萩野谷幸三、63歳。普段は歯科技工士として黙々と働きながら男手一人で息子を育てる実直な男だが、実は息子も認める彼のひそやかな情熱がある。それは、テレビや映画にエキストラとして出演することである。ある時は、時代劇の町民に、ある時は貧しい農村民。華やかなスターたちの影で、彼らのようなエキストラは、ただ一瞬でも自分の姿がスクリーンに映ることだけを夢見て、演じ続ける。スターが事件を起こして、その作品がお蔵入りになったとしても。そんな中、萩野谷が所属するエキストロ派遣団体にいる一人のエキストラが、刑事事件の容疑者ではないかという疑惑が上がる。そこでおとり捜査として、自らもエキストラとして様々な撮影現場に派遣された警官たちとその男の攻防が繰り広げられるのだ。映画は生物、どう転ぶかは運次第。まるで、我々の人生のように――。
村橋直樹