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オスカー像を手にするのは誰?第95回アカデミー賞受賞予想

今年もいよいよアカデミー賞が目前となった。コロナ禍が落ち着き、人々が少しずつ映画劇場に脚を伸ばし始めてから初の授賞式となる。ロサンゼルス在住筆者が見聞きしたオスカー前哨レポートをお届けする。

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第91回アカデミー賞 (C) Getty Images
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  • クリス・ロック、ウィル・スミス/第94回アカデミー賞主演男優賞 Myung Chun / Los Angeles Times via Getty Images
  • 『ザ・ホエール』© 2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.
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  • ブレンダン・フレイザー Photo by Santiago Felipe/Getty Images
  • 『エルヴィス』(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
  • 『エルヴィス』来日記念イベント/オースティン・バトラー
  • オースティン・バトラー Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images

《文:Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美》

今年もいよいよアカデミー賞が目前となった。コロナ禍が落ち着き、人々が少しずつ映画劇場に脚を伸ばし始めてから初の授賞式となる。ロサンゼルス在住筆者が見聞きしたオスカー前哨レポートをお届けする。

主演男優賞は『エルヴィス』と『ザ・ホエール』に!?


初の大作主演作にも関わらず、ロック界のKINGことエルヴィス・プレスリーを映画『エルヴィス』で熱演したオースティン・バトラー、そして『ザ・ホエール』で世紀のカムバックを果たしたブレンダン・フレイザー。今年のアカデミー主演男優賞争いではこの2人が注目を集めている。

オースティン・バトラー Photo by Matt Winkelmeyer/Getty Images

オースティンは、エルヴィスのティーン時代から晩年までを見事に演じ切り、その演技力は特筆に値する。オースティンのもうひとつの強みは、界隈で定評のある非常に好感の持てる人柄だ。それは、同僚映画人たちの投票で決定されるアカデミー賞においての強力な武器とも言える。

続いて、ブレンダン・フレイザー。映画『ブラック・スワン』で名声を博したダーレン・アロノフスキー監督作品『ザ・ホエール』では重度の肥満症で死を目前にし、疎遠だった娘と心を繋げようとする孤独な中年男性チャーリーを熱演。第79回ヴェネチア国際映画祭で6分間に及ぶスタンディング・オベーションが送られ、思わず涙ぐむブレンダンの姿がニュースになった。その涙の影には、彼が経てきた悲痛な数年間が隠されていた。

ブレンダン・フレイザー Photo by Santiago Felipe/Getty Images

映画『ハムナプトラ』シリーズで、90年代の世界的スターとなったブレンダンは、撮影時に度重なったケガがきっかけで、90年代後半から数年に渡り幾多の手術を受けなければならず、劣悪な健康状態が続いた。そんな折の2003年、ハリウッド外国人映画記者協会(= HFPA、ゴールデン・グローブ賞のお膝元)の会長からセクハラを受けたことをきっかけに鬱病を発症。結局7年近くに渡り完全にハリウッドから遠ざかる生活が続いた。

そして長期に渡る精神・身体不調に向き合い続けた末に恵まれたのが、本作『ザ・ホエール』への主演だった。そのパフォーマンスへの称賛は、ブレンダンにとってセラピー的な役割を果たした記念すべきカムバックとなっている。

合言葉はダイバーシティ/多様性


今年のアカデミー賞は、ダイバーシティー/多様性がキーワードと言える。それを表しているのが、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』への注目度だろう。ダニエル・クワン監督作品、ミシェル・ヨー主演のSFアクション・コメディーは、アメリカ国内で限定劇場公開され、現在はHBO Max(米国)でストリーミング視聴が可能だ。ユニークなストーリーと映像、そしてアジア人俳優をメインキャストに起用という話題の作品だ。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

クワン監督は、米国FXネットワークで放映されたシリーズ「レギオン」で多くのエピソードを手掛け、その作風は一度見たら忘れられない。レイヤーを織りなすストーリー展開と、それを語る奇抜な映像は、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』にも大いに駆使されている。

本作は、『アベンジャーズ/エンドゲーム』のルッソ兄弟を製作総指揮に迎え、アカデミー賞受賞作を連打しているインディーズ映画の人気レーベルA24を配給に付けてアメリカ国内有数のメジャー映画祭であるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に乗り込み、大いに注目を集めたことでも話題に。

ミシェル・ヨー/第80回ゴールデン・グローブ賞 Photo by Gilbert Flores/Variety via Getty Images

また、ミシェル・ヨーが初めて主役を演じた作品であり、その夫役をキー・ホイ・クァンが演じたことも大きな話題となっている。この2人が受賞すればアジア人男優として初の助演男優賞、そしてミシェル・ヨーは初のアジア人主演女優賞受賞という快挙になる。

