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【MOVIEブログ】2016東京国際映画祭 Day7

31日、月曜日。10時起床。今日は始動に余裕があって、たっぷり5時間寝られたので、気分爽快で外へ。するとくっきり晴れた爽やかな天気で、さらに気分は上々。映画祭もあと4日、終盤戦に向けて気合いが入る!

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(c)2016TIFFJP
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31日、月曜日。10時起床。今日は始動に余裕があって、たっぷり5時間寝られたので、気分爽快で外へ。するとくっきり晴れた爽やかな天気で、さらに気分は上々。映画祭もあと4日、終盤戦に向けて気合いが入る!

ところで、昨夜の『サーミ・ブラッド』関連で書き漏れたことを思い出したので、記録のために2点追加。

上映後に若い青年が舞台袖にやってきて、僕に話しかけてくれた。先日僕が話す機会を頂いた早稲田大学のレクチャーに参加した学生で、興味を持って初めて映画祭を訪れて『サーミ・ブラッド』を見てみたら、「優れた映画は、エンターテイメントとして面白い上に、その土地が置かれた社会状況が見えてくるという、ヤタベさんのお話の通りでした。素晴らしい作品で、お礼を言わせて下さい」。

もう、こういう若者に出会うために自分は映画祭を続けているのではないかと思うくらい、嬉しい。100人の学生から1人でも映画と映画祭を好きになってくれる人が出てきてくれれば、続けている価値があるのだと思う。お礼を言うのはこちらの方だと、僕は深々と頭を下げる…。

同じく『サーミ・ブラッド』の上映後、劇場のロビーで日本人女性に紹介されたら、長野の斑尾で北欧映画祭を主催している方であり、なんとサーミ族にまつわる作品を10年前から上映し続けているとのこと。『サーミ・ブラッド』の東京での上映を喜んでくれたのだけど、サーミ族について何でも知っているこの方に、事前にもっとお話を聞ければよかったのに、と後悔。『サーミ・ブラッド』が日本公開されて(まだ何ら具体的な情報があるわけではないけど)、専門家の方の解説が充実しますように。

その方から指摘されて勉強になったのは、「どうしても、サーミ族、という言い方になってしまうのが気になるのです。サーミ人、あるいはサーミ民族という言い方がふさわしいはずで、日本族とは言わないけど日本民族とは言いますよね?」。なるほど。確かに。これは今後気を付けよう。

さて、本日は午前中に上記を書くくらいの余裕があり、スロースタート。後半戦に向けてありがたい。

上記を書いていると、素敵なハプニングのニュースが飛び込んで来た。インドネシア特集の1本として上映しているモーリー・スリア監督の『フィクション。』を、松山ケンイチさんが鑑賞に訪れ、しかも上映後のQ&Aで質問したそうな! 「俳優をやっている松山といいます」と前置きして質問されたそうで、もちろん仕込みなしのナチュラル・サプライズ。ああ、カッコよすぎる。そして、これぞ映画祭!

12時55分から、レハ・エルデム監督『ビッグ・ビッグ・ワールド』の2度目のQ&A。この作品に暗喩やシンボリズムを求めたくなる気持ちを抑えるのは難しいのだけれど、やはりその点について質問が出て、特に象徴しているものはない、というエルデム監督の回答は前回と同じ。物事に意味を求めすぎることを戒めている気もするし、自分の解釈を掘り下げよ、と言われている気もする。

好きな日本の監督を聞かれ、小津に加えて成瀬の名前を挙げたのが興味深く、次の質問者が外国映画の好きな監督を聞いたところ(あまりエルデム監督に直接聞いたことがないので、とてもありがたい)、あがった名前は、アピチャッポン、タル・ベーラ、そしてツァイ・ミンリャン。もう、これは、ストレートですね。

本作のテーマを思いついたきっかけに関する質問ははぐらかしていたけれど、僕が「監督の過去作を拝見すると、自然と一体化したいという欲望が伺えるのですが」と尋ねると、確かにここ数作はそうかもしれませんね、と答えつつ、この先はどうなるか分からない。自然一体化路線は今回でひとつの区切りとなり、別の世界へ向かうか、それともさらなる深化を求めるのか、エルデム監督からは目を離せない。

