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マドンナのワンダーな才能vol.3:町山広美 マドンナを見くびってごめんなさい

見くびってました。
マドンナ念願の監督デビュー作と聞いて、見る前に想像したのは、痛ましい娘の物語だ。

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『ワンダーラスト』 -(C) 2007 Semtex films
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見くびってました。
マドンナ念願の監督デビュー作と聞いて、見る前に想像したのは、痛ましい娘の物語だ。

目立ちたい、寂しいから注目されたい。子供っぽい思いつきが生来の魅力に加わり、おっぱいが膨らむ頃には男の子からエロい目で見られるようになり、自分もそれを楽しむけれど、でもどこか虚しい。やがて裸をさらす仕事につくが、注目をあびるほどに、やっぱり傷ついてしまう。そんな娘の物語。飯島愛の「プラトニック・セックス」のような。

ズレた想像だろうか。
しかし私は、マドンナが自らのタフさを誇り、「ビッチと呼んでちょーだい」と筋肉質の胸を張れば張るほど、最後は「私の中には本当は寂しい少女がいるの」というところにおさまるのではないかと、思いを強くしていた。

だってそれは、商売にもなる。「私の中の寂しい少女」は、男にも女にもウケのいい、共感を得やすい、換金度の高い告白だ。いつかマドンナもそこへ逃げ込んでしまうのではないか。だとしたら、監督作はいい機会だ。ましてマドンナは、フェイバリット・ムービーにフランス映画をあげることが多い。きっと彼女が撮るのは、美しい娘の痛々しい物語に違いない。

ところが。
私なんぞが想像するよりもマドンナは、ずっと陽気な女だった。とっくに大人だった。見くびったような想像をして、ごめんなさい。

『ワンダーラスト』は軽いノリの青春スケッチである。後味も軽やかでハッピー。原題の「Filth and Wisdom」は、汚い言葉&格言、下品なこと&ためになること、そんな風に訳せるかもしれない。もっと言えば、性器&脳みそ。そうそう、青春ってそんなもんだ。年を取ってから振り返ればとてつもなく重要なターニングポイントも、ほんの出来心、より正確に言えば、ほんの出来エロ心で曲がってしまう。大人になれば無駄に重ねた経験が足をひっぱってできない飛躍も、ひょいと実現させる。

男女3人の主人公に託して、そんな青春を愛おしげに描くマドンナの目線は、大人のもの。彼女の鍛え上げられたボディは時に、若さへの執着を想像させるけれど、この映画の登場人物の中で唯一の老人に痛々しさを集約させるに至っては、老いへの身構えも見せた。

そして希望は、ユージン・ハッツに託される。性器と脳みそを同時にさらせる男、ウクライナ出身の、ジプシー・パンク・バンドのフロントマン。マドンナはハッツを徹底的に見せびらかす。「どう、スゴい男でしょ、最高でしょ!」
陽気で率直。マドンナはそういう女だ。



【columnist profile】町山広美
1964年東京生まれ。放送作家。バラエティーを中心にテレビ番組の企画・構成を手がける一方、雑誌・新聞で連載コラムを多数執筆。著書に「こんな自分と仲良くしたい そんなあんたと仲良くしない」(松田洋子と共著)、「隣家全焼」、「堤防決壊」(共にナンシー関と共著)、「怪しいテレビ欄」、「イヤモスキー」などがある。ブログ「延焼日記」更新中。


ポップスター、セックスシンボル、オピニオンリーダー。デビュー当初から世間を騒がせ、世界中でカリスマ的人気を誇るミュージック界の女王、あのマドンナが映画を撮った! 彼女が初めて映画監督に挑んだ『ワンダーラスト』。マドンナの監督としての才能をどう観るか? 人気女性コラムニスト3人による特別連載をお届けします(全3回)。

vol.1:辛酸なめ子 学べよ、マドンナの処世術
http://www.cinemacafe.net/news/cgi/column/2009/01/5281/

vol.2:石川三千花 マジメな話をファッショナブルに!
http://www.cinemacafe.net/news/cgi/column/2009/01/5304/

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《text:Hiromi Machiyama》

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