生活困窮家庭の親子に映画館での鑑賞体験を無償で届ける取り組み「シェアシネマ」が、2026年の夏休み期間(7月16日~9月6日)に実施されている。運営するのは、2008年から子ども支援活動を続ける認定NPO法人チャリティーサンタだ。
サンタクロースが家庭を訪問する「サンタ活動」や、書店と協働して新品の本を届ける「ブックサンタ」などを展開する同法人は、今夏、約8,000人の親子にデジタルギフト型の無料鑑賞チケットを届けている。2024年夏の開始以来、延べ21,000人以上に映画鑑賞体験を提供してきた実績を持つ取り組みである。
厚生労働省が7月に公表した「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」では、2024年の1世帯あたり平均所得が前年比7.3%増の575万2,000円となり、1986年の調査開始以来最大の伸びを記録した。生活が「苦しい」と答えた世帯の割合も55.4%と、前年から3.5ポイント改善している。ただし母子世帯に限ると82.1%が「苦しい」と回答しており、全体では平均所得や生活意識の指標に改善が見られる一方、母子世帯では依然として高い割合で生活の苦しさが示されている。
調査から見える映画館体験の断念
映画館での鑑賞体験は、生活困窮家庭にとって現実に「諦める対象」となっている。チャリティーサンタが2024年7月に実施した調査(※1)では、申し込みのあった1,855世帯のうち84.7%の保護者が「経済的な理由で子どもに映画館での鑑賞を諦めさせた経験がある」と回答した。この1,855世帯のうち、ひとり親家庭は8割以上を占める。異なる調査ではあるものの、国民生活基礎調査の82.1%とほぼ同水準で現れた二つの数字は、子どもの体験機会を削らざるを得ず、子どもに我慢させざるを得ないひとり親世帯の実態を示唆している。

2025年春のチャリティーサンタの調査でも、「身近にある『日帰りでできる体験』で、子どもに我慢させた・諦めさせたことがあるもの」という問いに対し、映画館での映画鑑賞が果物狩りやカラオケなどの娯楽を上回り、最も多くの家庭で諦めさせている体験であることが明らかになった。
実際に家庭からは次のような声が届いている。
「『映画は高いからテレビでやるようになったら見よう』と私が言ってしまっているので、子ども達も言わないようになりました。しかしお友達はみんな色々な映画を見ていて話に入れないこともあるようで申し訳ない気持ちです」
「映画を1度も見たことがありません。私自身も元旦那も母子家庭出身で、映画というものをうちの子は誰も見たことがありません。体験格差はこのことなんだなと思います」
さらに2026年春の調査(※2)では、子どもの体験費用を節約する家庭が67.4%に上る一方、96.0%の保護者が映画館での鑑賞体験に期待することとして「親子の共通の思い出づくり」を最も大切だと答えた。厳しい家計のなかでも、保護者たちが子どもとの体験や会話を強く求めている実態がうかがえる。
※1. 調査詳細:https://www.charity-santa.com/wordpress/wp-content/uploads/2024/11/c08cda0b65a304ac02f8aca130580f4d.pdf
※2. 調査詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000050669.html
シェアシネマは「諦め」を「思い出」に変える取り組み
こうした課題に応えるため展開されているのが「シェアシネマ」だ。寄付をもとに全国の映画館で使えるデジタルギフト型の無料鑑賞チケットを購入し、長期休暇に合わせて生活困窮家庭の親子に届ける取り組みである。

実施の目的は、経済的困難を抱える親子に映画館での鑑賞体験を提供し、夏休みの楽しい思い出をつくってもらうことにある。対象は児童扶養手当、就学援助、生活保護の受給世帯、またはそれに準ずる経済状況にある家庭(プレシングル家庭など)で、全国の映画館(イオンシネマ・ムビチケ対応映画館等)で使用できるデジタルギフト型の鑑賞チケットを無償提供する。
これまでの提供実績は、2024年夏が1,000人(380家庭)、2025年春が3,009人(1,099家庭)、2025年夏が4,074人(1,582家庭)、2026年春が5,000人(1,809家庭)、そして2026年夏が8,072人(3,083家庭)と、回を重ねるごとに拡大している。
参加した家庭からは、次のような声が寄せられている。
「普段、あまり会話をしなくなりつつある思春期を迎えた子どもと久しぶりに一緒に外出をするきっかけになり、たくさん話をすることができました。映画の面白かったところの意見交換はもちろんですが、それ以外の学校での出来事や友だちの事など、普段家ではしてこない話をたくさん聞かせてもらえました」
「映画は高いから行けないと伝えていたが、チケットが当たり行ける事になり、サプライズで連れて行ったら子ども2人ともびっくりしてとても喜んでいました」
「以前から観たいと言っていた映画だったので連れて行けたという(約束を守れた)達成感で、本人からの信頼を得られたと思う」
「子どもが目を輝かせて楽しんでいた」「イベントをきっかけに家族の会話が生まれた」など、多くの好意的な反響が寄せられているという。
「諦める体験」から「映画館とつながる機会」へ
映画館での鑑賞が、経済的な理由から多くの家庭で諦められている体験であることは、映画業界にとって看過すべきことではない。シェアシネマのような取り組みは、単なる支援にとどまらず、これまで映画館から遠ざかっていた層に「映画館で観る」という原体験を届ける接点でもある。
子どもの頃に映画館で得た記憶は、将来の観客層の裾野を静かに広げていく。困窮家庭への支援という社会的意義と、映画館体験の継承という産業的意義が交差する点に、この取り組みの注目すべき射程がある。