事務局に戻り、14時にクロージング日の段取り打ち合わせ。うー、もうクロージングの話か。辛いなあ。

それから、15時までにメールで返信しなければいけないインタビューの質問の答えを、英語で書く。ほんの数行なのに全くいい文章が書けず、ちょっと残念な英語でつたなく返信。

16時から、コンペの『フィクサー』の2度目のQ&A。アドリアン・シタル監督から、日常生活の中で無意識に犯してしまう精神的な虐待が作品の底辺にあることを語ってもらう。そして主人公のキャラクター造形についての話が中心になり、ラストシーンの解説も。

終盤の質問で、イタリア人の女性から、ルーマニアを取り巻く環境がステレオタイプではないか? との疑義も呈示されて、ヨーロッパ人どうしのディスカッションにもなったのが、これまた国際映画祭らしい。ステレオタイプと普遍性の境目はどこにあるだろうか、と僕は考えながら聞いていたのだけど、監督にとってのリアルな状況が、イタリア人には逆に新鮮味が感じられないとしたら、その状況が日常化していることを示しているかもしれず、なんだかヨーロッパの闇がここで浮かび上がってくるような気にもさせられた…。

もう少し映画の技術的なところにも触れたかったのだけど、タイムアップ。十分に刺激的な時間がもらえたので、僕は満足。終盤のイタリア人とのやり取りに、お客さんが置いて行かれてしまっていなければよいのだけど!

続いて、コンペの『雪女』の2度目の上映。まずは上映前舞台挨拶。杉野監督と娘役の山口まゆさんが美しい着物で現れ、映画初出演となる松岡広大さんも一緒に登壇。華やかな雰囲気の中、ご挨拶のお言葉を頂いて、15分ほどで上映開始。

僕は会場を移動して、個人的な緊張物件、ブノワ・ジャコ監督の『ネヴァー・エヴァー』のQ&A司会へ。20年来好きな監督であり、強面のイメージもあるので、楽屋で緊張しながらご挨拶。すると、なんとも紳士的で愛想が良く、映画祭の運営をベタボメしてくれて、逆に僕が恐縮してしまう始末。主演のジュリア・ロイさんもとても端正で美しい。猛スピードで物事が進んでいるので、事の重大さをつい軽く考えてしまいがちなのだけど、ブノワ・ジャコ監督と普通に会話しているなんて、我に帰るとちょっと信じがたい。

プロデューサーのパオロ・ブランコが権利を保有していたドン・デリーロの原作は、幾人かの監督で映画化が検討されてきたと読んだことがあるけれども、ジャコ監督に話が来て、そこにジュリア・ロイさんが脚本として参加することで動き出したとのこと。

会場から良い質問が相次いで楽しい。最初は、「本作は映画監督と女優の関係の話だが、ジャコ監督とロイさんはそれぞれ自分を投影したのか」という質問。ジャコ監督は、そうなりそうだったから当初は監督することを渋ったと語り、結局は劇中の監督を演じる主演のマチュー・アマルリックの方から、ジャコ監督のメガネやシャツを借りたりして、ジャコ監督を自ら取り入れた、というエピソードが面白い。

ヒッチコックを意識したか、という質問には、「全くしていません。ただ、ヒッチコックは映画にとってあまりに重要な存在なので、意識しなくても、常にそこにいるとも言えます」。

せっかくブノワ・ジャコが来日してくれたのに、時間を切らなければいけない無念さといったら。泣く泣くQ&A終了し、一瞬の邂逅に終わりを告げて、監督とジュリアさんを見送る。

事務局に戻って弁当を食べようと思ったら、劇場の外でお客さんとフランス映画の話で盛り上がってしまい、時間が無くなってしまった。でもこういう話は弁当より美味しいので大歓迎。

19時半から、杉野監督を迎えた『雪女』のQ&A司会。なるべく多くの方の意見や質問を受けたいとのご希望だったので、僕からの質問は控えめにして客席に呼びかけたところ、続々と手が挙がってテンポの良い充実のQ&Aになった!

