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【MOVIEブログ】Moosic Lab (下)

Moosic Labの続き。『あの娘はサブカルチャーが好き』は、谷口恒平監督によるちょっとフェイクなドキュメンタリー。どこまでフェイクでどこまでマジなドキュメンタリーなのかを想像しながら観るのが楽しい作品。

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『おとぎ話みたい』
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Moosic Labの続き。『あの娘はサブカルチャーが好き』は、谷口恒平監督によるちょっとフェイクなドキュメンタリー。どこまでフェイクでどこまでマジなドキュメンタリーなのかを想像しながら観るのが楽しい作品。

谷口監督はどのような映画を撮るかを悩んだ末に、知人が映画を撮る過程を追うことにする。その知人は主演女優と揉めたりして、映画作りは遅々として進まない…。いかに映画を作ればいいのか、そしてその映画を作る自分は何者なのか、の問いかけを、劇中の監督と谷口監督自身が共有していく入れ子構造になって、まさに「自分探し地獄」。谷口監督も映画に登場するので、劇中監督と重なり、ドッペルゲンガー・セルフ・フェイク・ドキュ、みたいな。

悩む道程が分かりやすく示されているので、観客はよくぞ仕上げたなあ、と褒めたい気持ちでいっぱいになるのだけれど、それをも計算に入れていたとしたら、なかなかしたたかな監督ですね。ただ、映画の「ウソ」や「虚構性」に対するスタンスが少しナイーヴというか、もっと堂々とやればいいのに、ともどかしい気持ちにもなってしまう。タネがあることを恐縮している手品師みたい。映画では「ウソ」をつくことに後ろめたさを感じる必要はないはず。描かれる感情が本当であればいいのだから。

去年のMoosic Lab作品の1本にフィーチャーされ、その音のカッコよさに僕もたちまちファンになったバンド「うみのて」が、再びコラボ相手に選ばれたのが『ひとりの馬鹿』。『大拳銃』や『へばの』で注目された大畑創監督と、今年のゆうばりで話題になっていた『クソすばらしいこの世界』の朝倉加葉子監督が共同で監督した20分の作品です。社会派ドラマと思わせてシリアルキラーものに展開する楽しい作品なのだけれど、今回はパート1ということで続編との合わせ技に期待したい!

2012年のゆうばりで上映されて、僕もとても好きだった『もしかしてバイバイ』の高畑鍬名監督と滝野弘仁監督のコンビが手がけた新作が『Fuck me to the moon』。2人の青年とひとりの女性のエロティックな三角関係を描く内容。ふたりの青年の関係にいささか分かりにくいところがあり、新鮮なヒロイン像が秀逸だった『もしかしてバイバイ』の域にはちょっと及ばなかったかな? でもチャレンジングな作品であることは確かなので、是非とも今後も作り続けてもらいたいです。今後に期待。

今回の僕のびっくり収穫のひとつが『アナタの白子に戻り鰹』という今井真監督の作品。東映ヤクザ映画のルックに、松竹寅さん的な兄と妹の物語を持つ、絶妙なコメディー人情ドラマ。物語の展開に淀みがなく、奇妙な笑いのセンスもたっぷり。浦安の魚市場で魚屋を経営する兄妹のもとに、マリリン・マンソンみたいな男が闖入するのだ。なんというバカバカしい(もちろん褒め言葉)設定! いやあ、面白い。何よりも、「漁港」というバンドのフロントマンである森田釣竿氏の演技が素晴らしい。え? プロの役者さんでないの? と驚いてしまった。Moosic Lab主演男優賞があったら、僕は森田氏に1票!

そして、Moosic Labの全プログラムのトリを飾ったのが、『あの娘が海辺で踊ってる』が一部でセンセーショナルな話題となった山戸結希監督による『おとぎ話みたい』。

センスが溢れんばかりに漲っていながら、技術的にはまだ稚拙であった『あの娘が海辺で踊ってる』に比べると、もう山戸監督の急激な成長には度肝を抜かれる。その成長のスピードと破壊力は、まるで『エイリアン』の幼虫のよう。『おとぎ話みたい』は、幼虫が体内を突き破って出てくるように、やすやすと自主映画の殻を破っており、もはや別世界へ飛び立っているような風格を備えていた!

内容は、ダンサー志望の女子高生が先生に恋をする物語。地方都市の屈折したコンプレックスを内包しつつ、山戸監督特有の前のめりのスピード感で映画は疾走する。Moosic Labのコンセプトにガチで勝負するように、バンド「おとぎ話」の曲とライブシーンを全編に挿入し、それでもドラマ部分が負けることなく映画として堂々と成立しているところが素晴らしい。

アッパーなドラッグを摂取したような、恋する心がもたらす無敵で前向きな感覚を、ロックミュージックのビートが煽り、ダンサーとしての成長願望も強く抱くヒロインの背中を強く押していく。恋愛映画の甘さはなく、あるのは、前向きだけれどヒリヒリとした、人生は長いはずなのに今しかないと思い込んでしまう青春期特有の、焦燥感一歩手前の切迫感。追い立てられるような、前のめりの疾走感。スピード感を作り出す編集も素敵だ。

「肉体」と「言語」、踊りと独白。山戸作品に独創的な形で現れるこれらのキーワードが、どのような形で国境を超え得るか。肉体を捉える映像は、もっとパワフルになれる余地を残している(=まだのびしろがある)。そして、「山戸語」とも呼ぶべき独自の言語感覚が、英語字幕にした時にどこまで伝わるか。国際映画祭業務に関わる身としては、そろそろ次の展開が気になってきた!

とまあ、Moosic Labネタ、3回にも渡って書いてしまいました。もっと早くアップするはずだったのに…。とにかく、上映は26日(金)まであるので、若く自由な映画に興味のある人には、是非、体験&発見をおすすめします。

ところで、Moosic Labのことを書きながらも、テアトル新宿で開催中の「群青いろ」(高橋泉監督と広末万哲監督のふたりによる製作ユニット)の上映会にも足をはこび、もはや孤高のポジションで気高く輝く「群青いろ」作品に久しぶりに接し、彼らが提示するインディペンデント映画の志のあり方に頭を殴られたような気にもなりました。ああ、現在のシーンについてまとめた形で書いてみたいと思いつつ、もうこれ以上長くなれないので、いつか項を改めることにして、今回は終了!
《text:Yoshihiko Yatabe》

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