「ザ・ボーイズ」「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」ほか世相を映すアメコミ・シリーズ急増中

エンターテイメントは、いつの世も時代を映す鏡。特に近年は、決して絵空事ではない、現実世界の日常でも起きていることがストーリーに盛り込まれ、示唆に富んでいる。そんな作品を話題のアメコミドラマやアニメシリーズから3作ピックアップした。

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「ザ・ボーイズ」シーズン2 新キービジュアル
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  • Amazon Prime Video「ザ・ボーイズ」
  • Amazon Prime Video「ザ・ボーイズ」
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  • 「ファルコン&ウィンターソルジャー」(C)2021 Marvel
  • 「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」3話 (C)2021 Marvel
  • ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(C) 2021 Marvel
  • ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(C) 2021 Marvel
エンターテイメントは、いつの世も時代を映す鏡。特に近年は、決して絵空事ではない、現実世界の日常でも起きていることがストーリーに盛り込まれ、示唆に富んでいる。そんな作品を話題のアメコミドラマやアニメシリーズから3作ピックアップした。

「ザ・ボーイズ」性暴力や女性蔑視、排斥主義を反映


Amazon Prime Videoにて配信中

腐敗したスーパーヒーロー集団に特別な能力のない自警団“ザ・ボーイズ”が立ち向かう「ザ・ボーイズ」(19~)は、Amazonオリジナル作品史上最も視聴された大ヒット作。シーズン3やスピンオフも決定しており、スーパーヒーローが存在する世界を背景にアメリカ社会が抱える矛盾や問題をブラックユーモアたっぷりに描く。

冒頭から「R18+です、過激な暴力描写や性描写がありますよ」と始まる本作。まず、アニーことスターライトが、スーパーヒーローのエリート集団“セブン”に加わるところから幕を開ける。だが、「世界を救うこと」を夢見たスターライトが直面する性暴力やパワハラ、モラハラ、やりがいの搾取は、現実でも若い女性たち(だけではないが…)が体験する出来事そのもの。性暴力の加害者である海のヒーロー、ディープの弁明も「合意の上だと思っていた」と、どこかで耳にしたことのある言葉だ。

しかもスーパーヒーローたちを取りまとめるヴォート社は、声を上げた彼女に“大胆で勇敢なフェミニスト”のイメージを押しつけ、露出過多のヒーロースーツを強制する。また、クイーン・メイヴの性的指向をイメージ向上のためのマーケティングに利用するのが彼らのやり方だ。

Amazon Prime Video「ザ・ボーイズ」Amazon Prime Videoにて配信中
さらに、コンパウンドVというスーパーパワーを生み出す薬物への依存、LGBTQ+や異教徒などを排除するキリスト教原理主義との関わりなどへの風刺もある。テロリストにコンパウンドVを投与し、脅威となるヴィランを自らつくり出してスーパーヒーローの軍事利用の必要性をアピールしたり、意見の異なる政治家や要人は弱みを握って恐喝し、ときには“強制排除”をしたりと手段を選ばない。

リーダー格のホームランダーがアメリカを“もっと強くて偉大な国にしよう”と力説する姿は、当時のトランプ前大統領とも重なり、白人至上主義者のストームフロントが加わったシーズン2は排斥主義がさらに増長される。特にシーズン2・7話で2人が扇動する集会は実際のニュース映像を見ているかのよう。連日、画一的に繰り返される報道に生真面目に触れていた普通の市民が“洗脳”されてしまう場面も描かれていた。

Amazon Prime Video「ザ・ボーイズ」Amazon Prime Videoにて配信中
リアルタイムで進行中の出来事をここまでエンターテイメント性を持って物語に落とし込めるのは、人気を集める韓国ドラマにも相通じる。

個人的に気になるのは、シーズン3でレギュラーに昇格する2人の女性。ヴォート社のヒーロー・マネジメント担当としてストレスにさらされ、円形脱毛症になってしまうアシュリーと、実際のリベラル女性議員を思い起こさせるヴィクトリア・ニューマンだ。シーズン3には、いっそうリアルでどぎつい展開が待ち受けているに違いない。


