【MOVIEブログ】2016カンヌ映画祭 Day8

18日、水曜日。目覚まし時計の電池が切れてアラームが鳴らなかったにも関わらず、6時半にきっちり目が覚め、7時20分に外へ。日曜からは連日の快晴続きで嬉しい!

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18日、水曜日。目覚まし時計の電池が切れてアラームが鳴らなかったにも関わらず、6時半にきっちり目が覚め、7時20分に外へ。日曜からは連日の快晴続きで嬉しい!

7時半に会場入りし、8時半からのコンペで、本日はダルデンヌ兄弟の新作『The Unknown Girl』からスタート。地方都市のクリニックに勤務する女医が、近隣で起きた身元不明の女性の死亡事件に責任を感じ、自ら調べていくが…、という物語。

主演はアデル・ハネル嬢(とてもいい)。全てのシーンに登場する彼女に映画は密着し、慌ただしい日常の断面をリアルに紹介していく。その中で事件を進行させるダルデンヌ節に淀みは無く、いつものようにぐいぐいと見せてくれる。しかし、『サンドラの週末』で感じられた、ヒリヒリするような緊張感(と、時折その緊張感をほぐすような場面を挿入する巧みさ)は希薄で、ダルデンヌの中では並みの出来に位置するのではないだろうか。それでも、一級の仕事であることは間違いない。

続いて、「ある視点」部門でイランのベーナム・ベーザディ監督新作『Invasion』へ。ベーザディ監督は、前作『ルールを曲げろ』で東京国際映画祭に来日してくれた監督。開映前の入場時に、ちょうどいいタイミングでロビーに監督がいたので声をかけたら、顔を崩して再会を喜んでくれた! 熱いハグを交わし、ああ、これこそ映画祭業務冥利に尽きる瞬間。嬉しい。

作品は、スモッグに覆われる現在のテヘランを舞台に、老母の世話を巡って意見が対立する兄妹の物語。妹の視点で語られ、身勝手な判断で妹を苦しめる兄と姉が腹立たしく、リアルだ。イランの社会が垣間見えると同時に、世界のどの都市のどの家族にも起こり得る物語なので、多くの観客に訴える力を持っているはず。

たたみかけるような口論をきっかけに物語を進めていく演出は前作から引き継がれていて、同世代のファルハディとも共通した迫力を持つストーリーテラーだ。ベーザディが「ある視点」で、ファルハディがコンペというのは、現在のイラン映画界の底力を感じて、なんとも興奮する!

13時から、一件インタビューに答える。これは書いていいのかどうか分からないので、やめておこうかな。

14時から、ある国のプロデューサーから見てほしいと言われた作品の試写へ。僕を含めたいくつかの国の映画祭関係者が呼ばれたクローズドなプライベート試写で、ありがたいことではあるのだけど、冒頭から作品のあまりのレベルの低さに、30分も経たないうちにみんな出て行ってしまった。気がついたら、僕とプロデューサーのふたりだけになってしまい、出るに出られない! タイミングを逸したまま地獄のような時間を過ごし、90分まで何とかガマンしたけど、ごめん、もう無理ということで退場。カンヌは残酷というけれど、その残酷な側に回ってしまい、心苦しい限り…。もっと時間に余裕があるときだったらいいんだけど…。

ホテルに戻ってスーパーで買っておいたサラダを食べ、すぐにまた外へ。

上映会場に16時から1時間並んで、17時からコンペ部門でオリヴィエ・アサイアス監督新作『Personal Shopper』(写真)へ。亡くなった双子の兄からの交信を待つ女性を巡る、スピリチュアルで不思議な物語。有名モデルの衣装調達係というクルステン・スチュワートの役柄は、スター女優のアシスタント役だった『アクトレス~女たちの舞台~』に共通しているけれど、『アクトレス』がビノシュとの共演だったのに対し、今回は出ずっぱりの主役。

というか、アサイアスがクリステンの美しさをとことん際立たせたい為に作ったような作品で、監督の女優に対する偏愛がほとばしる。古くはヒッチコックのグレース・ケリーに対するような、あるいは近年ではウディ・アレンのスカーレット・ヨハンソンに対するそれのような。作品の主題以前に、巨大な女優愛が立ちはだかる。こんな作品があってもいい。僕は好き。

ところで、映画の中身とは全然関係無いけど、近年の現代劇にはスマートフォンの登場が欠かせなくて、女医のアデル・ハネルも、テヘランで苦闘するヒロインも、パリで不可解な事態に遭遇するクリステン・スチュワートも、片時もスマホから手が離せない。結果、始終携帯に向かっているシーンばかり見ることになる。気にならない人は気にならないだろうけど、僕はちょっとうんざりしてしまう。

昨日見たジャームッシュの『Paterson』が心から離れないのだけど、何がいいって、携帯電話が一度も出てこない(正確に言うと一か所だけ象徴的な形で出てくる)のがいい。アダム・ドライバー扮する主人公は、知人から「スマホを持てばいいのに」と言われ、「いらないよ。そんなものが無いときだって、世の中はちゃんと回ってた」と答える。これだよこれ。この、古き良き時代に対する密かな怒りを込めた追悼が、『Paterson』の全編を貫いているのだ…。

続いて19時15分から「特別上映」の枠で、フランスのポール・ヴェキアリ監督の『Le Cancre』という作品へ。「カンヌ予習」ブログではマチュー・アマルリック主演と書いてしまったけどそれは間違いで、マチューは友情出演のような形だった。監督本人が扮する老人が、過去の恋人たちを追想していく内容。滋味深いと呼べる作品ではあったけれど、110分が少し長かった…。

そして21時45分から、コンペのブラジル映画で『Aquarius』。初老のクララという女性が、精魂込めて作り上げたマンションの一室からの立ち退きを迫られるものの、抵抗していく物語。ただ、このプロットは映画の一部にしか過ぎず、より大きなスケールと、かなり特異な監督のセンスを備えた、非常に見応えのある作品だった!

ということで感想をもう少し詳しく書きたいのだけど…。今宵もそろそろ2時半を回り、力尽きてきました。また後日追って書くことにします。おやすみなさい!
《矢田部吉彦》

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