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【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭作品紹介 「Tokyoプレミア2020」日本映画後編

「Tokyo プレミア 2020」の作品紹介、第4弾、日本映画紹介の後編です。

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『私をくいとめて』(c)2020「私をくいとめて」製作委員会
『私をくいとめて』(c)2020「私をくいとめて」製作委員会
  • 『私をくいとめて』(c)2020「私をくいとめて」製作委員会
  • 『鈴木さん』(c)映画「鈴木さん」製作委員会
  • 『佐々木、イン、マイマイン』(c)佐々木、イン、マイマイン
  • 『蛾の光』(c)東京藝術大学大学院映像研究科
  • 『カム・アンド・ゴー』(c)cinemadrifters
「Tokyo プレミア 2020」の作品紹介、第4弾、日本映画紹介の後編です。

『私をくいとめて』は大九明子監督の新作。『勝手にふるえてろ』(17)は東京国際映画祭のコンペ部門にお招きし、観客賞を受賞しましたが、以来『美人が婚活してみたら』『甘いお酒でうがい』と大九監督の快進撃は続きます。

メジャーのフィールド(インディペンデントとの明確な線引きは難しいですが)で、ウェルメイドな作品を手がけ、作家の個性も出すという存在として大九監督の果たしている役割は大きいと思っています。

というのも、女性監督による作品がラインアップに何本あるか、数年前から頻繁に聞かれるようになり、それに対しては監督に男性も女性もないという思いもある一方で、女性監督作品の絶対数が少ないという事実もあるのは確かで、女性が監督になりにくい環境があるのだとすれば、映画祭も出来ることをやらなければいけないはず。大九監督のポジティブな影響が広まっていくといいなと思うことは多いです。

もっとも、大九監督作品の登場人物はネガティブ思考の人が多いのが特徴かもしれません。いや、ネガティブとは語弊があるか。自分の中で抱えてしまうというか。『私をくいとめて』の、一人暮らしで会社員のヒロインは、自分との会話に没頭するあまり、外の世界との付き合い方を見失ってしまう存在です。ちゃんと会社に行くし、人付き合いもするけれど、肝心な時の一歩が踏み出せない。まあ、その相手にも問題があるわけですが。

自分の中のもやもやと対峙する人物をコミカルに、そして真面目に描かせたら、大九監督はやはり抜群に上手い。その演出は見る者が人物に同化してしまう引力を持っています。そして、女性へのハラスメントに対しても一歩踏み込むエピソードがあり、映画の厚みとなっていきます。ヒロインはいかに自分と向き合い(あるいは自分と向き合うのをやめ)、一歩を踏み出すか。アイデンティティ確立を巡るドラマであると言えます。

『私をくいとめて』(c)2020「私をくいとめて」製作委員会『私をくいとめて』
いやしかし。以上のような小理屈は、のんさんの魅力の前では全て吹き飛ぶでしょう。もう、本作ののんさんの魅力を形容する言葉などあるのでしょうか。僕は持ち合わせがありません。一人で暮らす気安さと、深い孤独の間に引かれた、とても細い境界線。その線の両側を行き来するヒロインの心境に、ここまで観客を引きずり込むことができるのは、のんさんにだけ実現可能であると、感嘆するばかりです。

彼女の人生に関わるようになる男性には、林遣都さん。爽やかで素敵なのですが、彼もまた素直に進めない性格の持ち主でもあり、何やってんだよ、と見ていて突っ込みたくなることも度々です。もちろんそこも魅力であるわけですが。どうにも他人事として見ていることができなくなるのですよね、大九作品は。

広義ではロマンティック・コメディということになりますが、僕はやはりヒューマン・ドラマと呼びたい。お楽しみに!

『鈴木さん』(c)映画「鈴木さん」製作委員会『鈴木さん』
『鈴木さん』は佐々木想監督(ささき おもい/男性)の長編監督1作目。佐々木監督は、2009年に短編作品がPFFに入選した後、2013年には『隕石とインポテンツ』がカンヌ映画祭の短編部門でセレクションされ、一躍注目を集めた存在です。待望の長編1作目であります。

強烈なタイトルを持つ『隕石とインポテンツ』は内容もあまりに斬新でしたが、この長編も全く奇想天外、今年の大発見作品の1本です。冒頭から不穏な雰囲気に満ち、僕は最初の1分で招待したいとの思いを抱いたことをここで白状しておきます(『隕石とインポテンツ』の監督であることは後で知りました)。

