【レビュー】『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』女性たちの勇気ある語りは未来のために

ベストセラー・ノンフィクションを基にした『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』は、どんな映画ファンも見逃すことのできない重大な告発と圧力に屈しなかったジャーナリズムの姿を描きつつ、女性たちの未来へ向けた声高らかな意思表示となっている。

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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』© Universal Studios. All Rights Reserved.
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  • 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』マリア・シュラーダー監督 © Universal Studios. All Rights Reserved.
  • 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』ポスター© Universal Studios. All Rights Reserved.
  • 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』メイキング © Universal Studios. All Rights Reserved.
  • 『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』メイキング © Universal Studios. All Rights Reserved.
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『パルプ・フィクション』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『恋におちたシェイクスピア』に、『キル・ビル』、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作や『英国王のスピーチ』などなど。

映画好きが選ぶ「好きな映画」として、名を挙げられる幾多の映画たち。『ショコラ』『サイダーハウス・ルール』『愛を読むひと』といった名作ヒューマンドラマから現在も支持を集める大ヒットホラー『スクリーム』やリメイクシリーズの『ハロウィン』なども含め、映画プロデューサー ハーヴェイ・ワインスタインがミラマックス時代からワインスタイン・カンパニーを解雇されるまで手がけた作品は優に300本を超える(IMDbより)。

90年代からハリウッドで“神”として君臨していたワインスタインがこれらの映画製作の裏側で行ってきた性暴力、そして、それを躍起になって隠匿してきた者たちがいたことは、2017年10月5日、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたスクープが口火となり次から次へと明るみになった。

その調査報道をまとめたベストセラー・ノンフィクションを基にした『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』は、どんな映画ファンも見逃すことのできない重大な告発と圧力に屈しなかったジャーナリズムの姿を描きつつ、女性たちの未来へ向けた声高らかな意思表示となっている。


女性記者たちの背景を盛り込んだ見事な脚色


ハリウッドの大物プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタインの数十年にわたる性暴力・性犯罪は、ニューヨーク・タイムズ紙の記事はもちろん、本作の原作となった「その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―」や、2017年10月10日「ニューヨーカー」誌に寄稿されたローナン・ファローによる記事、彼の著書「キャッチ・アンド・キル」などで再三暴かれてきた。

あまりに卑劣、残酷で非道な行為と、映画ファンを裏切る彼のもう1つの顔。さらに告訴の取り下げ要求、示談金の支払いとともに女性たちの口を堅く閉ざさせる、性被害者を守ることのない法の構造的問題点や隠蔽する映画界の“慣習”にも、本作は斬り込む。

本作は、その一連の出来事を追跡し、最初に報道したニューヨーク・タイムズ紙のミーガン・トゥーイージョディ・カンターらジャーナリストたちと勇気を持って立ち上がった女性たち(有名女優だけではない、当時のアシスタントやスタッフも含めた)の声によって語られていく映画だ。ワシントン・ポスト紙がウォーターゲート事件を暴いた『大統領の陰謀』、ボストン・グローブ紙がカトリック教会神父による性的虐待を追及した『スポットライト 世紀のスクープ』といった調査報道の実録映画にまた1つ傑作が加わった。

脚本を務めたのは、サテライト賞、ブロードキャスト映画批評家協会賞、女性映画ジャーナリスト同盟賞など、全米各地の映画批評家協会賞の脚色賞に多数ノミネートされ注目を集めているレベッカ・レンキェヴィチ。『イーダ』や『コレット』『ロニートとエスティ 彼女たちの選択』といった作品で知られている。

レベッカは「プランB」のプロデューサー陣や原作の著者でもあるミーガン、ジョディと協力し、3年かけて脚本を完成させたという。その構成は見事で、当初はただの同僚だったミーガンとジョディがタッグを組むことになると、それぞれの個性の違いや家庭の様子なども丁寧に紡ぎ入れていった。2人のプライベートにも踏み込んだ脚色は彼女たちの新聞記者としての原動力、使命感や覚悟をよりクリアにさせ説得力をもたらしている。


キャリー・マリガンとゾーイ・カザンが
信頼で連帯するバディに


ミーガン・トゥーイーを演じたのは、『プロミシング・ヤング・ウーマン』で性暴力に壮絶な復讐を果たす主人公を演じ、アカデミー賞にノミネートされたキャリー・マリガンニューヨーク・タイムズで2016年当時に大統領候補だったトランプ氏のセクハラを追及した記者だ。

