【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭 Day7

11月6日、金曜日。7時半起床、のはずが今日は珍しく起きられず、8時にようやくハッと気づく。あぶない。残り4日、気合いを入れていかないと。慌てて外に出る。今日は曇り。これから天気は下り坂なのだろうか。

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『愛しい存在』
  • 『愛しい存在』
11月6日、金曜日。7時半起床、のはずが今日は珍しく起きられず、8時にようやくハッと気づく。あぶない。残り4日、気合いを入れていかないと。慌てて外に出る。今日は曇り。これから天気は下り坂なのだろうか。

8時45分に職場に入り、トークサロンの台本作成の続き。台本といっても、質問を事前に少し用意するだけなのだけど、まあ備えあれば憂いなしということで作成している次第。

実は今日は朝から『愛しい存在』のアレクサンダー・ロックウェル監督と話すことになっているので、目覚めた瞬間から緊張しているのだ。30年前から作品を見ている監督と初めて話すのは、どうしてもビビる。話しやすい人だといいのだけど、それは甘い期待というものかもしれないな…。しかし、こんなに繊細で愉快でセンス溢れる作品を作る人なのだから、大丈夫なはずだと自分を鼓舞しつつ、開き直って朝の時間を過ごす。

10時半にシネマズに向かい、『カム・アンド・ゴー』の2度目上映の舞台挨拶の司会。リム・カーワイ監督、尚玄さん、ジュン・アマントさん、森本のぶさん、の4名がご登壇。リム監督に一言挨拶してもらったあと、尚玄さんはAV監督の役ですと苦笑いしながら自己紹介すると、客席から暖かい笑いが起きる。いいお客さんの予感。

ジュン・アマントさんは、実生活でも馴染みの店を舞台に出演していると語ったあと、実は制作を手伝っており、自分の出たシーン以外は映画の全容を全く知らなかったと口を揃える出演者の中では、珍しく作品の全体像を把握していたと発言されてみんなびっくりして笑う。そして、森本のぶさん、実は春本雄二郎監督『かぞくへ』(16)の出演で東京国際映画祭にいらっしゃっており、『かぞくへ』では胡散臭い役だったが、今回も胡散臭い役で、毎回ごめんなさいとの発言に僕と会場は爆笑。

素敵な舞台挨拶だったな、と楽しい気持ちで事務局に戻り、さあ、いよいよ11時半から『愛しい存在』の「トークサロン」!

米インディペンデント映画の雄の一人を迎える緊張は杞憂に終わり、自分で進行しておきながらナンだけど、抜群に面白かった!『愛しい存在』を見た人は、必ずこの内容には満足頂けるはず。また、ネタバレがほとんどないので、映画を見ていない人でも楽しめると思う。ロックウェル監督の演出術や映画に対する姿勢について、とても丁寧に語ってもらった。そして何よりも、本人がカッコよく、かくありたいと思わせる佇まい。いや、ひとこと、カッコいい。こういう大人になりたかった…。

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監督の長女と長男を主演に起用した『愛しい存在』、原題は『Sweet Thing』で、これはヴァン・モリソンの名曲と同タイトルで、映画がいかにこの曲からインスパイアされたのかを質問するところから始めてみる。こどものころにもどったようなピュアな愛について歌った超名曲であり、こどもの純粋な姿を描く映画にダイレクトに繋がっていく。そして、子どものピュアな姿を際立たせるために、苦しみや痛みが描かれることになる。それは、抑圧からの解放、その喜びを描くためであり、ヴァン・モリソンの歌のトーンとも繋がっていく…。

といった具合に、話がもう示唆に富んで面白過ぎて、たまらない。映画の主題について、怪物的大人と関わってしまったこどもの取るべき行動について、実子である子役たちとの仕事について、モノクロフィルムへの愛着について、ビリー・ホリディについて…。そして最後には、全ての若いインディペンデント映画作家たちへのメッセージを頂いた。とても勇気をもらえる、素晴らしいコメントに背筋が伸びる。本当に鳥肌回だった!

そして、リモートで英語通訳参加して下さった今井美穂子さんが文字通り完璧な通訳で繋いで下さって、今井さん無しでこの回は成り立たない。大、大、感謝。

YouTubeにアーカイヴとしてしばらく残るので、是非。それにしても、『愛しい存在』、なんとか配給されないものだろうか。なんといっても、アレクサンダー・ロックウェルの新たな傑作なのだから!

