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ホン・サンス監督との撮影は「信じられないほど自由」主演イ・ヘヨンが明かす『あなたの顔の前に』

『あなたの顔の前に』でホン・サンス作品へ初出演にして主演を飾ったイ・ヘヨンが、監督との出会いや、本作への出演に至るまでの裏話、監督の驚くべき演出方法などを語る。

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『あなたの顔の前に』© 2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved
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  • 『あなたの顔の前に』(C)2021 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved
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2022年ベルリン国際映画祭で長編27作目の最新作『小説家の映画』(仮題)が銀熊賞(審査員大賞)を受賞し、3年連続銀熊賞受賞の快挙を果たしたホン・サンス監督。このたび、その日本公開最新作『あなたの顔の前に』でホン・サンス作品へ初出演にして主演を飾ったキャリア40年の俳優イ・ヘヨンが、監督との出会いや、本作への出演に至るまでの裏話、監督の驚くべき演出方法など、貴重なエピソードを語ったインタビューが到着した。


>>『あなたの顔の前に』あらすじ&キャストはこちらから

ポン・ジュノ監督、パク・チャヌク監督など世界を席巻する韓国映画界でひときわユニークな映画作家として、揺るぎない国際的評価を築き上げてきた名匠ホン・サンス監督。この6月、待望の新作2本『イントロダクション』と『あなたの顔の前に』が日本公開を迎える。

本作は、長いアメリカ暮らしから突如、韓国に帰国した元女優サンオクが過ごす1日の出来事を通して、中年女性の心の深淵に迫ったホン監督の新境地がうかがえるドラマ作品。「ホン・サンスの最も感動的な作品の一つ」と評され、監督の公私にわたるパートナーのキム・ミニがプロダクション・マネージャーを務めたことでも話題。

また、イ・ヘヨンといえば、1960年代に韓国映画界に多大なる影響を与えた巨匠イ・マンヒ監督の娘にして、多数の演劇、ドラマのほか、巨匠イム・グォンテクをはじめ錚々たる映画監督たちの作品に出演。ミステリアスで複雑な主人公を見事に体現した本作での圧巻のパフォーマンスで、2022年・国際シネフィル協会賞の最優秀女優賞、第58回百想芸術大賞の女性最優秀演技賞(映画部門)を受賞した。ホン監督の最新作『小説家の映画』(仮題)でも主演を務めており、新たなホン・サンス作品の“顔”となった。


40年間のキャリアにおいて「彼との仕事は新しい発見の連続」


Q:ホン・サンス監督の映画に出演した理由は?

イ・ヘヨン:とてもシンプルでした。ホン監督からテキストメッセージが届いたんです。「映画を作っているホン・サンスです」って。わたしはこう返しました。「準備はできています。お会いしましょう」。そんなふうにして映画を撮り始めました。なぜわたしにこの役を、とか、たずねたりはしなかったし、そんなことには興味なかった。ただ監督にお会いしたかったし、お友達になって、いっしょにお酒を飲みたかった。残念ながら、ホン監督はお酒をやめていらしたから飲めなかったけど、彼の映画や、映画の撮影に、わたしはすっかり魅了されました。

Q:ホン・サンス監督は撮影もユニーク。撮影当日にその日の脚本を受け取って、その場で演じるという撮影の仕方にとまどいは?

イ・ヘヨン:ありえない! ホン監督の映画の撮影を通して、わたしは「これが俳優」と言えそうな立ち位置をついに見つけたと感じました。撮影初日のことは今も鮮明に覚えています。40年間の私のキャリアの中で、嘘っぽい演技を一度もしなかったと思えたのはそれが初めてだった。ホン監督と仕事しながら「これまでのわたしの演技ってみんな嘘だったのだろうか?」と思いました。彼との仕事は新しい発見の連続だったし、それぞれの場面に熱意を持って入りこむことができたと思います。演技をしながら、これまで感じたことのなかった自由を感じました。

Q:40年のキャリアを持つベテランがその演技を通して「初めて感じた自由」とは?

イ・ヘヨン:ホン監督にはA4サイズの台本を一部、毎日その場で渡されました。撮影が終わったら台本は回収されるんです(笑)。わたしはアントン・チェーホフの大ファンですが、ホン監督の台本はチェーホフを思わせるようでした。よくある映画の台本は具体的です。わかりやすく描写してあって、絵コンテにちょっとした顔の表情まで描かれている。そんな台本を見ると、それに囚われて、台本に忠実に演技しなくてはならないと思ってしまいます。

でも、ホン・サンスの台本にはそんな「落とし穴」がなかった。撮影の日に台本を受け取って、その場でただ演技すればいい。翌日の演技に気を散らすこともないし、ストレスを感じなくていい。メイクしないでそのままセットに来て、と言われて、朝起きて、顔を洗ってセットに行けばそれでよかったんです。その日の環境の中でただ演じるだけ。そんな仕事のしかたはとても興味深かったし、信じられないほど自由でした。


「さらに多くの韓国のフィルムメイカーや俳優たちが世界を舞台に活躍する」


Q:初めてホン・サンス監督の映画に主演した感触は?

イ・へヨン:正直に言うと、2015年までホン監督の映画は観たことがなかったんです(笑)。テレビで目にした彼の映画は、さりげなくて、現実っぽくて、だから不親切だと思っていました。誠実でない、と思うほどに。わたしには「映画のファンタジー」こそが、リアルだった。だからホン監督の映画のリアリティは、わたしにとってはリアルではなかったんです。

わたしはホン監督にちょっぴり嫉妬していたんでしょう(笑)。(監督からの出演)メッセージを受け取ったあと、ホン監督の映画を観はじめて、びっくりしました。「みんなが知っている天才に今ごろになって出会うなんて、わたしくらいだ」と思いました。彼の映画をみんなまとめて観ながら感激しました。昔みたいにまたドキドキしながら気持ちをたかぶらせて、毎日、夜通し眠らずに映画を観続けました。

Q:『あなたの顔の前に』のほかにも、2021年には韓国で『アンカー』と『ハッピーニューイヤー』が公開。「イ・へヨン映画の時代」の再来?

イ・へヨン:調子のいいことはいつも聞かされています。「この映画の、この役はあなたにしかできない。あなただけが演じられる!」(笑)。わたしにとって新作映画を選ぶということは、俳優イ・へヨンにふさわしいイメージをわたしが思い描ける役を探している過程か、すでにそれを見つけて、もう探すのをやめた時でしょう。

Q:近頃では海外の映画ファンたちが韓国映画や、韓国の俳優に興味を持つようになった。『あなたの顔の前に』は「俳優イ・へヨン」を海外の映画ファンに知ってもらえる?

イ・へヨン:ポン・ジュノ監督と俳優のユン・ヨジュンさんは韓国の映画産業にとって、とても大事な仕事をしたと思います。お二人ともデビュー以来、素晴らしい仕事を積み重ねてこられた世界的な映画人です。これからは、さらに多くの韓国のフィルムメイカーや俳優たちが世界を舞台に活躍するでしょう。『あなたの顔の前に』も海外でたくさんの方に観ていただきたいです。

『あなたの顔の前に』『イントロダクション』は6月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国にて順次公開。


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《シネマカフェ編集部》

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