神と呼ばれる存在が統治する国が舞台。そこでは、45歳になるまでに結婚しないと、住民資格をはく奪されてしまう。そして追放されないためには、軍に入隊するしかない。45歳を間近に控えたヨシコは、ラブホテルを改装した老人ホームに務めるが、その日が来ることを恐れている。町では独身者向けのマッチング・イベントが催されている。そんな時、怪しい男が老人ホームに転がり込んでくる…。

いやあ、なんという設定でしょう。よくぞ思い付いたというか、独身者徴兵制という恐るべき発想の勝利ですね。社会風刺ダーク・コメディSFと呼ぶのが、ふさわしいでしょうか。ファシズムの空気に対する恐怖と批判や、少子高齢化社会対策への皮肉など、日本映画で見る機会があまり多くない風刺に富んだ物語は、まさに痛快にして、恐ろしい。

映像も物語に合わせて不穏な空気を醸し出していて、統一された世界観の構築にも唸ります。佐々木想監督、やはり只者でなく、将来の日本映画の一翼を担う存在になりそうな予感が漂います。

そして、実は僕は主人公のヨシコを演じる、いとうあさこさんのことを知りませんでした。この女優さんいいねえ、と同僚に言ったら「知らないんですか!?」と驚かれて呆れられてしまった。ごめんなさい…。しかし、先入観無しで見られたということも大事かも?

本当に本作は出演陣が上手いのです。日本の現状を強烈に皮肉るオリジナリティ溢れるストーリー展開だけでなく、老人ホームの老人たちを含めた役者たちの演技も、見どころのひとつであると強調しておきます。

『佐々木、イン、マイマイン』(c)佐々木、イン、マイマイン『佐々木、イン、マイマイン』
『佐々木、イン・マイマイン』は内山拓也監督の長編作。2016年にPFFで観客賞を受賞している内山監督も、期待の大型新鋭監督と呼びたい存在です。King GnuのMVを手がけたり、中編作品を製作したり、着々と磨いた実力が本作で素晴らしい成果として現れています。

役者として自信を失っているユウジは、輝いていた高校時代を思い出す。数々の友人たちとの思い出の中でも、突出しているのが、佐々木との思い出であり、あの破天荒な佐々木はいま、どうしているだろうかと思いを馳せる…。

役者として独り立ちできず、人生に迷いを抱える人物が、かつてを振り返りながら、いまの自分とも向き合っていくという、脱皮と成長の物語です。ちなみに、タイトルの「イン・マイマイン」とは、In My Mind、つまり我が心の佐々木、という意味ですね。素敵なタイトル。

で、この佐々木という人物のキャラクターが、実に素晴らしい。家は極貧で、母はおらず、父も滅多に家に寄り付かないという、ほぼネグレクトされた高校生なのですが、暗い家庭事情を吹き飛ばす破天荒な明るさを持っていて、しかしその明るさはやはり時に痛々しく、それでも親友たちは変わらぬ愛情で彼と接していきます。この青年たちの関係性が、もうたまらなく愛おしい。悲しみや明るさや苦しさや優しさが、ゴッタ煮のように同居している佐々木のキャラクター造形の魅力は、他に類を見ないほどです。

そしてなんと、この映画の企画は、佐々木を演じている細川岳さんの自らの物語をベースにしているとのことで、映画化は細川さんの長年の宿願であったとのことで、内山監督と脚本を書きあげ、その夢をついに実現したということなのです。なんということ!

映画を見ると、もう佐々木は佐々木でしかなく、細川さんと言われてもピンと来ないのですが、いやでもそうか、本人か。すごい。この作品も役者陣が素晴らしい。役者のユウジ役には藤原季節さん。もがく内面と優しい眼差しが実に見事。そして友人たちの面々がみんな上手い。

そして、終幕に向けて作品は勢いをつけて転がり続け、怒涛のクライマックスへと到達します。その見事な流れは、ストレートに僕の胸を突き、そして突き抜けて行きました。青春映画の新たな傑作の誕生です。

『蛾の光』(c)東京藝術大学大学院映像研究科『蛾の光』
『蛾の光』は、リアオ・チエカイ監督の3作目の長編作品です。シンガポール出身のチエカイ監督は、第1作の『赤とんぼ』(10)と第2作目『あの頃のように』(14)がともに東京国際映画祭で上映され、縁の深い監督です。シカゴ美術館附属美術大学で学んだ後にシンガポールに帰国し、同国を舞台に前2本を製作し、そして改めて東京藝術大学大学院で学び、今作『蛾の光』は卒業制作として全編日本を舞台に作られました。

