映画『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』は、21歳にしてステージIVの大腸がんを宣告されながらも娘を産み、2021年にこの世を去った遠藤和さんの実話を映画化した作品だ。
主人公の和を演じたのは、川口春奈。劇中で川口は、夫の将一(高杉真宙)とともにありったけの力で生をまっとうする。愛すること、命をつなぐこと、日常のささやかな出来事――すべての瞬間、瞬間をひたむきに演じた。そして、取材で役作りやエピソードについて尋ねると、当時や今の自分の気持ちに照らし合わせながら一言、一言、確かめるように言葉を置いてゆく。その姿を見ていると“実直”の2文字が似合う俳優だと、感じさせられる。
「私たちも作り手として本当にベストだと思えるものを目指して、すべてをつぎ込んで届けています」と、やわらかくもきっぱりとした口調で伝えた川口。これから観る観客に向けて、思いのこもったインタビューとなった。

悲観的だけではない、前向きなメッセージがある作品
――川口さんはもともと遠藤和さんたちのことをご存じだったそうですが、本作を引き受けるにあたり背中を押したものは何でしたか?
実際にいらっしゃった方ですし、果たして自分が表現できるのかという不安はすごくありました。悩むというか、覚悟が決まるまで時間はかかりました。ですが、決して悲観的だけではない、前向きなメッセージがあると思いました。和さんたちのご家族の愛の形が、一人でも多くの方に届いてほしいですし、作品として一生残るものであってほしいと思い、お引受けしました。
――実際、和さんを演じるにあたり、どのように取り組んでいったのでしょうか?
まずは原作を読み、時系列を追って和さんの人生を知っていきました。また、スタッフの方が作ってくださった実際の治療の進め方、「○○歳のときに、こういう治療が始まった」など、詳細が書かれた資料を撮影に入る前にいただいたので、それらをすべてインプットしていきました。もちろん、山戸(結希)監督とも撮影に入る前から、コミュニケーションを取らせていただいていました。

――山戸監督は『溺れるナイフ』、『ホットギミック ガールミーツボーイ』などで知られる監督ですが、川口さんはこれまでの監督作についてどのような印象でしたか?
すごくドラマティックな映像を撮られていて、日常なんだけど非日常にも見えるし、非日常を日常に落とし込むこともできる方だなと感じていました。独特な観点から、今しかない青春、その人の表情、におい、空気までを、まるでドキュメンタリーみたいに切り取っていかれる方という印象でした。そんな山戸監督が、今回の映画をどういう風に撮るかは、最初想像もつかなかったんです。
――実際、撮影に入って印象的だった演出や画作りはありましたか?
のんちゃんや将一さんがどんな顔をしているのか、自分が監督だったら見せたくなるというか、撮りたくなると思うんです。けど、あえて背中で見せたり、相手側しか見せなかったりということをやっていらして、すごくドキッとする撮り方だなと思っていました。表情を見られないことで、逆に想像をとてもかきたてられるというか、考えさせられるというか。見せすぎないことが多かった印象なので、特にそこがすごく新しいと感じました。

――ちなみに現場に入る前、川口さんから順撮りのご提案があったと聞きました。
治療によって体に変化が物理的に起こってしまうので、ちゃんと順番に撮っていったほうがいいのではないかな、と思い提案しました。演じる上でも、順を追って運命を受け止めながら、決断をしていく、そして最期へ向かっていく…ということが、バラバラに撮っていくよりきちんと積み重ねていけるような気がしました。
それは残酷なことではありますが、受け止めなければならない現実でもある。その感覚を持って向き合うことができたと思います。もちろん、つらさは増していきますが、その積み重ねがあったからこそ、よりリアルな感情や表情につながったのではないかと感じています。
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