【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭 Day6

11月5日、木曜日。7時45分起床、8時半に職場へ。本日も晴天。

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『私をくいとめて』(c)2020 TIFF
  • 『私をくいとめて』(c)2020 TIFF
  • 『私は決して泣かない』(c)2020 TIFF
  • 『二月』(c)2020 TIFF
  • 『息子の面影』(c)2020 TIFF
11月5日、木曜日。7時45分起床、8時半に職場へ。本日も晴天。

見直さねばならない作品がまだたくさんあるので、早めに視聴をスタートする。午前中は頭がクリアなので、夕方以降に集中する「TIFFトークサロン」のイメージが沸きやすく、ベースとなる台本を作り続ける。

今年は、入退場に十分な時間を確保するため、上映間隔をあけて、ひとつのスクリーンにおける上映が一日3回(例年は4回)にしている。さらに海外の監督の来日がないので、Q&Aも少ない。なので、当然例年よりも時間に余裕があるはずなのだけど、全然ヒマになった感覚にならないのはどうしてだろう? 貧乏性だからだろうか?

11時20分から『佐々木、イン、マイマイン』の上映前舞台挨拶司会へ。登壇者は、内山拓也監督、藤原季節さん、細川岳さん。一言だけご挨拶頂いて、フォトセッションを行い、上映開始。

事務局に戻り、お楽しみのお弁当。本日は「薬膳カフェ」のいくつかあるオプションの中から、ローストビーフ弁当を選択。生野菜もあって、少しほっとする。肉も美味しい。

パソコン仕事を続けて、ふと昨日の夜の『ある仕事』のQ&Aのことを思い出す。昨夜は疲れてしまってブログに書けなかったけど、かなり印象的な出来事があったので日記には残しておきたい。

職場における性的ハラスメントを巡り、職員たちが議論を繰り広げる『ある職場』は、彼らの本気のディベートが見どころであり、そこにはハラスメントの被害者に対して、大げさであるとか、ちゃんと拒絶しない自分が悪いのではないかとか、そういう立場で発言する人物も登場する。そして、正論の振りかざしや、マウンティング合戦なども経て、真に重要なことは何かが問われ、語られていく、という作品だ。

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そしてQ&Aとなり、客席からはそのディベートから出てきたような、男性優位社会が必要であるとする発言があった。少子化対策のためには、男女の接触が必要であり、性的ハラスメントに敏感であり過ぎると、その機会を奪ってしまうことになる。男性優位社会は必要とされているのであり、女性は男性社会に慣れてもらうしかなく、そもそも女性が甘えて生きていける現在の日本社会は成熟した社会ではないか、というような発言だったと思う。

書いているだけで気絶しそうになるけれど、思想言論の自由は認められなければならない。しかもチケットを購入して作品を見に来てくれたお客さんだ。この作品を見に来てくれるのだから、映画の趣味もいいのかもしれない。

しかしそれでも、僕がこの方と意見を同にすることは、死ぬまでないと思う。そしてとても驚いたのが、このような考え方の人が、姿かたちを伴って目の前にリアルにいる、という実感を得られたことだ。ネットに匿名で書き込まれる実体の希薄な存在でなく、血と肉からなる人間として目の前に座っている。これは、なんというか、ナイーヴで申し訳ないが、驚いた。

そして、思う。アメリカ社会を分断する投票が進行中だ。その当日に、僕は自分とは絶対に分断されてしまうであろう人の実在を眺めていた。単なる意見の相違とは異なる次元での、「分断」という溝の深くて暗い底を見た。分断は避けたいと常識論では思うけれど、それは触れるくらいのところに実在した。これこそが、現代社会なのだろうか。実体を伴って存在する分断を見てしまった日として、米大統領選とともに僕は昨夜を思い出すことになるのだと思う。

さて、13時半より、『佐々木、イン、マイマイン』の上映後Q&A司会に向かう。登壇者は同じく内山監督、藤原さん、細川さん。3名とも、一昨日よりリラックスした様子ではあったものの、やはり緊張を携えている。結束力の強さを見せられるとともに、どれだけ彼らにとって重要な作品であったことか、2度目の上映でもひしひしと伝わって来る。

僕からまず細川さんに、彼の実体験を土台にした物語を、数年をかけて完成にこぎつけ、観客に見てもらうまでに至ったいま、心に覚えるのは達成感なのか、それとも一抹の寂しさなのか、心境を語ってもらう。細川さん曰く、製作の終盤には寂しさを覚えていたものの、その後の過程においては様々な感情が入り混じっていまは整理が出来ておらず、しかし間違いなく嬉しい、と語ってくれる。とても正直で真摯なコメントが響く。

