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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭予習<「ある視点」編>

5月8日から開幕するカンヌ映画祭作品予習の第3弾は、メインの「コンペティション」部門に次ぐ第2コンペ的位置付けである「ある視点」部門の作品をチェックしてみます。

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5月8日から開幕するカンヌ映画祭作品予習の第3弾は、メインの「コンペティション」部門に次ぐ第2コンペ的位置付けである「ある視点」部門の作品をチェックしてみます。

【ある視点】
「ある視点」部門にも審査員がいて、作品賞や監督賞が授与されます。2年前に深田晃司監督が『淵に立つ』で受賞したのは記憶に新しいですね。今年は18本。次代を担う才能や、既に実績のある監督がひしめき合っており、出来る限り1本でも多く見ておきたい部門です。

『Donbass』(ウクライナ/セルゲイ・ロズニッツア)
『Border』(デンマーク/アリ・アッバシ)
『Sofia』(フランス/メリエム・ベンバレク)
『Little Tickles』(フランス/アンドレア・ベスコン&エリック・メタイエ)
『Long Day’s Journey Into Night』(中国/ビー・ガン)
『Manto』(インド/ナンディタ・ダス)
『Sextape』(フランス/アントワーヌ・デロジエール)
『Girl』(ベルギー/ルーカス・ドント)
『Die, Monster, Die』(アルゼンチン/アレハンドロ・ファデル)
『Angel Face』(フランス/ヴァネッサ・フィリョ)
『Euforia』(イタリア/ヴァレリア・ゴリノ)
『My Favorite Fabric』(シリア/ガヤ・ジジ)
『Rafiki (Friend)』(ケニア/ラヌリ・カヒウ)
『The Harvesters』(南アフリカ/エティエンヌ・カロス)
『In My Room』(ドイツ/ウルリッヒ・ケーラー)
『El Angel』(アルゼンチン/ルイス・オルテガ)
『The Dead and The Others』(ポルトガル/ジョアン・サラヴィサ&ルネー・ナデル・メソラ)
『The Gentle Indifference Of The World』(カザフスタン/アディルカン・イェルザノフ)

知らない監督の名前が半分くらいありますね…。今年は発見系が多そうです。情報はあまりありませんが、1本ずつチェックしていきましょう。

『Donbass』(ウクライナ/セルゲイ・ロズニッツア)(写真)
セルゲイ・ロズニッツア監督は過去に3度カンヌコンペに選ばれている常連で、昨年は『A Gentle Creature』という美しい怪作が出品されていました。『A Gentle Creature』は見れば見るほど理解の深まる(気がする)暗喩に富み、官僚社会への痛烈な皮肉に満ちた悪夢的に恐ろしい作品でした。日本公開が無いのが残念ですが、ウクライナを代表する監督の1人です。

新作『Donbass』は「ある視点」での上映となりましたが、部門のオープニングを飾ります。タイトルの「ドンバス」とは、対露関係も絡んで内戦状態が続くウクライナ東部地方の名前。各種情報サイトで『Donbass』は「ドラマ」と表記されてはいるものの、ウクライナ東部の現状を市民の目線から伝えてくるドキュメンタリーかもしれません。ウクライナで起きていることを映画で見る機会はまだ多くなく、本作の重要性はとても大きいと思われます。

しかし、「特定の国や地域や政治システムだけの問題ではない。人類と文明全体、つまり我々全員に関わることなのだ」と作品の紹介文が綴るように、映画はより広い射程を目指すはずであり、一級の映画作家が現状をどのように捉えているのか、真摯に噛みしめたいと思います。

『Border』(デンマーク/アリ・アッバシ)
アリ・アッバシ監督はイラン系のデンマーク人で、長編1作目の『Shelley』(15)が2016年のベルリン映画祭パノラマ部門でプレミアされています。『Shelley』はデンマークの田舎を舞台にした雰囲気のあるアート系ホラーで、移民の女性が地元の夫婦のために代理出産を引き受けるものの、妊娠期間に体調が悪化し、果たして身ごもっているのは悪魔なのか、という物語でした。ジャンルものにアート風味を加えながら移民問題をうまく取り入れ、とても実力のある監督だと思ったものです。

そして2作目の新作が『Border』。入国管理官の女性が不審者を尋問するうちに、自分の存在自体に疑問を抱き始める…、というのがあらすじ。これだけで惹かれます。

『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが脚本に参加していることにも興奮します。アッバシ監督のコメントによれば「『Border』は世界に居場所を見つけることに関する作品です。規範から外れたものに対する西側社会の仕打ちにも触れるため、政治的要素も含むでしょう。古典的な神秘主義と現代の日常が交差し、ふたつの世界が衝突します。『ぼくのエリ 200歳の少女』のように。私のスタイルは北欧的マジカル・リアリズムなのです」。

