa/GC Images
  • マット・デイモン『ザ・ラスト・デュエル(原題)/The Last Duel』撮影現場 Photo by Debbie Hickey/GC Images
  • アダム・ドライバー『ザ・ラスト・デュエル(原題)/The Last Duel』撮影現場 Photo by Debbie Hickey/GC Images
  • マット・デイモン『ザ・ラスト・デュエル(原題)/The Last Duel』撮影現場 Photo by Debbie Hickey/GC Images
  • ブラッドリー・クーパー ポール・トーマス・アンダーソン監督新作撮影現場 Photo by MEGA/GC Images
  • 『ミッション:インポッシブル』第7弾撮影現場Photo by Elisabetta A. Villa/GC Images
  • ケイリー・クオコ「The Flight Attendant」撮影現場Photo by Jose Perez/Bauer-Griffin/GC Images
新型コロナウイルスの影響で3月半ばから麻痺状態に陥っていたハリウッド映画・TVのプロダクションが、9月後半に入って非常にゆっくりとではあるが少しずつ動き始めた。だがその行く手には難題が山積している。

厳しいルールがあふれる新型コロナ対策ガイドライン


マット・デイモン『ザ・ラスト・デュエル(原題)/The Last Duel』撮影現場 Photo by Debbie Hickey/GC Imagesマット・デイモン『ザ・ラスト・デュエル(原題)/The Last Duel』撮影現場 Photo by Debbie Hickey/GC Images
6月にSAG(Screen Actors Guild = 全米俳優組合)を中心とした組合側と大手映画スタジオが歩み寄り、撮影時における新型コロナ対策ガイドラインが発表された。撮影現場で働いていた関係者たちは「これでやっと仕事に戻れる!」と喜んだのも束の間、22ページにもわたるガイドラインには、まるで疾病予防管理センターのレベル4(感染症リスクレベルで最悪)の実験室に出入りするかのような厳しいルールがあふれていた。

その後、7月初頭にはユニバーサル映画『ジュラシック・ワールド:ドミニオン(原題)/Jurassic World: Dominion』が早速イギリスで撮影を再開した。だが本作のように、新型コロナ関係対策費用として500万ドルを計上できるような巨大プロダクションは完璧なる例外で、そのガイドラインは殆どの映像プロダクションにとって無理難題に近かったのだ。

それから3か月が経ち9月に入って撮影現場での対新型コロナ・ガイドライン改訂版が発表された。撮影許可を管轄するロサンゼルス・フィルム・オフィスの話では、9月に入って撮影許可の申請が激増したそうだ。しかし改訂されたとはいえ、ガイドラインは依然として十分に厳しく、映画製作においては予算の10%は新型コロナ対策関係費用として見積もるべしというのが界隈のうわさだ。

重くのしかかる予算と制約


ブラッドリー・クーパー、ポール・トーマス・アンダーソン監督新作撮影現場 Photo by MEGA/GC Imagesブラッドリー・クーパー、ポール・トーマス・アンダーソン監督新作撮影現場 Photo by MEGA/GC Images
たとえば、新型コロナのせいで雇わなければならない部署が増えた。「コロナ・セーフティ・オフィサー」なるスタッフを管轄する言わば「衛生部」である。その部署のチーフは衛生チーフの免許を保持していなければならない。医者でなくても良いのだが、チーフにはそれなりのライセンスが要求されるため、そういった専門職スタッフの費用はバカにならない。チーフに加えて補佐の衛生部員が数名つく。クルーがきちんとマスクを付けているか、まめに手を消毒しているか、決まったエリアから外に出たりしないかなどの見張り係ともいえる役回りで、スタッフが多かったりロケ現場が大きいほど補佐の人数も必要になってくる。(=予算増)

