【インタビュー】アデル・エネル、もどかしさを感じるようなリズムで…『燃ゆる女の肖像』は1つの旅路

いまを生きる女性にもつながる数々の問題を鮮やかに革新的に描き出し、カンヌ国際映画祭脚本賞とクィア・パルム賞をW受賞した『燃ゆる女の肖像』から、アデル・エネルのインタビューを独占入手。

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『燃ゆる女の肖像』(c) Lilies Films. 
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昨年の第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞をW受賞した『燃ゆる女の肖像』。クィア・パルム賞とは同映画祭上映作品の中からLGBTQ+をテーマにした作品に与えられる賞で、過去には『わたしはロランス』や『キャロル』『Girl/ガール』といった傑作が受賞してきた。

>>『燃ゆる女の肖像』あらすじ&キャストはこちら

本作で描かれるのは、18世紀のフランス、望まぬ結婚を控える貴族の娘エロイーズと彼女の肖像を描く女性画家マリアンヌが織りなすラブストーリー。エロイーズを演じるのは、近年のフランス映画界には欠かせない存在で、フランスにおける#MeToo運動の象徴的存在としても熱い称賛を贈られるアデル・エネルだ。

『燃ゆる女の肖像』(c)Lilies Films.
監督を務めたセリーヌ・シアマは、自身が世界的に注目されるきっかけとなった『水の中のつぼみ』(07)でタッグを組み、元パートナーでもあるエネルを念頭に本作の脚本を執筆。18世紀のブルターニュの孤島という閉ざされた場所を舞台にしながら、いまを生きる女性にもつながる数々の問題を鮮やかに革新的に描き出し、女性監督として初めてクィア・パルム賞を手にした。

シアマ監督は、撮影現場では特にエネルの意見を重視していたことを明かし、「私は“ミューズ”という概念に終止符を打ちました。お互いの創造性で新たな描き方をしています。私たちの現場にはミューズはいないのです」とまで語る。そんな監督と“共闘関係”のもとで本作に参加したエネルの貴重なインタビューがシネマカフェに到着した。

「最初はまるで能の面を被っているかのよう」
貴族の娘の感情の旅路


規律や伝統を重んじる教育を受けてきたエロイーズは、母親の決めた見合いを控えて修道院から出てきたばかり。“散歩相手”として自分の前に現れた画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)とともに島を散策し、文学や音楽をはじめ様々なことを語り合う中でそれまで自分の知らなかった自分を知るように。やがて、そのマリアンヌと、生涯忘れ得ぬ痛みと喜びを身に刻む恋に落ちる。

『燃ゆる女の肖像』(c)Lilies Films.
エロイーズを演じる上での役作りのプロセスについてエネルは、「平等性から生まれる新たな愛の物語という、全く新しい映画体験となる作品が実現したと確信しています。この映画を1つの旅路だと捉え、観客がこれまでに体験したことのなかった感情をいかに作っていくかについて、自分なりのリサーチに基づいて役作りしました。少し溜めを持たせ、もどかしさを感じるような特定のリズムで展開していくことによって、映画の最後で感情のクライマックスを迎えるという、じわじわくる演技を目指したんです」と打ち明ける。

『燃ゆる女の肖像』(c) Lilies Films. 
感情の変化を意識しつつも、撮影は時系列に沿って順撮りされた訳ではなかった。エネルは続ける。

「正確さが必要になってくるのですが、各シーンが物語のどの段階なのかを正確に把握する必要がありました。(マリアンヌと出会った)最初は控えめで冷たい印象なのですが、物語の流れに従って、より晴れやかな表情へと徐々に変化させていきました。お互いのリズムに合わせ、息を合わせていかなければなりません。本作は女性のまなざしというコンセプトに基づいた作品です。見られる対象だった者が、やがて見る者になっていくという旅路を辿るキャラクターを創っていこうという考えは当初からありました」と明かす。

