少年・心平は父を早くに亡くすが、豊かな自然に囲まれ、優しい母のもと楽しく伸び伸びと育ってきた。絵を描くことが大好きで、授業中でも絵に夢中になってしまう。そして放課後は身体の弱い母に食べてもらおうと、川でひたすら魚捕りをする。耳が聞こえない小百合とは小さな頃からいつも一緒で、不思議と2人の間では言葉が通じ合った。年上の少年、英蔵はそんな小百合に秘かに想いを寄せていた。しかし彼の言葉は伝わらず、小百合が必死に発する言葉も彼には理解できなかった。嫉妬と苛立ちを募らせる英蔵は、いつも心平につらく当たってしまう。そんなある日、心平は大きくて美しい魚、雨鱒に出会う。驚いたことに、この雨鱒はまったく逃げず、それどころか心平に語りかけてくるのだった。すぐに友だちになった心平と雨鱒は、以来毎日川で一緒に遊ぶようになるのだった。
磯村一路