また、アマゾン本社やスターバックス社の労働環境問題を提起し、働く母親と母乳育児に関する調査をまとめたこともあるジョディ・カンターを演じたのは、TVシリーズ「プロット・アゲンスト・アメリカ」『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』などのゾーイ・カザン

2人は2008年のブロードウェイ舞台「かもめ」で共演して以来親交があり、さらにゾーイが脚本を執筆し、彼女のパートナーのポール・ダノがメガホンをとった『ワイルドライフ』ではキャリーが主演を務めた縁がある。この2人の息の合ったコンビぶりと、それぞれのキャラクターの対比も本作の見どころの1つだ。

キャリーが演じたミーガンは洗練された柔和な雰囲気を纏い、情熱は内にたぎらせ、言葉数は少なくともはっきりと考えを述べる女性。トランプ氏の報道以降ひどい威嚇や脅迫を受けていた彼女は、長女の出産後は産後うつにも悩まされた。声を奪われた女性たちの告発を世に届けることは、彼女自身にとっても心のよりどころとなったのだ。演じたキャリー自身も、娘を出産した直後の『未来を花束にして』の宣伝PR期間にミーガンと同様の経験をしている。

一方、ふたりの娘を育てているニューヨーカーのジョディ役は、秀才の学生がそのまま記者になったようなカジュアルで機能的な着回しや黒いリュックを背負う姿がゾーイにぴったりだった。重要な情報提供者の1人となった元会計士のアーウィン・ライターとの関係づくりに、ホロコーストの“サバイバー”であるジョディの祖母の話題が糸口となったのも「プロット・アゲンスト・アメリカ」で好演を見せたゾーイが演じればこそ。

そんな2人が演じるタイプの違う記者がコンビを組み、取材の中でサバイバーや目撃者たちと手を取り合い、支え合って葛藤を乗り越え、連帯を強めていく過程を見つめるだけでも本作は大変に意義深い。加えて、編集局次長レベッカ・コーベット役のパトリシア・クラークソン、編集長ディーン・バケット役のアンドレ・ブラウアー声を上げたローラ・マッデン役のジェニファー・イーリーやゼルダ・パーキンスを演じたサマンサ・バークスらの熱演も忘れてはならない。


未来の誰かを守るために…#MeTooの萌芽


ただ、二度と思い出したくもない、自身の一部をある意味“死なせた”出来事について「オンレコで話せますか」と、公表や報道を前提で話すことができるかとサバイバーたちに何度も尋ねて回る道程は、双方にとって心身を摩耗させる作業である。

それでも2人が粘り強く向かい合うことができたのは、正義の追及はもちろん、原作から引用されているミーガンの言葉に尽きる。起きた過去は消し去ることも、変えることもできないけれど、「わたしたちが力を合わせれば、あなたの体験からほかの誰かを守ることができるかもしれない」のだ。

ミーガンやジョディたちが娘を育てている最中の母親であることも、この言葉の裏付けになる。次の世代のためにも、いまここで正さなければ、すべてを白日の下にさらさなければ――。そんな思いが大前提にあるからこそ、主体性を持ったナラティブが映画を動かしていく。また、サバイバーや目撃者たちが、時間がかかったとしても声を上げられたことは自ら沈黙の一部となってしまった彼女たちの心の解放にも繋がったはず。

そんなふうに勇気ある声を得る度ごとに力強く連帯していくミーガンやジョディと女性たちの傍ら、「誰と話をしたのか」ばかりを気にする加害者側の姿は不遜極まりなく、愚かで、滑稽にさえ見えてくる。ワインスタインについて電話越しの音声や後ろ姿などのみで直接的な描写をあえて避けているのは、語りの中に登場してくるだけでもう十分すぎるからだ。

さらに、マリア・シュラーダー監督が「この世界にこれ以上のレイプシーンを増やすことに興味はなかった」と説明しているように、直接的な性暴行シーンも一切登場せず、“サバイバー自身の言葉で語る”という手法がとられている。#MeToo運動がそうであるように、この声ほど告発として強力なものはない。特に、誰もが知っている“当事者本人の声は本作の肝となる。

と同時に、もしかしたら、それゆえに直接的なシーン以上にトラウマや精神的苦痛を感じる可能性があることははっきりと伝えておきたい。『SHE SAID/シー・セッド』というタイトルのごとく、彼女たちが語るからこそ本作は大きな力と重みを持っているのだから。

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』は1月13日(金)より全国にて公開。


《上原礼子》
上原礼子

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。

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