『Sofia』(フランス/メリエム・ベンバレク)
メリエム・ベンバレク監督はモロッコ系のフランス人で、上述の『Border』もそうですが、移民系の監督たちが活躍し、映画のボーダーレス化が加速している状況はとても刺激的ですね。『Sofia』はベンバレク監督の長編1本目であり、モロッコのカサブランカを舞台にしています。

両親と暮らす20歳のソフィアが妊娠するが、モロッコでは婚外出産が違法であり、出産後の病院は彼女に24時間の猶予を与える。つまり、24時間以内に子どもの父親の名前を届け出ないと、病院は当局に通報してしまう…。というのがあらすじ。

ベンバレク監督のコメント:「映画におけるアラブ世界の女性の描かれ方に足りないものがあると感じていました。女性は父性社会の犠牲者であり、男性に支配されている存在であると描く映画がとても多い。ある程度は正しいとは思いますが、十分ではありません。もっと社会的経済的文脈を総合した中での表現が必要だと思うのです」。ああ、これも必見。

『Little Tickles』(アンドレア・ベスコン&エリック・マタイエ)
79年生のアンドレア・ベスコン(つづりはBescondで、「s」は読まずにベコン、あるいはブコンかもしれない)と58年生のエリック・マタイエの共同監督による作品で、長編1本目とされています。ふたりはともに舞台を中心に活動する役者で、単独でも映画の監督はしていないようです。

まずベスコンが映画化を視野に入れた本作の脚本を2015年に書き、同年と翌年に彼女自身が出演する舞台版を上演し、それをエリック・マタイエが演出しています。どうやら一人芝居であるらしく、語りと踊りとユーモアと涙を含み、受賞も果たした舞台版は高い評価を得たようです。

その後映画化するにあたり、ベスコンとマタイエが共同で監督したというのが経緯のようです。映画版は一人芝居ではなく、ベスコンが主演で、共演者にカリン・ヴィアールの名前もあります。8歳の少女が家族の友人に「くすぐられた」ことで人生を狂わされた話のようですが、それが幼児虐待的な内容なのか、全然違う観点なのか、ちょっと分かりません。楽しみにしましょう。

『Long Day’s Journey Into Night』(中国/ビー・ガン)
中国のビー・ガン(畢贛)監督新作です。長編1作目の『凱里ブルース』(15)がロカルノ映画祭でプレミア上映されて話題となり、それから台湾の金馬奨で受賞するなど高い評価を得ています。詩的なリアリズムが特徴として挙げられていますが、長編2本目でカンヌ入りを果たし、中国期待の若手(1989年生)監督です。

新作はタン・ウェイ(湯唯)やシルヴィア・チャン(張艾嘉)といった有名女優を配していることから、少し華やかな印象を与えます。しかし、罪には問われなかったものの女性を殺害した男が故郷に帰り、美しかったその女を思い出す日々を送るという物語は、過去と現在や夢と現実が混在するようで、やはりビー監督の詩的リアリズムは今作でも健在のようです。

『Manto』(インド/ナンディタ・ダス)
女優、そして映画作家として確固たる地位を築いているインドのナンディア・ダス監督による新作です。同性愛をテーマに持つ『Fire』(1996)や、DV夫を殺したかどで死刑宣告を受ける女性を描いた『Provoked』に出演するなど、ナンディタ・ダスはボリウッドとは距離を置く、野心的な社会派インド映画を代表する存在のひとりであり、2005年にはカンヌのコンペ部門の審査員も務めています。

初監督作品は、2002年のグジャラート州における反イスラム暴動の余波を描いた『Firaaq』(08)で、内外の映画祭で受賞した数は20を超えたとのこと。そして今回の『Manto』が10年振り2作目の長編監督作です。

『Manto』は、インド独立期に多くの作品を残した重要な作家、サーダット・ハサン・マントの生涯を映画化したもので、動乱の時代に大胆な表現を恐れなかった表現者の姿を通じてダス監督は多くのメッセージを伝えてくるに違いなく、襟を正して作品を待ちたいと思います。

『Sextape』(フランス/アントワーヌ・デロジエール)
『Sextape』はフランスのアントワーヌ・デロジエール監督による18年振り、3本目の長編作品です。僕はこの監督には全く不案内で、名前も初めて聞いたと白状します。多くの短編や中編を作っていて、プロデューサーとしても活動しているようですね。よく知らない存在ではあるものの、フランス映画の激しい競争率を潜り抜けてカンヌ初参加を果たしていることから、逆に注目したいと思わされます。