ケイリー・クオコ「The Flight Attendant」撮影現場 Photo by Jose Perez/Bauer-Griffin/GC Imagesケイリー・クオコ「The Flight Attendant」撮影現場Photo by Jose Perez/Bauer-Griffin/GC Images
撮影現場では万が一、ひとりのスタッフがウイルスを持っていても、それが拡がらないよう人同士の接近を極力制限できるように、職種ごとに出入りできる場所が区画分けされている。俳優と直属メーク係などの側近アシスタント(出入りする場所も含め)においては、「ゾーンA」と分類されており、カメラスタッフなど撮影現場で働いているが俳優との接触はないスタッフたちの出入りできる区画は「ゾーンB」、そして製作スタッフで現場から多少離れたトレーラーにある仮設オフィスで働くスタッフの区画を「ゾーンC」、撮影関係者だがそれ以外の離れたところで働いている人たちのいるエリアは「ゾーンD」というように分類している。それぞれのゾーンに、許可のない人間は立ち入り厳禁。「ゾーンA」に出入りする俳優とスタッフは少なくとも毎日の検温、週3回のPCRテストをすることなどが盛り込まれており、「ゾーンB」のスタッフは少なくとも週1、「ゾーンC」は隔週1回、「ゾーンD」は撮影開始直前に1回などとされている。

撮影再開も残る課題


トム・クルーズ&ヘイリー・アトウェル『ミッション:インポッシブル』第7弾撮影現場 Photo by Elisabetta A. Villa/GC Imagesトム・クルーズ&ヘイリー・アトウェル『ミッション:インポッシブル』第7弾撮影現場 Photo by Elisabetta A. Villa/GC Images
日本ではあまり知られていないが、タイラー・ペリーという俳優・プロデューサー、脚本・監督を兼ねるマルチな人気タレントがいる。黒人社会で圧倒的な人気を誇り、作品も公開すれば大当たりという人だ。タイラーは、ジョージア州に自らの資金を投入して牧場を買取り、マルチで撮影に対応できるスタジオに改造。今年8月、まだコロナ騒ぎ真っ只中の全米ジョージア州でコロナ対策を講じた初のプロダクションとして、撮影を無事成功させて話題を呼んだ。

タイラー・ペリーのようにインディーズ映画人でも深い懐があれば撮影対策の苦労も軽くなる。しかし大概のインディーズ映画関係者にとって、今回のコロナ新ルールは金銭面で大いに厳しい。PPEなどマスク等の物資費用や検査、健康面を管理する専門スタッフなどの雇用など、新しい予算項目が加わり製作費が膨れ上がることは必至で、製作を諦めるプロデューサーも多いだろう。

『ミッション:インポッシブル』第7弾撮影現場 Photo by Elisabetta A. Villa/GC Images『ミッション:インポッシブル』第7弾 撮影現場Photo by Elisabetta A. Villa/GC Images
インディーズ映画界の頭痛の種はそれだけではない。撮影現場で働いているキャストやスタッフを守る撮影周りの保険においても課題が残っている。万が一、関係者が現場でコロナにかかった場合、これまでの保険契約で完全に守られるのか、責務の所在はどうなるのか。また、その保険は独立製作のレベルで購入できるプレミアムなのかなど、保険業界責任者たちとの協議も続いている。

インディーズのプロダクションが過半数を閉めるハリウッド映画製作業界において、このような課題がまだ山積みである以上、ハリウッドが正常に稼働しだすのにはまだまだ時間がかかりそうだ。

(文・Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美)
《Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美》

映画プロデューサー・監督|MPA(全米映画協会)公認映画ライター Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美

東京出身・ロサンゼルス在住・AKTピクチャーズ代表取締役。12歳で映画に魅せられハリウッド映画業界入りを独断で決定。日米欧のTV・映画製作に携わり、スピルバーグ、タランティーノといったハリウッド大物監督作品製作にも参加。自作のショート作品2本が全世界配給および全米TV放映を達成。現在は製作会社を立ち上げ、映画企画・製作に携わりつつ、暇をみては映画ライター業も継続中。

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