「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」予見したかのようなBLMと世界的危機


ディズニープラスにて配信中

「ワンダヴィジョン」「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」、そして「ロキ」と、マーベル・スタジオが始動させたドラマシリーズは、いずれも『アベンジャーズ/エンドゲーム』のその後が舞台。サノスの“指パッチン”で人類の半数が消えてから5年後、アベンジャーズによって無事、元に戻されたかに思えた世界の混乱を描いている。“その後の世界”は決して平穏なものではないのだ。

特に「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(21)で言及される“グローバル・クライシス”は、新型コロナウイルスのパンデミックにより現実のものとなってしまった。劇中では「世界再定住評議会(GRC)」が“復帰、復興、復元”を理念に掲げるものの、世界中に溢れた難民や広がり続ける格差は、人々を元の場所に帰したからといってなくなるわけではない。訴える手段は間違っていたとしても、少女カーリの「世界はひとつ、人はひとつ」という考えに賛同する者たちを誰も責められない。最終話で新たなキャプテン・アメリカが言う「人類はやっと同じ困難を共有できる」という言葉の重みをいまこそ痛感する。

ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(C) 2021 Marvelディズニープラスにて配信中
また、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)で初めて「Black Lives Matter」(黒人の命は大切だ)について取り上げた本作。スティーブと同じように超人血清を投与され、黒人のキャプテン・アメリカとなったイザイアが30年も獄中生活を送り、歴史の闇に葬られたことが明かされた。サム=ファルコンとバッキー=ウィンター・ソルジャーが初めてイザイアを訪ねた直後のシーンも象徴的だ。2人がパッと見、口論しているように見えたなら、警察官が詰め寄るのはサムのほう。彼らがアベンジャーズだと気づくまで、サムに対する威圧的な物言いは続く。この数十秒間でも、黒人のキャプテン・アメリカが決して表に出ることはなかった理由が言い表されている。

「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」3話 (C)2021 Marvelディズニープラスにて配信中
さらに、存在感を放ったジモが、アメリカの超人兵士(ヒーロー)は「もてはやされて危険。シンボルとなり、アイコンとなり、欠点を忘れ去られる」と語ったのも印象深い。これは「ザ・ボーイズ」にも、次に紹介する「インビンシブル」にも通じる鋭い指摘となっている。


「インビンシブル~無敵のヒーロー~」ヒーローものの常識を打ち破る


Amazon Prime Videoにて配信中

「ウォーキング・デッド」の原作者でクリエイターのロバート・カークマンが手がけたAmazonオリジナルアニメシリーズ「インビンシブル~無敵のヒーロー~」(21)も、容赦のない描写が満載のR18+指定作品ながら、アメコミファンやヒーローファンの心をがっちりつかみ、シーズン2&3の製作が決定。上記2作と同様、圧倒的パワー(権力)を持つ者がヒーロー然として世界を救おうとすることの危うさを描いた。

主人公は、スーパーマンのような異次元の強さを持つ父・オムニマンのもとで育ち、スーパーパワーが覚醒した高校生マーク・グレイソン。恋人や進学のことが気になる学生生活と新米ヒーロー活動の両立に悩み、やがて強大な敵に立ち向かうことになる。その初々しさはスパイダーマンのようであり、インビンシブルたちが結成する個性豊かなヒーローチームは“ジャスティス・リーグ”、いや、“ティーン・タイタンズ”か。

ただ、スーパーヒーローの映画やドラマが乱立する中で本作が異色なのは、ヒーローが現実に与える影響から逃げていない点だろう。ヒーローでも殴られれば流血し、大ケガを負う。動き回れば道路が陥没し、ビルが崩れる。誰かを救えても、別の誰かはがれきの下敷きになる。“ヒーロー”が活躍すればするほど、何の関わりもない罪なき市民が巻き込まれ、犠牲が広がっていく。さらには、倒さねばならない強敵に何度も負け続け、理想と現実の違いにも直面する。

どんなに“独りよがり”な正義でも、圧倒的なパワーさえあれば称えられ、崇められるのか? 一般市民は屈するしかないのか? 抵抗の術を持たない弱者は排除されていいのか? アメコミヒーローものの常識を覆す本作は、いまこそ一見の価値がある。
《text:Reiko Uehara》

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