『Sextape』のフランス公開レーティングが16禁なので、激しい描写があるのかもしれません。10代の少年少女によるセックスと動画撮影を巡るトラブルが描かれるようですが、詳しくはわかりません。これは見て確認するしかなさそうです。

『Girl』(ベルギー/ルーカス・ドント)
ベルギーの新人ルーカス・ドント監督(91年生)は、2作の短編が国内の映画祭で評価され、ミュージック・ビデオの分野でも活躍し、そのビジュアル・センスが注目される存在のようです。初の長編作品『Girl』でカンヌ入りを果たしました。

男性の体に生まれついてしまった15歳の少女がバレリーナになる夢を叶えようとする物語で、あらゆる手段を講じ、困難に立ち向かうプロセスに父親が協力するというプロットに心がざわつきます。親子の強固なドラマにバレエシーンもふんだんに含まれる模様で、果たして大型新人の登場なるか?期待が高まる1本です。

『Die, Monster, Die』(アルゼンチン/アレハンドロ・ファデル)
アルゼンチンのアレハンドロ・ファレル監督はパブロ・トラペロ監督作品で脚本を手掛けたのち、2012年に初長編作品『Los Salvados (The Wild Ones)』を監督し、カンヌの「批評家週間」に選出されています。

少年院を脱走する少年少女の行方を描く一種のロードムービーだった『Los Salvados』は、脚本家出身者の反動かと思えるほどの映像優先・説明省略型作品で驚いた記憶があります。僕は少しミニマリズムが過ぎる印象を受け、感想を保留したことを今になって思い出しています。さあ、6年振りとなる新作はどうだろうか?

アンデス山脈近くの辺境の地にて、頭部のない女性の死体が見つかる。地元警察のクルーズは、愛人の夫のダビッドを容疑者として精神病院送りにするが、ダビッドは、突然モンスターが出現したのだと主張する…。

壮大な景観のもと、モンスターと自我を巡る作品が予感され、これは興味を惹かれますね。前作からすれば単なるスリラーでないことは間違いないでしょう。好きにしろ、それほど好きでもないにしろ、一人の作家を追いかける喜びは他の何ものにも代え難いです。個人的には、良い意味での裏切りを期待して臨む1本になりそうです。

『Angel Face』(フランス/ヴァネッサ・フィリョ)
ヴァネッサ・フィリョ監督も本作が長編1作目で、フォトグラファーとしても活動している映像作家のようです。処女長編でいきなり主演にマリオン・コティヤールを迎えているところをみると、並みの新人ではないと思った方がよさそうですね。

8歳の娘と二人で暮らす母が突然出会ったばかりの男について出て行ってしまい、放置された娘が懸命に母を取り戻そうとする物語のようです。予告編には、無責任な奔放女と娘を愛する母親との2面性を持った女性をコティヤールが魅力的に演じている姿が見られます。

大物コティヤールが新人監督の作品に出ることも、そして「ある視点」部門に登場するのも珍しいかも。目をかけた新人監督にスター俳優が協力するという美談に映画ファンは弱いですが、果たして結果はいかに?

『Euforia』(イタリア/ヴァレリア・ゴリノ)
こちらは現代イタリアを代表する女優のひとり、ヴァレリア・ゴリノの監督作。『Miele (Honey)』(13)に次ぐ2作目の長編です。

2013年の「ある視点」で上映された『Miele』は、安楽死を手伝う女性の葛藤を描く作品でした。しかし『アムール』(12)や『母の身終い』(12)といった同じ主題を扱った傑作の記憶が新しい時期で、ちょっと厳しいなというのが当時の僕の感想でした。深刻な内容のわりには妙にハッピー・エンド調のラストが気になったことを思い出します。それでも、カトリックの影響が強いイタリアで安楽死を扱うことは安易でないと想像できますし、スター女優が取り組む意義に疑義を挟むものではありません。

しかしあらすじに触れる限りでは、今作『Euforia』はがらりと趣を変え、ふたりの兄弟の関係が語られています。ひとりは成功した起業家で魅力的な社交家、もうひとりは故郷の街にとどまり、慎重で正直な学校の先生。疎遠なふたりを、ある出来事が接近させる…、という物語であるようです。なんといってもキャストが魅力で、リカルド・スカマルチヨとヴァレリオ・マスタンドレア!

