テレビ東京系列の「韓流プレミア」枠で放送中の『火の女神ジョンイ』。ムン・グニョンが演じる主人公ユ・ジョンは、王子との恋に揺れるだけの時代劇ヒロインではない。土を選び、火を操り、自らの技術だけを武器に宮廷の職人社会へ挑んでいく女性である。
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本作の舞台となるのは、朝鮮王室で使われる陶磁器を製造していた「分院」。王や宮廷のために器を作る場所であると同時に、陶工たちが技術と地位を争う厳しい世界として描かれる。
華やかな宮廷を描いた韓国時代劇は数多いが、陶磁器を作る職人たちを物語の中心に据えた作品は珍しい。誰がより美しく、丈夫な器を焼けるのか。土の配合や釉薬、窯の温度といった職人の知識が、宮廷内の権力争いとも結びついていく点が『火の女神ジョンイ』の大きな特徴である。
男装して職人の世界へ飛び込むジョンイ
ユ・ジョンは、沙器匠ユ・ウルタムに育てられた活発な少女である。幼い頃から土や窯に囲まれて成長し、やがて優れた陶工になる才能を見せ始める。

しかし、当時の陶工社会は男性が中心だった。ジョンイは自らの夢をかなえるために男装し、別の名前を使って分院へ入ることになる。
ムン・グニョンが時代劇で男装姿を見せるのは、天才絵師シン・ユンボクを演じた『風の絵師』に続いてのことだ。本作では絵筆ではなく土と炎に向き合い、職人として認められようとする女性の負けん気と情熱を表現している。
撮影中には機材が落下し、目の周辺を負傷するアクシデントにも見舞われた。それでも撮影に復帰し、最後まで主人公を演じ切ったムン・グニョン。その姿勢を、共演したチョン・グァンリョルも高く評価していた。
技術だけでは生き残れない宮廷の陶工社会
ジョンイの前に立ちはだかるのが、チョン・グァンリョル演じるイ・ガンチョンである。
ガンチョンは分院で大きな権力を握る沙器匠だ。優れた技術を持つ一方、自らの地位を守るためには策謀も辞さない。ジョンイを育てたウルタムとは激しく対立し、その因縁は次の世代であるジョンイにまで引き継がれていく。
ジョンイが乗り越えなければならないのは、陶磁器作りの難しさだけではない。身分の壁、女性への偏見、師匠や父をめぐる因縁、そして宮廷内の権力争いが、次々と彼女の前に立ちはだかる。
努力すれば必ず報われる世界ではない。それでもジョンイは、陰謀に対して陰謀で返すのではなく、より優れた器を作ることで自らの価値を証明しようとする。
宮廷を舞台にしながら、最後にものを言うのは身分や血筋ではなく、職人として積み上げた技術である。その構図が、本作を単なる宮廷ロマンスとは異なる作品にしている。
光海君とキム・テド、ジョンイをめぐる2人の男性
そんなジョンイと心を通わせるのが、イ・サンユン演じる光海君(クァンヘグン)である。
のちに朝鮮王朝第15代王となる実在の人物だが、本作では王になる前の青年として登場。身分を超えてジョンイの才能を認め、彼女が陶工として歩む道を支えようとする。
一方、キム・ボムが演じるキム・テドは、幼い頃からジョンイを見守ってきた人物だ。自らの思いを前面に出すよりも、危険から彼女を守ることを優先する。
王子としてジョンイを愛する光海君と、影のように彼女を守るテド。対照的な2人の存在がロマンスに緊張感を加えるが、物語の中心にあるのは、あくまでジョンイ自身がどの道を選ぶかである。
王に選ばれるのではなく、自らの腕で道を切り開く
ジョンイのモデルになったとされるのは、のちに日本へ渡り、有田焼の発展に関わった女性陶工・百婆仙(ペク・パソン)である。
ただし、ドラマで描かれる光海君との恋や分院での出来事はフィクションだ。史実の百婆仙とドラマのジョンイは、そのまま同一視できる人物ではない。
それでも、男性中心の陶工社会で技術を磨き、困難な状況でも作陶を続けた女性という根幹には、百婆仙の生涯が重ねられている。
王子から愛されることがジョンイの到達点ではない。自らの手で作った器によって、職人として認められることこそが彼女の目標である。
『火の女神ジョンイ』は、身分違いの恋を描いた時代劇であると同時に、一人の女性が職人として生きる場所を勝ち取っていく物語なのである。
文=森下 薫
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