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【レビュー】映画館が“救い”の場に…英国の名優とサム・メンデス監督が紡ぐ『エンパイア・オブ・ライト』

サム・メンデス監督の最新作『エンパイア・オブ・ライト』は、「最も個人的な思いのこもった作品」。人と人のつながり、映画と映画館についての愛の物語

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『エンパイア・オブ・ライト』©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
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映画館が閉鎖され、映画をスクリーンで観ることのできない期間があったコロナ禍。そんな状況下でスティーヴン・スピルバーグ監督や、デイミアン・チャゼル監督、インド出身のパン・ナリン監督らが次々と映画へのラブレターともいえる作品を生み出した。

イギリスの演劇界で活躍し、映画『1917 命をかけた伝令』や『007 スペクター』などでも知られるサム・メンデス監督も、最新作『エンパイア・オブ・ライト』を「最も個人的な思いのこもった作品」として、自身が10代を過ごした1980年代初めを舞台に映画と映画館についての愛の物語をオリジナル脚本で作り上げた。

メンデス監督がその演技に魅了され、主演に起用したオリヴィア・コールマンに、注目の新鋭マイケル・ウォード、英国の至宝コリン・ファースらが“映画館「エンパイア劇場」”に勢ぞろい。社会不安や性的抑圧、メンタルヘルス、人種差別など今日と地続きのテーマが盛り込まれている。


オリヴィア・コールマンが熱演
痛みを抱えた女性の人生に光を射す映画


主人公は、海辺のやや寂れた「エンパイア劇場」で働くヒラリー・スモールという中年女性。過去に辛い経験をして、いまはひとり慎ましく暮らしているヒラリーの前に、サッチャー政権の厳しい不況下で夢を諦め、エンパイア劇場で働き始めた黒人の青年スティーヴン(マイケル・ウォード)が現れる。前向きに生きるスティーヴンと心を通わせながら、次第に生きる希望を見出していくヒラリーだったが、あるときから、まるで人が変わったようになってしまう。

オリヴィア・コールマンは常に“史上最高の演技”を更新していく、現代を代表する“お気に入り”俳優の1人だ。孤独で哀れな女王を演じてアカデミー賞主演女優賞を受賞した『女王陛下のお気に入り』や、ノミネートされた『ファーザー』や『ロスト・ドーター』、あるいは「Fleabag フリーバッグ」のイヤミな継母、「ハートストッパー」の温かい母親役で知る人も多いだろう。

そのほかアニメの声優からマーベル作品まで、近年は特に多彩なキャリアを築いている。もともとシットコム「ピープ・ショー ボクたち妄想族」や映画『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』などコメディで活躍してきたが、その卓越した演技力からシビアな役柄を任されることも多い。

メンデス監督はオリヴィアと面識はなかったそうだが、彼女がエリザベス2世を演じたNetflixシリーズの「ザ・クラウン」を見て本作の主演に当て書きしたという。「ザ・クラウン」シーズン3&4では当時のサッチャー首相(演:ジリアン・アンダーソン)との対立も描かれており、同時代を生きた女性を演じているわけだ。

本作のヒラリーは、毎日エンパイア劇場でマネージャーとしての仕事を淡々とこなす、一見、物静かで繊細な女性だ。スティーヴンと知り合い、惹かれるようになってからは明るい表情を見せるものの、序盤の彼女の瞳は虚ろで光が感じられない。

彼女が抱える事情につけ込んだ劇場支配人のエリスからは、性的な関係を強要されている。多くは語られないが、複雑な内面を持ち合わせているヒラリー。夫からDVを受ける女性を演じた『思秋期』(2010)もよぎる。長びく不況も遠因だろう。幾層にも重なった悲しみ、怒り、拒絶や絶望が彼女の心を蝕んできたのだと、オリヴィアに圧倒されながら腑に落ちていく。その姿には監督自身の母親が投影されているという。

ただ、ヒラリーは、オリヴィアが2021年のドラマ「ランドスケーパーズ 秘密の庭」で演じた、現実から逃げるために映画の世界に生きるしかなかった女性とはまた違う。ヒラリーは映画館で、ある映画に救われる。人生には何が起きるか分からない。決して“煌めき”ばかりではないからこそ、私たちには暗闇に包まれる瞬間が、映画館が必要なのだと彼女が教えてくれるのだ。


イギリスの名優たちが「エンパイア劇場」に集う


『ブルース・ブラザース』から『炎のランナー』まで、「エンパイア劇場」にかかる映画からも時代を感じられる本作。映画を映画館で見ることの喜びと、感情の浄化を描く本作の舞台となったのは、イングランド南東部の海辺の町マーゲイト。“ドリームランド”という名の現存する元映画館とダンスホールというロケーションが使用されている。

劇中では、全盛期を過ぎた「エンパイア劇場」は当初4つあったスクリーンが半分閉鎖されており、ゴージャスだった時代がうかがえる最上階はいまやハトたちの住処になっている。

また、劇場の仕事といえば、上映前後はスナックを用意したり、掃除やゴミ捨てをしたり、売り上げを計算したりと慌ただしいが、上映が始まればちょっとした時間ができる。その時間と、かつての華やかな場所がヒラリーとスティーヴンが心と体を通わすオアシスとなった。

この2人のシーンでは、メンデス監督と5度目のタッグとなり本年度アカデミー賞にノミネートされている撮影監督ロジャー・ディーキンスの手腕がいかんなく発揮された。寂れた空気感の中にも、過去の栄光に思いを馳せることができる映像はスクリーンで目にしてほしい光景ばかり。

何より、スティーヴンを演じるマイケル・ウォードは、あのオリヴィアと対峙しながら眩い光を放つまさに新星だ。スティーヴンが直面する、職にあぶれたスキンヘッドの白人青年たちからの惨い差別もしっかりと描かれる。彼が苦境の白人を助けるためだけの、単なる“親切な黒人”とならぬよう努めていることも伝わってくる。

さらに、オリヴィアと夫婦役を演じたことのあるコリン・ファース扮するセクハラ・パワハラ支配人のエリスはさて置き、スティーヴンに「暗闇の中の光」について話す映写技師ノーマン役(彼の映写室がまた素晴らしい)のトビー・ジョーンズ、「ザ・クラウン」シーズン4でも女王に関わる重要な役を演じていたトム・ブルックら、劇場スタッフたちの人間味と温かさも疑似家族のように2人を包み込んでいる。

『エンパイア・オブ・ライト』は2月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開。

《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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