これはもう必ず見たいキャスティングですね。ふたりのやり取りを想像するだけで楽しくなります(コメディー要素があるのかは分かりませんが)。自らも人気役者の監督が、当代きっての人気役者たちをどう演出するのか。それぞれのやり方で喪失や痛みから逃れようとしている兄弟の関係がいかに描かれるのか。とても楽しみです。

『My Favorite Fabric』(シリア/ガヤ・ジジ)
シリアのダマス出身で、現在はパリを拠点にしているガヤ・ジジ監督は本作が長編監督1作目です。パリで映画を学んだあとに短編を数本製作し、ケリング社がカンヌ映画祭とのパートナーシップで立ち上げた「Woman in Motion」賞を2016年に受賞しています。

『My Favorite Fabric』は2011年、内戦が始まろうとしているダマスを舞台に、より良い生活を夢見る25歳の女性の姿を描きます。アメリカに移住したシリア人男性を結婚相手として紹介され、夢が叶ったと喜びもつかの間、男性はヒロインの妹を選んでしまう。失意のヒロインは近所に越してきた中年女性と仲良くなり、その女性は売春宿を開こうとしていた。そして街の緊張は高まっていく…。

現在のシリアを語れる作家の存在の重要性は、いくら強調してもし過ぎることはないでしょう。女性の目から見たシリアとその文化、風習と戦争。今年の「ある視点」には重要な新人が集まっている印象がありますが、その中でもガヤ・ジジ監督に対する注目度は突き抜けていくような予感がします。超必見リスト入りです。

『Rafiki (Friend)』(ケニア/ラヌリ・カヒウ)
ケニアの映画作家ラヌリ・カヒウ監督2本目の長編です。カヒウ監督はナイロビで生まれ、英国と米国の大学で学んだ後、処女長編『From a Whisper』(09)を監督しています。僕は残念ながら未見ですが、アフリカでいくつも受賞を果たすなど高い評価を獲得し、一躍ケニアの重要なアーティストのひとりとして認知されるようになっています。

『Rafiki』はナイロビを舞台にしたふたりの少女の物語。ケナは家業のブティックを手伝い、看護学校への入学準備を進めている。一方のジキはダンスに熱中し、いつも仲間とつるんでいる。偶然がふたりを結び付け、親密な仲になっていく…。

ホモフォビアが根強く残り同性愛がタブーとされるアフリカ社会において、二人の少女の愛を「普通の恋愛」として描きたいという監督のコメントがありました。本当に重要な映画が続きます。今年の「ある視点」には若手女性監督の躍進が目立ちますが、これも「普通のこと」として扱われるのが理想なはずで、正常な普通に向かって物事に臨みたいとの思いを強くさせられます。とはいえ、シリアのジジ監督にケニアのカヒウ監督。このゾクゾクする興奮を抑えるのは難しい!

『The Harvesters』(南アフリカ/エティエンヌ・カロス)
南ア系ギリシャ人(要確認)のエティエンヌ・カロス監督は、2006年に短編がカンヌの学生映画部門である「シネ・フォンダシオン」に選ばれています。その後も短編がサンダンスやベルリン、ベネチアなどの有力映画祭で受賞するなど経験を積み上げ、そして初短編から12年を経て、満を持して作った初長編がカンヌに入りました。

『The Harvesters』は、南アの辺境地に存在する保守的な白人コミュニティーを舞台にし、内気な白人少年と、敬虔なキリスト教信者の母が養子に引き取って少年の義弟とした孤児が、親の愛を巡って覇権争いをするドラマであるとのこと。

んー、これもなかなかヘヴィーな予感。もちろんいい意味の予感で、何よりもその土地の風景を見てみたい。土地とドラマの密接な結びつきが予感され、それは「ある視点」部門のほとんどの作品に共通することではありますが、本作は南アの大地の寂莫感が目の前に広がるような気がして、とてもそそられるのです。

『In My Room』(ドイツ/ウルリッヒ・ケーラー)
ドイツのウルリッヒ・ケーラー監督新作。ベルリン映画祭で監督賞を受賞した前作『スリーピング・シックネス』が2011年だから、なんと7年振りだ! 同作は東京国際映画祭でも上映したので、いまだに強い印象が残っています。アフリカ眠り病を調査する医師夫婦が抱える問題のドラマと、数年後に同地を訪れる青年の物語が一見何の脈略もなく2部構成で繋がっている作りで、思考中枢を刺激される作品でした。

『In My Room』の内容を探してみると「夜遊びにも飽きて人生に退屈している男が、ある朝目覚めると周囲の人間が消えていることに気付くが、何が起きたか分からない」の一文しか見つかりません。7年振りなんだからもうちょっと教えてよ!と叫びたいところですが、「究極の自由という恐ろしい贈り物についての映画」だそうです。うん、面白そう。