チエカイ監督の特徴として、静謐な雰囲気、そして過去と現在の行き来が挙げられます。『赤とんぼ』では高校生たちが自然の中を歩きながら子ども時代の夢と繋がり、『あの頃のように』では二人の男女の出会いと別れが過去と現在を行き来しながら描かれていました。根底には、歴史に対する意識と、そこに人の一生を繋げていくことへの関心があるようにも感じられます。『蛾の光』では、そのようなチエカイ監督の特徴が発展しています。

コンテンポラリー・ダンスのダンサーであるヒロインのリンは、ある時から話をするのをやめてしまう。やがて本当にしゃべれなくなってしまいリンは、幼い頃に母親が出て行ってしまい、その出来事が無意識化で傷となっている。そして幼い頃に見たパントマイムのパフォーマーの老人と文通し、アーティストとしての矜持を深めていく…。

ここでは、リンと母と老パフォーマーのそれぞれの現在と過去が語られていきます。自在にフラッシュバックが挿入されますが、軸となるのはあくまでリンの生き方であり、過去との折り合いの付け方を通じた成長のドラマであるとも見ることもできます。しかし、やがて過去はさらなる過去へと遡り、歴史と繋がっていきます。移民の受難、さらにはアジアの死生観といった視点も加わり、徐々に作品はスケールの深さを披露していくことになります。

物語の要約が難しいのは、作品が様々な主題を持っているからで、監督に話を伺うのが楽しみです。例えば、しゃべれないこと、書き手紙を通じた文通、そしてパントマイムやダンス、これらを通じてコミュニケーションとは何かを映画は問いかけてきます。その他にも、幾層にもわたって様々な問いが投げかけられる作品であり、繊細な美意識で貫かれた映像とリズムに身を委ねる歓びも味わえる、刺激的で奥深い作品です。

『カム・アンド・ゴー』(c)cinemadrifters『カム・アンド・ゴー』
『カム・アンド・ゴー』はリム・カーワイ監督の新作。マレーシア出身のカーワイ監督は、軽快なフットワークを活かした映画作りが持ち味です。『マジック&ロス』(10)は香港、”Love in Late Autumn”(16)は上海、『どこでもない、ここしかない』(18)は東欧をドリフトしながら作られた作品でした。そして新作『カム・アンド・ゴー』は、全編が大阪で撮られています。

帰国したいが勤務先の工場が許してくれないベトナムの青年、語学学校の学費支払に窮するミャンマーの少女、宴席に駆り出される韓国の女性たち、ホステスを仲介する中国の中年男、料理店開業の夢を抱くネパールの青年、映画監督を自称する沖縄の男、日本のAVファンの台湾の中年男、事件を捜査する大阪の中年男性刑事…。

大阪でサバイブするアジア人たちの姿を描く一大群像劇であり、日本の生きにくさや魅力を全てぶっこんだような、アジア曼荼羅映画なのです。これはもう、本当にリム・カーワイにしか撮れない映画。日本の一時期のスナップショットであり、貴重な時代の記録を作ってくれたカーワイ監督に感謝したい気持ちでいっぱいになります。

ほとんどが即興で撮られていったと聞いていますが、アジアと大阪を知り尽くしたカーワイ監督ならではの芸当でしょう。編集がとても大変だっただろうと想像させますが、見事にアジアのカオスが凝縮されています。

キャスト陣も実に味があり、渡辺真起子さん、尚玄さん、千原せいじさん、などの日本勢も印象に残りますし、『ソン・ランの響き』(18)で注目されたベトナムのリエン・ビン・ファットさん(2018年の東京国際映画祭で新進俳優に贈られるジェム・ストーン賞を受賞しました)の出演にも注目です。さらにリー・カンションさんの登場にニヤニヤする映画ファンも多いはず!

ちなみに、日本の永住権も持つリム・カーワイ監督は、来日します。2週間の自主隔離期間も含めるので、実はもう来日しているのです。今年の映画祭では海外からゲストが呼べないので、実に貴重な海外ゲストということになります。ご本人は実にきさくな兄さん(失礼!)にして、真のコスモポリタンなので、お迎えできるのがとても楽しみであり、光栄です。

以上、「Tokyo プレミア 2020」の日本映画10本の紹介でした。こうやって書いていると、とてもバラエティに富み、充実しているなあという気持ちになります。気になる作品がありましたら、是非お出かけくださいませ!

次はアジアに行きます!
《矢田部吉彦》

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