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可愛い見た目に反して猛毒が潜む『プロミシング・ヤング・ウーマン』

フェネル監督が「女の子が好きなものを再利用して恐ろしいものを作りたかったの」と言ったこの映画には、可愛い見た目に反して猛毒が潜んでる。デートムービーだと思って観に行ったらとんだ目に逢うだろう。

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『プロミシング・ヤング・ウーマン』 (C)2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved.
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  • 宇垣美里
  • 『プロミシング・ヤング・ウーマン』 (C)Focus Features
《text:宇垣美里》

色とりどりのキャンディーのようにスイートで鮮やかな色彩、ポップで踊れるサウンドやガーリーな衣装がスタイリッシュでかわいい『プロミシング・ヤング・ウーマン』。エメラルド・フェネル監督が「女の子が好きなものを再利用して恐ろしいものを作りたかったの」と言ったこの映画には、可愛い見た目に反して猛毒が潜んでる。デートムービーだと思って観に行ったらとんだ目に逢うだろう。

題名の通り“未来を約束された若い女性”だったはずのキャシーは、ある事件によって医大を中退。昼間はカフェの店員として働きながら、夜な夜なクラブで泥酔したふりをして、女性をお持ち帰りし弄ぼうとした男どもに裁きを下していた。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』(C)Focus Features
ある時はスリラー、ある時はラブコメ。ミュージカル調に歌って踊ったかと思えば、愚かな男を真顔で詰めて震え上がらせる。メイクと表情で雰囲気をがらりと変え、恋の喜びも忘れられない怒りも孤独も決心も、全部ひっくるめて見事に表現した主演のキャリー・マリガンの怪演は必見。ジャンルをひょいと飛び越え見る者を翻弄する一方、全編を突き通しているのは“性暴力を笑いごととして消費させてたまるかよ”という太い芯だ。

むっとした顔をすれば「女だろ?にっこり笑え」。
赤い口紅を引けば「女は化粧しすぎだよ 男は化粧が嫌いなのに」。
聞き覚えのありすぎる男性描写の数々に対し、「何やってんの?って聞いてんだよ」とドスの効いた声で問い、タイヤレンチでフロントガラスをぶち破るキャシーの姿に、ぽかんと間抜けな顔で受け止める男どもに、笑ってしまった後涙が出た。ずっとそう言ってやりたかった。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』 (C)Focus Features
復讐の対象は送り狼たちだけには止まらない。“前途有望な若い男性”を守るために被害者の訴えを握りつぶした人、男の前で泥酔した女にも落ち度はあったと嘯いた人、下世話なゴシップを一緒になって笑った人も立派な共犯者だ。果たしてこの映画を見て自分は関係ない、みたいな顔ができる人がいるのだろうか?性犯罪はいつも被害者の落ち度ばかりが責められる。「隙があったんだよ」とか、本当に言ったことない?

『プロミシング・ヤング・ウーマン』(C)2020 Focus Features, LLC.
復讐は何も生まない、大切な人は帰ってこない。でも、許せなかった。どうしても、どうしても、どうしても。だって親友だった。彼女のことを愛してた。ボロ切れのように扱って笑ったくせに、あいつらみんな、彼女のことをとっくに忘れてる。人間はやり直せないとは言わない。だから何度も確認した。でも、彼らは後悔すらしていない。私も忘れて一人幸せになんてなれない。自分が正しいとは思わないけど、こんなの許せるわけなくない?

前言撤回、やっぱりこの映画、デートにぴったりだ。もし彼氏がこの女こえー、とか言って笑ったとしたら、そんな奴さっさと捨てたほうがいい。

【PROFILE】宇垣美里

1991年生まれ。兵庫県出身。同志社大学を卒業後、2014年にTBSにアナウンサーとして入社し、数々の人気番組に出演。2019年4月よりフリーに。現在はオスカープロモーションに所属し、テレビ、ラジオ、雑誌、CM出演のほか、女優や執筆業も行うなど幅広く活躍中。

近著にはチョコレートがテーマのフォトエッセイ「愛しのショコラ」(KADOKAWA)がある。

現在、放送中のドラマ「彼女はキレイだった」(カンテレ・フジテレビ系 毎週火曜21時~)にレギュラー出演中。
《text:宇垣美里》

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