【MOVIEブログ】2019東京国際映画祭「スプラッシュ」部門作品紹介

東京国際映画祭の作品紹介ブログ、今回は「日本映画スプラッシュ」部門の紹介です。

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『タイトル、拒絶』(c)DirectorsBox
  • 『タイトル、拒絶』(c)DirectorsBox
  • 『猿楽町で会いましょう』(c)2019オフィスクレッシェンド
  • 『どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』(c)TOM company
  • 『花と雨』(c)2019「花と雨」製作委員会
  • 『テイクオーバーゾーン』(c)ドラマデザイン社
  • 『ミセス・ノイズィ』(c)『ミセス・ノイズィ』製作委員会
  • 『叫び声』(c)大田原愚豚舎
  • 『i -新聞記者ドキュメント-』(c)2019『i-新聞記者ドキュメント-』製作委員会
東京国際映画祭の作品紹介ブログ、今回は「日本映画スプラッシュ」部門の紹介です。

「日本映画スプラッシュ」部門は若手発掘部門とみなされることがありますが、必ずしも若手に限らず、日本のインディペンデント映画全体を応援する部門という看板を掲げています。結果として若手が多くなる傾向は確かにあり、フレッシュな部門であります。ただ、今年は、新人監督はもちろん、実績のある監督も交えてかなり特徴のあるラインアップになりました。それぞれ紹介していきます。

賞の対象となるのは8作品ですが、その中で長編1本目の監督が4名います。

■『タイトル、拒絶』


タイトル、拒絶』、山田佳奈監督。山田監督は劇団を率いており、自身の芝居を映画化しての監督デビューです。そして『下衆の愛』(16)の内田英治監督が若手監督の発掘と育成にひと肌脱ぎ、プロデューサーとして参加しています。

実は山田さんは昨年のスプラッシュ出品作『月極オトコトモダチ』に役者として出演していました(ヒロインの上司役)。舞台挨拶の登壇時に、異質な空気の人がひとりいるなと思ってあとで話しかけたら「いま監督として映画撮っているので来年見て下さいね」と言われ、もちろん!と答えたものでした。そして半年後に送られてきた作品を見て、全く只者ではなかったことを確認することになったのです。

『タイトル、拒絶』(c)DirectorsBox『タイトル、拒絶』
女性の目から見た、セックスワーカーたちの群像劇。主役が事務方の女性であることが特徴で、彼女は客観的になることも、デリヘル嬢たちに心情的に寄り添うこともできる。彼女の目に映るのは、売れっ子に対する女性間の嫉妬や確執、群れる女性たちと孤独な女性、あるいは男性スタッフとのねじれた関係など、さまざまな状況や感情の渦です。やがて、男と女の本音が怒涛の勢いで描かれていきます。

主演の伊藤沙莉さんはじめ、恒松祐里さん、片岡礼子さん、そして佐津川愛美さんなど、アンサンブルキャストを織り成す女優陣がことごとく素晴らしい。各人のキャラクターが丁寧に、そして深く造形されている。彼女たちを勢いよく解き放ちながらも全体のペースをコントロールし、根底で時代の閉塞感を表現する山田監督の演出力が抜きん出ています。演劇で培った実力がいかんなく発揮されている一方で、映画的な広がりや躍動感もしっかりと備えている。おそるべきデビュー作です。

■『猿楽町で会いましょう』


猿楽町で会いましょう』、児山隆監督。児山監督は林海象監督の助監督を経験後、CMを多数手がけ、今回が初長編監督です。ふたりの若い男女の複雑な心理を丁寧に描いていく青春ドラマです。

駆け出しカメラマンの小山田が、読者モデルのユカを撮影することになる。小さい仕事だったものの、ふたりは通じ合い、付き合い始める。全てが順調に思えたのだが、少しユカの様子がおかしい。果たしてユカを信じていいのだろうか?

上記の紹介だと、王道の青春ものに伝わってしまうかもしれませんが(いや、確かに王道感はあるのですが)、実はふたりの出会いの背景や、ユカの行動の事情に仕掛けが散りばめられており、サスペンスドラマの謎を解いていくような、サプライズが味わえるのが本作の特徴でもあります。フラッシュバックの使い方も巧みで、意外な物語を追っていく醍醐味があります。

『猿楽町で会いましょう』(c)2019オフィスクレッシェンド『猿楽町で会いましょう』
うそを通じた保身やエゴといった人間の弱い部分に焦点が当てられていきますが、お前はどうなんだ、と画面から問いかけられる気がして僕はギクリとしました。これは見る人によって感じ方が異なるかもしれませんが、痛い部分を突かれた気がします。深いところに届く青春映画です。

複雑な人物であるユカを演じる石川瑠華さんと、ある意味でユカを追い込む小山田に扮する金子大地さんがとてもいい。シャープな映像にとても映えている。そう、映像がとても美しく、メジャー作品に劣らないルックが作品のスケール感を醸し出しています。技術的な基盤の厚さを感じさせる作りです。その上で若い役者陣が躍動する様が堪能できます。

そして小山田を翻弄する編集者役の前野健太さんの下衆っぷりに、TIFFのお客さんならば大喜びするでしょう!