不条理とまではいかないものの、オーソドックスなストーリーテリングにはとらわれないのがケーラー監督の特徴ではあるでしょう。情報が少ないのも意図的でしょうから、素のままで臨むようにします。

『El Angel』(アルゼンチン/ルイス・オルテガ)
アルゼンチンのルイス・オルテガ監督は『Blackbox』(03)で長編デビューし、以来コンスタントにキャリアを重ね、本作が7本目の長編作品です。80年生まれなので、若手から中堅に移行中、というところでしょうか。オルテガ監督はカンヌ初参加で、僕も過去作を見ておらず、今回の新たな出会いに期待です。

1971年、天使の顔を持つ青年は自分のほしいものを何でも手に入れ、誰も彼の魅力に抗えなかった。青年はやがて友人と組んで自分の魅力を悪に用いるようになり、そして殺人も自己表現の手段となっていく…。

アルゼンチンに実在した美青年シリアル・キラーの伝記的作品であるということで、その人物は「死の天使」あるいは「黒い天使」と呼ばれたそうです。映画の語り口と、そしてもちろん主演の俳優に注目が集まるでしょう。ちなみに主演は新人を配しているようで、いかなる天使っぷりを発揮しているのか、楽しみです。

『The Dead and The Others』(ポルトガル/ジョアン・サラヴィサ&ルネー・ナデル・メソラ)
ジョアン・サラヴィサ監督は2009年に短編でカンヌのパルムドールを受賞し、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の助監督も務めた経験を持ち、初長編『Montanha』(15)はポルトガルの主要な映画賞に数多くノミネートされるなど、堅実にキャリアを積み上げているように見えます。

『Montanha』は14歳の少年の日々に密着するドラマで、無為に過ごしていた生活が祖父の死によって変化する少年の動揺を長廻しで追っていく、アート色の極めて強い作品でした。『Montanha』で助監督を務めていたルネー・ナデル・メソラを共同監督に迎えて作ったのが新作『The Dead and The Others』で、今回はガラリと趣が変わり、ブラジル北部の原住民族のドラマを描いています。

おそらく親族の「死」が過去作と共通したテーマとしてあると思われ、『The Dead and The Others』では、亡くなった父の魂をかの国に送り出すべく、喪に服す期間を終えて葬儀の祭の準備に取り組む青年の姿が描かれるようです。霊的で美しく静かな迫力に満ちた作品を予想します。期待大です。

『The Gentle Indifference Of The World』(カザフスタン/アディルカン・イェルザノフ)
カザフスタンのアディルカン・イェルザノフ監督新作です。実は、昨年ブリスベンで開催された映画賞「Asian Pacific Screen Award」の審査員を一緒に務める機会があり、イェルザノフ監督とはすっかり友達になってしまったので冷静に紹介するのが難しいのです。ともかくカンヌ決まってよかった!

とはいえ、イェルザノフ監督は初カンヌではありません。2014年に『The Owners』がカンヌ「スペシャル・スクリーニング」で上映されています。『The Owners』はとてもユニークな作品で、貧困地域の家に越してきた兄妹にふりかかる悲劇が語られるのですが、突然踊りがインサートされるなど、悲劇性をずらすテンポのセンスが驚きでした。

イェルザノフ監督は、映画はアートであるとまっすぐに考える表現者で、映画史に対する意識も強く(「カザフスタン映画史」というテレビ用映画も作っている)、今後ますますカザフスタン映画界において重要な存在になっていくことに疑いはありません(見た目は本当に普通の気のいい兄ちゃんなのですが)。

新作『The Gentle Indifference Of The World』は、父の死が残した借金を返すべく、田舎から都会への生活を余儀なくされる女性と、彼女を慕って手助けしようと行動を共にする青年が、都会の欺瞞に振り回されながら生きて行く様を描くドラマであるとのこと。「世界の優しい無関心」というタイトルが何とも言えず良いですね。染みてきます。

世知辛い都会で苦労する地方出身者という普遍性を持った物語に、イェルザノフ監督独特のリアリズムがどのような形で発揮されているのか、友人であることを抜きにしても、期待せずにはいられない1本です。

以上、「ある視点」部門でした! それにしても、この部門の広がりはハンパではないですね。地域的に重要であろう作品や、極めて現在性の強い主題を含んだ作品をふんだんに揃え、新人を多く起用しつつ要所に経験者を配し、今年の「ある視点」は現代映画の縮図のようにも見えます。果たして何本見られるのか、気合いが入ります。

次回ブログでは「監督週間」を見て行きます!
《矢田部吉彦》

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