本作の舞台は、歴史の転換期であった1992年、ソ連からの独立を果たして間もないリトアニア。アメリカから母ヴィクトリアと息子コヴァスがこの地を訪れ、コヴァスのまなざしの先で、物語が動き出す。ヴィクトリアは幼い頃、ソ連占領下のリトアニアで家族と引き離され、家と土地を失った過去を持つ。この国ではナチス・ドイツからソ連へと支配が移り変わり、人々は異なる体制のもとに置かれ、リトアニアの自由は揺らぎ続けてきた。そうした連なりを経て、ヴィクトリアは20年ぶりに故郷へと戻る。失われた実家の土地を取り戻し、過去を呼び起こすように、息子とともに新たな暮らしを始めようとしていた。しかし、懐かしの家にはすでにロシア人一家の生活があった。簡単には土地を取り戻せない現実を目の当たりにし、理想としていたリトアニアでの再出発は、静かに歪み始めていく。
トーマス・ヴェングリス