藤原さんには、役へのアプローチを尋ねてみる。自分の人生も、自分の目から見た親友の人生も意識しなければいけない難役である中で、最終的には自分のことに集中するしかないという主旨のことを語ってくれた(ニュアンスが間違っていたらごめんなさい)。常人に俳優の内面が分かるわけはないのだけれど、何だか「オレなんだ」と自分を追い込む気概が、クリシェではなく、伝わってきた気がする。

内山監督は、共同脚本家として、細川さんの実体験を基にしながらも、それをなぞるだけの映画にしてはいけないだろうと細川さんと議論を進め、物語に共感した監督の人生も投影する形で執筆を詰めていったと教えてくれる。そこで作品に客観性のようなものも生まれてくるはずで、本作の普遍性に繋がったのではないか、というのは口にしなかったけど僕の感想。

客席からの質問は、ゲストから興味深い回答を引き出す有意義なものだったのだけれど、作品の公開も近いので、ここでは割愛した方がよさそうだ。『佐々木、イン、マイマイン』は11月27日公開。僕も絶対にスクリーンで見たいので、駆け付けるつもり。

佐々木チームと別れるのがつらく、というか、もっと突っ込んで話す時間が欲しかったのだけど、今年はパーティーもなく、残念だけど仕方がない。いつか次の機会がありますように。

ここから時間が空いたので、引き続きトークサロンの準備。パソコンに向かうと、猛烈な睡魔に襲われて居ても立っても居られなくなったので、席で少し仮眠。10分ほど寝たら、気分爽快!

そして、今回の映画祭にあたって購入した、ポットというかタンブラーというか、何と呼ぶのかな、保温機能が超優れた最新型水筒を抱えてスターバックスに行き、ホットコーヒーを大量に購入して入れてもらう。

そして、夜は時間が取れなさそうなので、早めにお弁当を頂く。カレー! ここに来てのカレー! 運営スタッフ、本当に素晴らしい。僕は南インドの「スパイシー・ポーク・カレー」を選択し、4分で食べて汗だく。

『私は決して泣かない』(c)2020 TIFF『私は決して泣かない』ピョートル・ドマレフスキ監督
汗を拭いて落ち着いて、17時45分から「TIFFトークサロン」。今回は「ティーンズ」の『私は決して泣かない』のピョートル・ドマレフスキ監督。非常に聡明な監督で、質問に対して明解な回答が次々と返ってくる、快感のQ&Aになった。昨年までのリアルなQ&Aでもたくさん質問をこなしてくれるタイプだ。

外国の監督とリアルでQ&Aを行う場合、じっくり話して結局質問を2問しか受けられなかった、というケースと、妙にポンポンと質問を続けることができるケースとがあって、これは必ずしも後者が好ましいという意味ではないのだけど、ドマレフスキ監督の場合は、質問も多く受け付けながらそれぞれの答えの中身が濃い、という最高のタイプだと思う。

物語の着想、舞台となるポーランドの町の性質、どうしてヒロインの父親の出稼ぎ先はアイルランドだったのか、ヒロインの心情を監督がここまで細やかに描ける理由は何か、どうして彼女は厳しい環境で育ちながら優しい心を失わないでいられたのか、エンディングの解釈について、そしてヒロイン役の女優を抜擢したエピソード…。全ての答えが面白く、興味深い。

正直言って、リアル来日のQ&Aで、与えられた約30分でここまで充実した内容を聞くことはできない。観客の質問によって、その回の方向性が変わることがあるし、話題に一貫性がなくなることもある。しかし、それがナマの人間のふれあいというものであり、「ライブ」の楽しみでもあるはず。そして、この実に効率的で充実したオンラインQ&Aの有用性が、今後映画祭が通常運営に戻った場合、どうなっていくのか。これは本当に真面目に検討しないといけないだろう。

『私は決して泣かない』を見た人が、今回の「TIFFトークサロン」を見たら、絶対に面白いと感じてもらえると確信できる。これは、いい意味で来年に課題を投げかけるなあ。

ピョートルさんとは18時35分にお別れ。僕はEXシアターに向かう。

19時から「Tokyoプレミア2020」に出品の大九明子監督新作『私をくいとめて』の上映前舞台挨拶の打ち合わせ。

19時45分から本番。登壇者は、大九明子監督、のんさん、林遣都さん、橋本愛さん。豪華! EXシアターがほぼ満席、カメラマンの数も多い。僕はまあ、のんさんを目の前にして、もう頭真っ白。なんだか、ろくに挨拶も出来なかった気がする。ともかく段取りを間違えないように、マシンに徹するようにする。