キー・ホイ・クァン、成功への苦難


80年代から映画ファンだった方々なら、映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)の「ショート・ラウンド役だったあの子」と言えばお分かりになると思うが、知らない映画ファンのためにキー・ホイ・クァンを簡単にご紹介すると、ショート・ラウンド役で成功を収めたあと、映画『グーニーズ』(1985)にも出演。80年代に一世を風靡した子役として話題を集めたが、子ども時代を過ぎると、キー・ホイ・クァンにはパッタリと仕事がなくなった。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

キー・ホイ・クァンの俳優としての情熱は不完全燃焼のままUSC(南カリフォルニア大学)に進学し、映画製作などを学び現場での助監督などで生活をしていたものの、演技に対する情熱はキー・ホイ・クァンの中で静かに燃え続けていた。しかしやがて40になり50になって、俳優の道を完全に諦めかけたことも多々あったという。

だが約25年という年月が経過し、キー・ホイ・クァンに降って湧いたような幸運がやってきた。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』への出演オファーだ。意気揚々と撮影を終えたキー・ホイ・クァンだが、映画というものは、撮影直後に公開されるものではない。編集があり広告宣伝期間があり公開までに1年近くかかることはザラだ。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』キャスト/全米映画俳優組合賞(SAG賞)授賞式 Photo by Frazer Harrison/Getty Images

キー・ホイ・クァンがバックステージ誌に語ったところでは、2021年撮影終了後から2022年初頭に本作が公開されるまでの1年間は地獄の日々だったという。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の撮影直後なのにも関わらず、2022年は俳優としての仕事は皆無で、鳴らない電話を毎日待ち続け、やがては勤務時間不足から、組合員用健康保険ですら失効になってしまったという。

だが、このユーモアたっぷりで心温まる『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がやっと公開されると、キーの世紀のカムバックが始まった。ゴールデングローブ助演男優賞、そしてSAG(全米俳優組合)助演男優賞の両方を勝ち取り、アカデミー賞を直前にキーのオスカー受賞は確実ではないかと噂されている。

多様性とクライシス、間違いから学ぶ


人種の多様性という話題からは少し外れるが、去年のウィル・スミスが起こしたビンタ事件への対応のお粗末で槍玉に挙げられたアカデミー協会は、以後2度と同じ失敗を繰り返さないために、クライシス・マネージメント(緊急事態コントロール)チームを導入した。

先日、トム・クルーズなどの面々が出席して行われたアカデミー賞候補者昼食会では、アカデミー協会長ジャネット・ヤン氏が、「去年の授賞式で起きた事件におきましては、アカデミーの現場対応が全く成っておらず、容認されるべきものではありませんでした」と改めて遺憾の意を評した。

そして、「今年の授賞式、そして以後あのような事件が起きぬように、同協会は改善に励んで参りました」とスピーチし、クライシス・マネージメントを導入することを発表すると共に、失敗から学び改善された授賞式を提供することを約束した。

クリス・ロック、ウィル・スミス/第94回アカデミー賞授賞式 Myung Chun / Los Angeles Times via Getty Images

アカデミー協会では、これまでに「白すぎるアカデミー」という言葉がバズりワードとなったほど白人優位の感があった。だが内外からの意見をもとに映画賞規定の見直しや内部改革を行い、一時期に比べて大きく前進した。とはいうものの、ハリウッド映画業界全体を見ると「ダイバーシティー/多様性」という観念は、だいぶ広まりつつあるが、その言葉自体がいまだにクロースアップされるという点から見ると、定着化にはまだ時間がかかりそうだ。

ハリウッドでの多様性にせよ、アカデミー賞生放送中の失態にせよ、すべては間違いから学び、改善し前進することで世の中は良くなっていく。近い将来には「多様性」という言葉が不要になるような、ハリウッドでも世界でも多様性が当たり前になる日がくることを願っている。

《Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美》

映画プロデューサー・監督|MPA(全米映画協会)公認映画ライター Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美

東京出身・ロサンゼルス在住・AKTピクチャーズ代表取締役。12歳で映画に魅せられハリウッド映画業界入りを独断で決定。日米欧のTV・映画製作に携わり、スピルバーグ、タランティーノといったハリウッド大物監督作品製作にも参加。自作のショート作品2本が全世界配給および全米TV放映を達成。現在は製作会社を立ち上げ、映画企画・製作に携わりつつ、暇をみては映画ライター業も継続中。

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