■『どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』


どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』、倉本朋幸監督。演劇プロデュース・ユニット「オーストラ・マコンドー」を結成しており、本作で長編監督デビューです。

日本のインディペンデント映画は社会との接点が少なく、海外の同世代や同規模の作品にその点で見劣りしてしまうと指摘されることがありますが(僕はそれほど同意しているわけではありませんが)、少しずつ広い主題を扱おうとする作品が増えてきたように感じます。本作は象徴的で、「ちっぽけな世界」と自分であえて呼ぶことで逆に世界との関わりを意識させる内容になっています。

『どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』(c)TOM company『どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』
娘への虐待を疑われる父親の心理を描くドラマで、非常にデリケートでチャレンジングな主題です。父親の視点で描く例はあまり多くないのではないでしょうか。酒やギャンブルに狂うステレオタイプのクズ親でなく、一見普通に見えるが、根本的にダメな人間でダークサイドを抱えている人物であるという設定が恐ろしい。クリシェを避ける人物造形が深い。他人事ではない気にもなる…。

男が金銭的に頼る母との関係もひとつの軸として存在し、まさに現代社会の闇を見つめながら家族のあり方を問いかけてくる貴重なドラマであると言えます。

主演の郭智博(かく ともひろ)さんが、とてもうまい。観客の感情移入を許さないリスクがあるため非常に難しい役だと想像しますが、果敢に挑んで映画に説得力をもたらしています。そして母親役の美保純さんや、保育士役の渡辺真起子さんがしっかりとサポートを固め、映画の土台を安定させています。

非常に志の高い作品であり、こういう脚本が書けてしっかりと演出も出来る監督を、映画祭として本当に応援しないといけないと、僕は強く思います。

■『花と雨』


花と雨』、土屋貴史監督。CMからアートインスタレーションまで多くの映像作品を手がけ、音楽を軸にアーティストとのコラボレーションも多い存在です。本作が長編監督1作目で、ゼロ年代から活躍する日本のラッパー、SEEDAの生きざまをダイナミックに描く実話のドラマです。2006年発表の「花と雨」というアルバムがありますが、SEEDAと彼の姉の吉田理美さんによる原案を、『いたくても いたくても』(15)の堀江貴大監督が脚本化し、土屋監督が演出する、という形で作られています。

英国からの帰国子女である吉田少年は、次第にラップのフリースタイルにはまりプロを目指す。その道は順調に見えたが…。

『花と雨』(c)2019「花と雨」製作委員会『花と雨』
日本で本格ラップを目指すという創造上の苦しみに加え、ドラッグ絡みのトラブルや、ブルジョワ家庭の出自である葛藤、愛する姉との関係など、アーティストの青春映画として王道でありスケールの大きい作品です。これまたデビュー作としては破格に近い。アメリカ発のラップを日本でガチにパフォームしようとする主人公の思いと、『8 Mile』に真っ向から負けない映画を作ろうとする製作者の気概が重なるようです。

冒頭からのいきなりのドローンショットに興奮しますが、要所の色遣いも独特で、迫力のある映像作りも堂に入っている。ドラマの構築力もさることながら、映像作家としての土屋貴史監督の才能にも注目です。

そして主演には、この2年で膨大な数の作品に出演している気鋭の俳優、笠松将さん。細身の182cmという肉体が悩めるラッパーという役柄に見事フィットし、ふてぶてしさと繊細さ、あるいは情熱と諦念が同居するような複雑な主人公を体現しています。是非ご注目下さい。

以上4本が監督1作目の作品でした。
続いての3作品は、2本目以上のキャリアを持ち、さらなる飛躍が期待される監督たちです。

■『テイクオーバーゾーン』


テイクオーバーゾーン』、山嵜晋平監督の2本目の長編です。ゆうばり映画祭で上映された処女長編『ヴァンパイアナイト』(16)がホラーアクション、今年11月に公開予定の3作目『FIND』が人気アイドルを起用したスリラーのようですが、本作は「第2回ジュブナイル脚本大賞」を受賞した脚本の映画化で、中学3年生の少女の日常を描く、まさに王道の思春期ドラマです。