興奮のまま12時半に終了し、短い空き時間をぬって、おまちかねのお弁当。本日のランチは、少しおしゃれな紙の容器に入った、から揚げ弁当。ご飯のかわりに、ロールサンドイッチ。コメがずっと続いたから、こういう変化が嬉しい。ペロリ。

それから作品の再見を続け、台本を作ったり、メールを確認したりしているうちに、13時半。

劇場に戻り、『カム・アンド・ゴー』の上映後舞台挨拶で、登壇はリム・カーワイ監督。作品の成り立ちの経緯、大阪は梅田における撮影環境について、出演しているネパールのモンさんからのメッセージが届いたので、観客席にいらっしゃった知り合い方がメールを読み上げる。モンさんはネパールでは有名な民謡歌手だそうな。

そして重要だったのが、マユミという日本人女性のキャラクターに関する質問。「劇中に登場する大勢のアジア人が、苦しみながらもコミュニティーのサポートがあるように見える中で、マユミだけは孤立無援に見える。これはどういう意図でしょう」という質問。リム監督は、なるほどと、指摘されて気付いたような前置きのあと、「マユミは地方都市から、大都会である大阪にやってきた女性。彼女が孤立無援に見えたとしたら、日本の抱える社会問題の本質が図らずも露呈してしまったかもしれませんね」と回答。『カム・アンド・ゴー』、深い。

さらに、リー・カンションさんの起用を巡る話が面白い。カンションさんはリム監督のオファーに興味を持ったものの、ツァイ・ミンリャン監督に確認しないといけないと言って、実際に脚本をツァイ・ミンリャンに見てもらうまで回答を保留したそうなのだ。「え?ツァイ・ミンリャン監督の許可がいるのですか?」と僕が笑いながら聞くと、「どうもそうみたいなんですよねえ」と監督も笑い、場内も笑う。

そして、この話は意外な展開を見せる!(以下、夕方に同僚から聞いた話)

映画祭の企画として、アジアと日本の映画人を結ぶ「アジア交流ラウンジ」というオンライントーク企画が、日比谷の会場で連日組まれている(「TIFFトークサロン」とは別もの)。日替わりメニューで、今日の午後には、ツァイ・ミンリャン監督と片桐はいりさんとのトークが組まれていた。で、Zoomで参加した視聴者が質問を出来る仕組みになっているのだけど、なんと「リム・カーワイ監督がリー・カンションさんに出演をオファーしたら、ツァイ・ミンリャン監督に確認しないといけないと言われたという話が出たのですが、そういうことになっているのですか?」という主旨の質問が入ったそうな!つまり、さっき『カム・アンド・ゴー』を見たばかりの観客の方が、ツァイ・ミンリャンに直接質問したというわけで、なんという速攻的連動性!

ツァイ・ミンリャン監督は、「アドバイスはするようにしているけど、全てコントロールしているわけではない」とお答えになったそうな。いやあ、最高だなあ。

さて、15時45分から、劇場の控室で10分間打ち合わせ。

劇場を出ると、空一面に見事な鰯雲が広がっている。ああ、秋なのか。成瀬だ。目の前にいた深田晃司監督に声をかけ、一緒に空を見上げ、しばし感嘆する。

事務局に戻り、ミーティングを1件こなし、パソコンに向かう。本日も睡魔に襲われ、10分ほど席で仮眠。またも効果てきめんで、あとはすっきりと「トークサロン」の準備を進める。

17時35分から、『鈴木さん』の上映後Q&A司会。佐々木想監督、撮影監督の岸健太郎さん、そして出演の松永大輔さんがご登壇。

本当に、佐々木想監督、正当な超個性派というか、形容の言葉が見つからない存在感のアーティストだ。佐々木想、小山駿助、内山拓也、という3人の全く異なる才能に出会えた今年は、間違いなく忘れられない年になる。佐々木監督は、言葉少ない武士のような佇まいで、でも決して機嫌が悪いわけでもなく(たぶん)、周囲をじっくり観察しながら、脳内で複数の世界をフル回転させているに違いない。いや、わからないけれど、佐々木監督の脳内は凡人の想像の及ぶところではなく、池田暁監督が少し近いかもしれないけど、いや、池田監督はこれまた超個性なので、話がややこしくなるだけだ。比較なんてやめよう。

作品の最初の動機というか、きっかけを尋ねると、作品が風刺する少子高齢化社会や、日本の右傾化などへの危惧ではなく、「まれびと」であったという。もとは霊的な意味でつかわれる言葉だと思うけど、とにかく外部からやってくる旅人、ということでも間違っていないかな。なるほど、「鈴木さん」は「神の国」にどこからともなく現れる。まれびとだ。

ここから、どうやってSF的世界に展開していったのか、あるいは、ラブホテルを改装して老人ホームとして使用するアイディア、そして全体を覆う不穏な空気をどうやって統一感あるものに仕上げていったのか、という質問を僕からしてみる。少しヒントはくれるものの、少しはぐらかす。いや、思わせぶりにはぐらかすタイプの監督ではなく、本当に、なんだか正直な気がするのだ。そこも不思議。ともかく、監督は不穏な空気を描く意図はなかったという。しかし映画を見てみると、不穏になっていた、とも語る。

岸キャメラマン(『海辺の彼女たち』のキャメラマンでもある)が、監督の世界を補足してくれる。監督とは、「厳(おごそ)か」なものを作ろうというコンセプトがあったという。意図した「厳か」と、意図しない「不穏」、これが『鈴木さん』の世界なのかもしれない…。

客席から「序盤に出てくる、指や手のサインで交わす会話はどういう意味か?」という質問がでると、「正直あまり意図を覚えていないのです。意味はないんじゃないかな…」と困ったような回答。すると岸さんがすかさず「でも、手や肘の角度とか、すごくこだわっていたじゃないですか」と突っ込むと、少し間を置いて「意味のないものは美しくなければいけないですよね」。

けだし名言。これでQ&Aを見事に締められる!

