川崎のリサイクル工場への送迎バス。最後部座席に、野球帽を目深に被った青年の姿がある。武島直貴(山田孝之)、20歳。誰とも打ち解けない、暗い目をしたこの青年には、人目を避ける理由があった。兄・剛志(玉山鉄二)が、直貴を大学にやるための学費欲しさに盗みに入った邸宅で、誤って人を殺してしまったのだ。数度にわたる引越しと転職。掴みかけたのに鼻先をすり抜けた、お笑い芸人になる夢。はじめて愛した女性との痛切な別離。兄貴がいる限り、俺の人生はハズレ。そういうこと…。耐え切れずに自暴自棄になる直貴を、深い絶望の底から救ったのは、常に現実から目をそらさず、日の当たる場所へと自分を引きずり出してきた由美子(沢尻エリカ)の存在だった。しかし、そのささやかな幸せが再び脅かされるようになった時、直貴は決意する。塀の中から届き続ける、この忌まわしい「手紙」という鎖を断ち切ってしまおうと。
生野慈朗