『燃ゆる女の肖像』(c)Lilies Films.
その旅路に沿って、エロイーズの感情を段階ごとに変化させていったというエネル。「3段階に分け、最初はまるで日本の伝統芸能、能の面を被っているかのように、心の内を明かさない。自分の置かれた状況に反抗するのは、それに逆らおうと戦うことではなく、まるで自分がその場にいないかのように振る舞うことだと考えたからです。しかしその後、能面に徐々にひびが入っていき、やがて割れるのは、マリアンヌと親密になっていくに連れ、知的好奇心を刺激され、芸術に目を向けるようになっていくからです。そして最終的には解放され、生き生きとしていく」と語る。

ノエミ・メルランとは「毎回新しいものが生まれた」


マリアンヌを演じたノエミ・メルランとは本作で初共演となった。初めて顔を合わせたときの印象から、撮影を通じてどう変化していったのだろうか。

『燃ゆる女の肖像』(c) Lilies Films. 
「私達はスポーツのチーム仲間のようなものでした。ノエミならきっと、私が提案したことに対し、彼女なりのリズムで反応してくれるはずだと思ったのです。そして思った通り、毎回新しいものが生まれました。私のことを信じて、一緒に試してみることができる相手に恵まれたのは嬉しかったです」と語るエネル。

さらに、「ノエミは芸術の支持者なのです。芸術には完璧な枠組みなど存在しませんし、真実というのは枠組みを超越したところにあると思っています。リズムというのは、相手との確固たる絆があれば、演技という枠組みを超越したところで正確に刻まれるものなのです」と最大限の賛辞を贈る。

『燃ゆる女の肖像』(c) Lilies Films. 
そんなメルランとシアマ監督との共同作業について、「セリーヌとは12年前、『水の中のつぼみ』でも一緒に仕事をしたことがあるので、お互いのことはよく知っています。私たち3人は真剣に取り組んだのですが、楽しみながらやっていた側面もありました。役に対していつも真摯に向き合いつつ、遊び心も大切にしているのです」と明かした。

「#MeToo運動以前に作られることはなかった映画」


本作を観る者は、これまでの映画で観てきた同時代の女性たちとは全く異なり、自由で、解放された姿に驚くことだろう。18世紀の女性の物語を“いま”描くことについてエネルは、「これは、世界中で巻き起こる#MeToo運動以前に作られることはなかった映画だと思います」と断言する。

『燃ゆる女の肖像』(c) Lilies Films. 
「これまでは、私達の歴史の一部が抹消されているという意識すらなかったわけですが、映画史において取り上げられることのなかった女性の歴史に焦点を当てた物語となっています。本作のような新しい視点から女性を描いた作品がいま作られたというのは、意味のあることです」と、当時は“存在しないもの”とされた女性画家を描いた本作が持つ大きな意義を語る。

さらに、「メインストリームの映画では、幸せとは結婚して子供や家を手に入れることだとして描かれがちですが、それらを手に入れようと躍起になってばかりだと、“自分は本当に幸せなのだろうか? 心の底から信じられる何かがあるのだろうか?” といった問いかけから目を背けることになっているのかもしれません。そういったことも、人生を構築していく上で、基盤とするべき大切なことではないかと改めて考えさせられる作品なのです」と問題提起する。

『燃ゆる女の肖像』(c) Lilies Films. 
そして最後にエネルは、「観客のためにそんな風に想像の世界の扉を開けることは、アーティストが担うべき責任だと信じています。単に美しいラブストーリーだというだけでなく、私自身もこの物語が描かれることを心から望んでいたので、そんな作品に参加出来て光栄に思います」と満足気に語った。

出演作の日本公開も多く、いまのフランス映画を語る上では欠かせない存在だが、本作を最後にしばらく映画出演は控えて舞台出演に専念することを明かしているエネル。その意味でも、観る者の心を震わせる彼女が演じたエロイーズの生きざまをスクリーンで見届けてほしい。

『燃ゆる女の肖像』(c)Lilies Films.
『燃ゆる女の肖像』は12月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて順次公開。
《text:cinemacafe.net》

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