この作品は、全てがメタファーに見えるけれど、必ずしも深読みばかりをする必要はないというようなことを途中で監督は発言されていたけれど、果たしてどうか。本当に得体の知れないスケールを隠し持つ佐々木監督。ワールドワイドな存在になっていくことは間違いない。『鈴木さん』、早く公開されて、さらに多くの人に見てもらえますように。監督とご縁が出来てよかった。全くカジュアルに話せる場を持てていないのがひたすら残念だけど、いつか機会が来ることを祈るばかり。

ああ、それにしても、日本映画の監督たちに交流してほしかった!今年は密集を避けたので、交流の場がゼロだった。佐々木監督が小山監督と向かい合っている絵が見たかった。内山監督と吉野竜平監督が話し込んでいる様子が見たかった。もし、立食パーティー的なものが解禁されてくるようになったら、みなさんを招待して、「遅れてきたTIFF2020監督交流パーティー」を真っ先に開こう。もう、ここで予告します。

18時10分に終わり、お弁当。あれ、今これを書いているのが1時50分で、何を食べたのか思い出せなくなってしまった。なんだっけ…。

18時45分から「TIFFトークサロン」で、今回は「Tokyoプレミア2020」部門出品のイラン映画、『ノーチョイス』のレザ・ドルミシャン監督をお迎えしてのトーク。

「トークサロン」は、アジア・中東作品については基本的に石坂健治さんがモデレーターを担当していらっしゃるけれど、今日はアジア作品が「トークサロン」に集中してしまったことと、なによりも僕が『ノー・チョイス』の監督と話をしたかったということもあり、自ら申し出た次第。

本作は主題がヘヴィーなので、トークもにこやかに進行することが憚られ、終始真面目なトーンになってしまったけれど、リアルでもこういう回はしょっちゅうあり、映画祭では珍しいことでは全くない。むしろ、描かれているイランの現状をじっくり聞くことが出来て、有意義な内容であったのは間違いない。網羅的に聞くことが出来たけれど、この作品の持つビジュアルの個性、キャメラワークの個性にもっと時間を割きたかったかな。50分はたっぷりあると思いながら、意外にあっという間に過ぎてしまう。去年までのリアルQ&Aは30分。いったいどうやっていたのだろう?

事務局に戻り、さらに明日以降の「トークサロン」の準備。ここで食べたのが三色弁当だったのは覚えている。夜の2個目。

22時15分から『蛾の光』の2度目のQ&A。登壇はリャオ・チエカイ監督。本作がリルケの「若き詩人への手紙」からインスパイアされていることをまずは話してくれて、なるほどと納得する。ヒロインのハ・ヨンミさんはダンサーであり、もとは韓国の伝統舞踊のダンサーだったのがコンテンポラリー・ダンスに転身し、ピナ・バウシュに影響を受けてサミュエル・ベケットの劇作を踊っていたという。ああ、なんとなく本作へのイメージと繋がっていく気がする。固有名詞がたくさん出てくると、色々なことがイメージしやすい。

『蛾の光』には、生と死が描かれ、僕はアジア的な死生観が映画の主題のひとつとして含まれていると解釈していたのだけど、今日の監督の話を聞くと、必ずしもそういうことではないと分かってとても興味深い。「蛾」のイメージは、スタン・ブラッケージの作品『Mothlight』の影響を受けており、炎に向かってしまう蛾は、破滅的な芸術家のイメージであるという。芸術家の破滅性、このキーワードで本作を再見してみたいと、強く思う。

個人的にとても有意義なQ&Aだったのだけど、観客からも本作の美を賞賛する意見が出て、とても嬉しい。目下、長編監督作3本がすべて東京国際映画祭で上映されているチエカイ監督、4作目でもお待ちしております!

そして23時から、「TIFFトークサロン」。「ワールドフォーカス」部門でラテンビート映画祭の共催で紹介しているラテン圏の作品の中から、チリの『老人スパイ』のマイテ・アルベルティ監督。

『老人スパイ』は本国で公開直前ということで、監督が忙しく、今回確保できた時間は30分のみ。視聴者の方々から質問をたくさん頂いたのだけど、ひとつずつ読んで紹介する時間がなさそうなので、僕がトークの中でそれらを組み込みながら進行してみる。それにしても、去年までのリアルQ&Aが30分。いったいどうやっていたんだ?

このあまりに優しく、胸に染みるドキュメンタリーの製作の過程を、限られた時間で聞いていく。詳細はYouTubeのアーカイヴ動画を見てもらいたいのだけど、本当に稀有な内容なので、これも日本公開を期待したいところ。マイテさん、忙しいところ、ご参加ありがとうございました!

どうしてもお腹が空くので、0時半に今宵3個目のお弁当。シャケ弁。バック・トゥ・ベーシック。

ブログ書いて、今日は2時半前に上がれそう。映画祭も終盤選。あと3日。無事に推移しますように。
《矢田部吉彦》

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