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【MOVIEブログ】2019ベルリン映画祭 Day7

2月13日、水曜日。時差ぼけマジックがついに薄れてきたのか、起きるのに苦労してしまうけれど何とか6時半にベッドから脱出。

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"Varda by Agnes"(c) Cine Tamaris 2018
2月13日、水曜日。時差ぼけマジックがついに薄れてきたのか、起きるのに苦労してしまうけれど何とか6時半にベッドから脱出。一瞬パソコン叩いて、朝食詰め込んでから外へ。どんより曇天。典型的なベルリンの空だ。気温は5~6度かな。相変わらずあまり寒くない。

今朝も9時から、メイン会場のベルリナーレ・パラストにおける上映でスタート。コンペ部門だけれども賞の対象にならない「アウト・オブ・コンペティション」扱いの作品で、アニエス・ヴァルダ監督新作“Varda by Agnes”。昨年90歳になったヴァルダ監督が自らのキャリアをふり返る集大成的作品だ。

講演やマスタークラスで自作について語る姿を繋ぐ形で構成され、映画監督としてはもちろん、写真家やインスタレーションのアーティストとして手掛けた作品群を紹介していく。エピソードもフッテージも豊富で、人間に対する飽くなき好奇心と愛情がヴァルダの世界を作ってきたことが改めて良く分かる。

そして映像もさることながら、数々の作品で聞かれるように、ナレーションのヴァルダの声としゃべり方がもはや無形文化財並みの芸なのだ。センスとアイディアが溢れる彼女の映画をこよなく愛する僕としては、もはや本作を冷静に見ていることができない…。

最後の作品となると言われているのだけれど、そうならないように祈りたい。でも、劇中で「そろそろお別れです」と語る箇所があり、胸が締め付けられてしまう。100歳を超えても新作を作ったレニ・リーフェンシュタールの例もある。珠玉のエッセイ・ドキュメンタリーをもっともっと見せて下さい!

上映終わり、ヴァルダの世界に浸ったまま、ああ、と会場ロビーでしばし呆然とする。コーヒーを飲んで気を落ち着かせてから、列に並んで、12時のコンペの上映へ。見たのは、イザベル・コイシェ監督新作“Elisa & Marcela”。

20世紀初頭、愛し合うふたりの女性が片方の性別を偽って結婚を果たした実話の映画化。保守的な時代における周囲の反発は激しく、果たしてふたりは愛を貫けるだろうか…。

主題の重要性は指摘するまでもなく、そして同性婚が認められていない日本に暮らす自分が「保守的な時代」と書いてしまうことの偽善性を自覚せざるを得ないけれども、それと映画の出来栄えとはまた違う話のはず。というのも、あまりにも本作の物語と演出がプリミティブであり、予想した内容から展開が寸分たりとも違わないのでサプライズが一切無く、これはやはりいささか厳しいと言わざるを得なかったのだ…。

LGBTを主題に持つ作品は近年隆盛を誇り、『アデル』や『ムーンライト』や『ナチュラル・ウーマン』などの例を出すまでもなく様々なタイプの秀作や傑作が続々と生まれている。そんな中で原点に戻ろうという企図が分からないではないけれど、映画として見た場合の「古さ」は如何ともしがたい。メッセージの重要性は映画の出来を正当化するか、という古くて新しい命題がここでも問われている…。

14時に上映終わり、少しぐったりしながらシネコン会場に移動して、ロビーでサンドイッチを買って頬張り、14時半から「パノラマ」部門で“Limebel”というチリの作品へ。文学者であり、パフォーミング・アーティストであり、活動家であり、そして同性愛者であったペドロ・レメベルの最後の数年間を捉えたドキュメンタリー。

ピノチェト独裁政権下の保守的な社会を揺るがした重要人物であったとのことで、恥ずかしながら僕はその存在を知らなかった。火を扱う過激なパフォーマンスで命がけのメッセージを伝える様に異様な迫力があり、とても興味深い人物だ。惜しむらくは、監督がアーティーな表現にこだわってしまい、アクセスしづらい作品に仕立ててしまった。もっと一般向けの作りにしてもよかったのではないか。

続けて同じ劇場で「フォーラム」部門の“Bait”というイギリスの作品へ。イギリスのコーンウォールを舞台に、時代の変化に翻弄される漁師の物語。という要約はあまり意味が無く、本作の見どころはモノクロの16ミリ撮影(過剰にスクラッチも加えている)と、実験映画とも分類され得るテンポの速い編集や極度のクローズアップなどだ。

かなり大雑把に言ってしまうと、「パノラマ」部門ではLGBTを始めとしたセクシャリティーを扱う作品が多く、「フォーラム」部門では実験映画的な作品が多い。もちろん、両部門ともにそれに当てはまらない作品は多いけれども(何といっても上映作品がべらぼうに多い)、この両部門を堪能してこそベルリンの懐の深さが理解できようというものだ。そして今年のベルリンもやはり刺激に事欠かない。

18時半に上映が終わり、少し時間がありそうなのでモールの簡易中華に行き、約千円の中華プレートを頂く。たくさん食べると眠くなってしまうので、腹五分目くらい。全然足りないけど、これもまた映画祭処世術だと自分を慰める。

19時半から「フォーラム」部門の“Lapu”というコロンビアの作品へ。これは美しくて素晴らしい作品だった。コロンビアの僻地の村で独特の儀式が行われており、その中心となる少女の姿を描くドキュメンタリー。超ミニマルで、自然の中で暮らす人々をじっくりと静かに映していく「淡々系」(は僕の造語)だ。死者との交信が主題であり、その儀式とは、亡くなってしばらく経った親類の棺を開け、白骨化した遺体を覆う布をどけ、儀式に指名された少女は、頭蓋骨をポキポキと胴体からねじり外す。

僕もかなりの数の映画を見ているけれど、頭蓋骨を遺体からはがす場面は初めて見た。しかしそれが決して不快でなく、映画には霊的な空気が流れ、神聖な気分になる。そして村人たちは死者の世界と対話していく。とても美しく、本日の大収穫だ。

続いて22時からメイン会場で、コンペ部門の“Synonyms”というイスラエル人監督による作品の一般上映へ。イスラエルを捨ててフランスはパリへと渡った青年が繰り広げるドラマで、イスラエルに対する自虐的で批判的なメタファーをふんだんに含んだブラック・コメディと言ったらいいだろうか。

凡庸を嫌う監督の演出の新しさを評価する向きもあるのだろうけれど、僕は肌に合わず、難儀してしまった。これを書いているいまも、消化しきれないモヤモヤが残っているので、うまく感想がまとまらない。くたびれた(2時間強)のは確か…。

本日も無事終了。0時半にホテルに戻り、ブログを書くものの、今日は感想の書き方に悩む作品が多かったのか、なかなか進まない…。2時半になりそうなので、悩むのをやめて切り上げて、寝ることにします。ベルリン出張もあと2日、ラストスパートかけます!
《矢田部吉彦》

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