『私をくいとめて』(c)2020 TIFF
のんさん、林さん、橋本さん、監督、の順でご挨拶頂いて、それからコメント頂いて…、という模様は、結構テレビでも報道されたらしいですね。なんといっても素敵な場だったのだから。

それはともかくとして、僕は大九監督が登壇して、客席に向けた冒頭のあいさつで、映画祭に対する感謝をおっしゃって下さったことにとても感動し、ちょっと泣きそうになる。「この状況下で映画祭を実施することがどれほど大変であったか、本日のワールド・プレミアを実現させてくれた映画祭に本当に感謝したい」と、おっしゃった。僕らは、映画祭は映画製作者と観客のためにあるのであり、場を用意することは当たり前と思っているので、本来は感謝してもらう必要は全くないのだけど、それでも今年は本当に大変だったので、こういう場で労ってもらうと、やはりとんでもなく嬉しい。この嬉しさは、全同僚とシェアします。

舞台挨拶は20時10分に終わるはずだったのだけど、押してしまった。終了が20時20分。EXから事務局に、今期一番のダッシュをかけ、スタジオに駆け込む。20時30分の「トークサロン」に、息を整える時間があるくらいに、それなりに余裕でセーフ。5分あれば大丈夫だったか。

『二月』(c)2020 TIFF『二月』カメン・カレフ監督
今回は、「Tokyoプレミア2020」に出品の、『二月』のカメン・カレフ監督! 『ソフィアの夜明け』(09)以来の東京国際映画祭参加。ああ、会いたかったなあ。カレフ監督が09年にグランプリを受賞し、翌年「日本映画・ある視点」部門の審査員として戻ってきてもらい、そこで受賞したのが深田晃司監督の『歓待』。その深田晃司監督特集が今年の映画祭では組まれている。深田監督はカレフ監督に会いたがっていた…。こういう縁が巡るのが、映画祭という場のマジックだ。

壮大な美につつまれた、男の一生の叙情詩。祖父の人生を描いたという背景、3部構成にした理由、ロケ地について、16mmフィルム撮影の選択について、俳優の選択、そして余白を残した主題について…。ここもまた、ひたすら聞いていて面白い。

僕の最大の苦しみは、本作を大スクリーンで見ていないこと。公開されることを、切に祈りつつ、カレフ監督とのリアル再会の機会が巡ってきますように。その時は深田監督を誘って飲みに行こう。

21時25分に終わり、カレー弁当のおかわりを頂くことにして、今回は「マサラチキン」! もはや、登壇の合間に弁当を頂いているというよりは、弁当の合間に登壇があるという感じだな。

続いてEXシアターに戻り、『私をくいとめて』の大九明子監督と、上映後Q&A。ここは、2度目の上映が終わってからまとめて書こうかな。ともかく客席から幸せの熱が感じられ、好感触であったことがよく分かる。そりゃあそうだよ、あののんちゃんの魅力に抗える人なんか、そうそういるわけがないのだから…。

『息子の面影』(c)2020 TIFF『息子の面影』フェルナンダ・バラデス監督
またまた事務局に急いで折り返し、スタジオに入って23時25分から「トークサロン」。「ワールドフォーカス」部門の中で、ラテンビート映画祭共催で提供しているメキシコ映画『息子の面影』から、フェルナンダ・バラデス監督!

こちらが23時25分という遅い時間であるけれど、メキシコシティは朝の7時半で、もうお互いライブで繋がるにはギリギリの可能時間。早起きをさせて、とてもヘヴィーな話をしてもらうのは申し訳ないのだけれど、フェルナンダさんは流ちょうな英語で、映画で描かれている苛酷な状況を丁寧に解説してくれる。

視聴者から届く質問を交えながら、僕も質問が途切れることがない。『息子の面影』は本当に衝撃作なので(今年もっとも感動して衝撃を受けた、というメッセージも受信した)、9日の上映に是非行って、そして「TIFFトークサロン」を見て欲しい! そして、公開されますように…。

0時15分終了。いくらなんでも!と突っ込まれそうだけど、今宵3つ目のカレー弁当に手を伸ばしてしまう。今回はマイルドに「野菜カレー」。マイルドで、野菜だからいいではないか。夜中のカレーは背徳の味。

明日の台本作りと、ブログをここまで書いたら、やはり3時を軽く超えてしまう。そろそろ上がらないと。映画祭、後半戦に突入している。いまのところ、危ない報告や事態は発生していない。あと4日、このまま行けますように!
《矢田部吉彦》

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