多摩川河口の干潟は狭い範囲に、多くの種類のカニが生息する貴重な自然の宝庫である。大都会の中で、これほどのカニが見られる場所はかなり珍しい。吉田唯義は、ここで15年に渡って独自にカニの観察を続けている。毎日のように干潟を訪れては、カニたちの生態を調べ記録しているのだ。吉田は誰よりも多摩川のカニに詳しいが、その視点はとてもユニークで、他の人が考えつかないような方法でカニたちの生態を調べている。映画は吉田と干潟をフィールドワークしながら、カニたちの驚くべき営みを見つめていく。そして小さなカニたちの営みが地球や月など、宇宙とも結びついていることを解き明かし、さらには戦争や震災が与えた現実の問題までを描き出す。多摩川の河口にひっそりと残る干潟をテーマに撮り上げた2本の連作ドキュメンタリー“TOKYO HIGATA PROJECT”の1本。
村上浩康