両親が離婚し、建設業の父と暮らすヒロイン沙里は、貧しく荒れた生活を強いられている。父に暴言を吐くなど、環境に対する自己防衛からか非常に突っ張った態度を貫いている。沙里は陸上のエースとして活躍するが、高慢な言動でチームメイトからは疎んじられ、周囲をみな敵に回してしまう。そして母が新しい家族と近所に越してくると、沙里をとりまく世界はさらに激動する…。

『テイクオーバーゾーン』(c)ドラマデザイン社『テイクオーバーゾーン』
なんといっても見どころは沙里の面構えで、大きく見開いた眼の力強さが周囲を吸い込むような魅力を発し、見ていて気圧されるほどです。また、強気の態度で押し通す前半と、等身大の15歳の少女としての揺れる心情を繊細に演じていく後半との演技の変化も見事。吉名莉瑠(よしな りる)さん、大注目です。

そしてタイトルは、陸上のリレー競技でバトンを渡すエリアを指しますが、それは信頼と友情が凝縮される場であり、沙里のライバルを演じる糸瀬七葉さんも重要な役で存在感を発揮しています。

父親に川瀬陽太さん、母親に内田慈さんという盤石の布陣。おふたりとも持ち味を十分に発揮しながらも、若い主人公/女優をサポートしていく。瑞々しい演技と、躍動感のある映像を実現する監督の演出も安定しており、幅広いジャンルを手がける山嵜監督の今後がとても楽しみです。

■『ミセス・ノイズィ』


ミセス・ノイズィ』、天野千尋監督の4本目の長編作品。恋愛群像劇の『ハッピーランディング』(15)、アラサー女性の心理を見つめる『うるう年の少女』(14)などの劇場公開作を手がけ、そして短編やオムニバス作品への参加も多く、天野監督は2010年代をコンスタントに活動してきた存在というイメージがあります。東京国際映画祭にお迎えするのは初めてで、ついに僕も念願がかなった思いです。

かつて文学賞も受賞した女性作家がスランプに陥ると同時に、早朝の隣家の物音に悩まされる。幼い娘は手がかかり、ミュージシャンの夫はあまり助けにならず、そして隣家とのトラブルが大きな騒ぎに発展していく…。

『ミセス・ノイズィ』(c)『ミセス・ノイズィ』製作委員会『ミセス・ノイズィ』
ストーリーを知らない方が楽しめるので、これだけにしておきます。創作の苦しみを抱えた家庭人の葛藤を中心にした、ヒューマン・コメディ・サスペンス・ドラマ、と呼んだらいいでしょうか。コメディというと少し語弊がありますが、おかしみは確かに感じられ、そして社会派ドラマの側面もあります。設定にオリジナリティーがあり、予想の逆を行ってくれる展開の面白さが痛快。しっかりとエンタメを志向し、丁寧に脚本を練り込んでいます。

主演の篠原ゆき子さんはハマリ役で、様々なプレッシャーで回りが見えなくなっていく姿がリアルで、かわいそうで、そしてちょっとこわい。家族を持ちながら自宅で仕事をする人が見たら、身につまされる思いになるに違いありません。そして、謎めいた隣家の主婦を演じる大高洋子さんの迫力ある存在感にも注目です。

現代社会の恐ろしさもたっぷりと盛り込んだ天野監督の意欲作。天野監督が本作でいっそう高いステージに向かわれることを祈念しつつ、応援します。

■『叫び声』


叫び声』、渡辺紘文監督。『プールサイドマン』(16)でスプラッシュ部門作品賞を受賞している渡辺監督ですが、新作で戻ってきました。ちょうどTIFFと同時期に、「大田原愚豚舎」(渡辺作品の製作プロダクション)全作品の特集上映がアップリンク吉祥寺で企画されており、注目度も高まっています。熱狂的なファンも生み出している渡辺紘文の作品世界。深化しています。

これは僕の勝手な見立てですが、渡辺監督はいくつかのフォーマット/テンプレートを発明し(『七日』に代表される日常の反復を描くアート純度の高い作品群、『プールサイドマン』のしゃべくり男のシリーズ、『普通は走り出す』のソフト味路線、など)、それぞれのフォーマットを踏襲し深化させる作品を次々と繰り出しています。しかもそれぞれがどこかで繋がっており(ほとんどの作品が栃木県大田原市を舞台としている)、なにやらMCU的な世界観もあったりする。渡辺監督作品は、全てを見て行くと理解が深まる妙味を備えています。

『叫び声』(c)大田原愚豚舎『叫び声』
本作『叫び声』は『七日』の路線上にあります。渡辺作品を未体験の方に少しだけ説明しますと、シャープなモノクロ映像の中で、農家の男の日常が描かれます。