死やゴーストは我々の周りに常にいるというロシア人(かな?)の感想や、本国では今日が「死者の日」なので奇遇だと語るメキシコ人の方々の感想も興味深く、そして雪女が恐ろしい存在ではなく、死へと誘ってくれる特別な存在ではないかという日本の方の指摘も鋭い。演技者杉野希妃を演出家杉野希妃はどう指導したか、という質問も出て、やはりこれは誰もが気になるところ。とにかくほとんど前例が無いことに挑戦している監督なので、どの話を聞いても刺激になる。

最後に、映画製作を目指す学生からアドバイスを求められると、「女優と監督の両方をやっていると、とかくどちらかに絞れと言われるけれど、自分の信じたことをやるしかない」と語り、強い意思をのぞかせた監督、カッコいい。映画界の大谷翔平ですね、と言おうとしたけど、せっかくの場を壊してしまうかもしれないので自重した…。

短い原作を、いかにして長編脚本に拡大したかという質問をはじめ、映画祭前に僕が聞きたかった質問がまだまだたくさんあるのだけど、今回は残念ながら届かず。また次の機会があることを楽しみにします!

20時15分に終わり、事務局に戻り、5分で弁当を飲み込む。ガパオライス!

20時半から、作品ゲストをお迎えするプライベート飲み会へ。庶民的な居酒屋で、にぎやかに盛り上がって、みんな喜んでくれているみたい。よかった。2時間、各テーブルを回って大勢のゲストと会話。まだQ&Aの壇上でしか会話できていないゲストともゆっくり話が出来てよかった。でもウーロン茶片手が恨めしい。ビールはもう少しガマン。

2時間経ったところで中座して、22時50分にEXシアターへ。コンペのロシア映画『天才バレエダンサーの皮肉な運命』のQ&A司会へ。飲み会でしゃべり過ぎて声が枯れた、と気にしている間もなく、予想を超えた事態が待ち受けていた!

『シェッド・スキン・パパ』と『ダイ・ビューティフル』で、今年の大規模盛り上がり案件は過ぎたと油断していたら、『天才バレエダンサーの皮肉な運命』は予想しない方向から爆発した。長年司会をやっているけれど、こんな展開は初めてだ!

上映が終わり、舞台袖で待機していると、割れんばかりの拍手。おお、これはすごいと登壇し、客席を見渡すと、感覚的には8割がロシア人(と思われる外国人)。監督のアンナ・マティソンさんと、主演のセルゲイ・ベズルコフさんをお迎えすると、黄色い歓声に大拍手。すごい。これはすごい。

日本人の観客よりも、上映される作品の国の観客の方が多いというのは、ちょっと経験したことがない。壇上から見ると、6:4、いや、下手したら7:3でロシア人が多い。セルゲイ・ベズルコフさんが本国でかなりの大物俳優であることは知っていたけれど、これほどの動員力があるとは!

もう、完全にセルゲイ・ワールド。一言一言に、ロシアの観客は爆笑し、通訳が追い付かない。役作りの話は終わることがなく、しかもQ&Aの最中なのに、舞台に近づいてプレゼントを渡す女性もいる。ほとんどが若い女性で、涙ぐんでいる人もいる。ルイス・クーとフランシス・ンが登場したときと同じだ!

途中から、もうこれはロシアのお客さんが楽しんでくれればいいのだ、と僕は開き直り、セルゲイさんの話に会場が揺れる様子を堪能することにする。こんなことは滅多にない。後になって、会場に来ていた知り合い(日本人)に感想を聞いたら、「東京にいて海外の映画祭にいる気分になれるなんて、サイコーでした」とのこと。いやあ、素晴らしすぎる。

フォトセッションになると、ロシア女性たちが大量に舞台に押し寄せ、公式カメラマンさんを遮ってしまう。すごいすごい。何とか群衆をなだめて、会場の外で待っていて下さいと英語で呼びかけ、そして外でまた大サイン会で長蛇の列。サインをもらって泣いている女性もいる。もう、見ているこちらも、もらい感激してしまう!

すごかったなあ、と事務局にもどったら1時過ぎ。弁当を食べてから、ミーティング1件。ブログ書いていたら、ああ、今日はもうすぐ4時半。明日も早い。上がります。それにしても、本当に毎日毎日いろいろなことがある!

(写真は『天才バレエダンサー』。アンナ・マティソン監督と、セルゲイ・ベズルコフさん。もう一枚は、壇上に迫るロシアの女性たち!)
《矢田部吉彦》

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