響が蓮司と初めて会ったのは警察学校を出て中洲警部交番に着任した頃のこと。巡回していた真夜中の公園通りの路地裏で幼い子どもと出会う。その子どもが蓮司、当時7歳だった。蓮司の両親は夜の歓楽街、中洲で働くホストとホステス。蓮司の母あかね、父正数。2人は蓮司のことを放ったらかしにし、世話もせず、かまうことはない。一人夜の街へ放り出された蓮司。夜の街中洲は蓮司にとって遊び場であり、生きていくために過ごすホームのような場所であった。それが蓮司にとっての日常であった。中洲に住むワケありな人たちは蓮司の境遇を思い、食べ物や寝る場所を与えた。中洲の大人たちも、それぞれに人には言えない事情を抱えていた。笑って生き抜く、中洲に生きる人たちの生き様が孤独な少年蓮司の心を溶かして行く。そして少年蓮司は中洲の子どもになった…。
辻仁成