これで「説明」は終わりなのですが、百聞は一見に如かず、是非目撃してもらいたい。美的センスのユニークさ、鋭さ、カッコよさは、もはや比べる相手が見つかりません。全く独自の世界観を構築し、弟の渡辺雄司さんの音楽が今回も見事にはまり、渡辺兄弟は若手映画作家の中では孤高の存在になりつつあります。

そして、作品に込められたメッセージの読解は、完全に観客に委ねられています。考えるか、感じるか、我々次第です。

以上7本の若手作品を、手練れのドキュメンタリー作家、森達也監督が迎え撃つ構図となったのが今年のスプラッシュの見どころのひとつです。

■『i-新聞記者ドキュメント-』


『i-新聞記者ドキュメント-』は、今年スマッシュヒットした劇映画『新聞記者』がモデルとした、東京新聞の望月衣塑子記者の取材活動を追った作品です。政治報道の世界で孤軍奮闘している感がある望月記者の姿を描き、彼女の官邸や沖縄への取材を通じて、現代日本の情景が見えてくるという内容です。

もちろん望月記者の視点をただなぞるわけではなく、そこには森達也監督自身の視点が加わるのは言うまでもありません。とはいえ、信念に従い、粘り強く突貫取材を続ける望月記者のタフネスぶりも映画の主軸になり、魅力的な人物像に惹き込まれてしまいます。

『i -新聞記者ドキュメント-』(c)2019『i-新聞記者ドキュメント-』製作委員会『i-新聞記者ドキュメント-』
しかし、「ドキュメンタリーは嘘をつく」という作品(著作と映画)もある森監督のこと、そのまま鵜呑みにするのは危険なのか、それとも1周して素直に見ていいのか、我々の鑑賞眼も試されるでしょう。森達也監督作品が常にスリリングなのは、虚実の際が描かれている(かもしれない)からであり、自分が見ているものの意味を必死に考えさせてくれる点にあると僕は思っています。記者が見た光景を森監督はどう呈示し、それを我々はさらにどう見るのか、という行為に興奮するのです。

いずれにしても、今年撮らねばならない作品であることは間違いありません。そして撮ったら早く見せなければいけない性質の作品でもあります。まさにリアルタイムのドキュメント。ご期待下さい。

以上、8本がスプラッシュ作品として賞を競います。観客の方々には大いに刺激を受けてもらえたら嬉しいです。

そして、「日本映画スプラッシュ・特別上映」として、原一男監督新作『れいわ一揆』を上映します。

『れいわ一揆』(c)風狂映画舎『れいわ一揆』
日本のドキュメンタリー映画史においてあまりに大きな存在である原監督の新作を東京国際映画祭でプレミア上映できることほど、光栄なことはありません。しかも、昨年『ニッポン国VS泉南石綿村』(18)で久しぶりに健在ぶりを堪能したばかりであったのに、翌年早くも新作が見られるとは!

原監督をして早急な創作に向かわせる事態が進行し、タイムリーにその機会を掴んだということなのでしょう。今年の参院選にれいわ新選組から立候補した安富歩さんを中心に、ほかの候補者の選挙活動にも目を向けていきます。

いまの時代を原一男監督がどう見ているのか、2019年の夏の参院選とはどういう選挙だったのか、そしてれいわ新選組とはどのような集団なのか、名匠の視点からこちらも目がそらせません。ドキュメンタリー映画における被写体との距離という問題を考えるにあたり、『ゆきゆきて、神軍』(1987)や『全身小説家』(1994)ほど深淵な示唆を与えてくれる作品は稀有であり、2019年という年、日本においては元号の変わった時代において、果たして原一男監督がいかなるスタンスで現代と向き合っているのか。映画ファン、ドキュメンタリー映画ファンとしては、本当に興味が尽きません。

これまた、今年撮られるべき作品であり、撮ったら早く見せる必要のある作品であるはずです。上映時間が長くなる可能性があるので(上映スケジュールを組んでいる時点で確定できなかった!)、オールナイト枠で上映します。そうすることでトークの時間も長めに取れそうですし、熱い夜を一緒に過ごしましょう!

森達也と原一男という2大ドキュメンタリー監督が、速報性というスピードが求められるドキュメンタリー作品をともに手がけ、そのいずれもが東京国際映画祭で上映されるというこの事態に、僕はいつにない興奮に震えています。多くの方がこの興奮を共有してくれるものと思います。心して臨みましょう。

以上、日本映画スプラッシュ部門の全9作品でした。お楽しみに!
《矢田部吉彦》

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