【MOVIEブログ】2018ベルリン映画祭 Day8

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『Eldorado』
  • 『Eldorado』
  • アケット・テウェンデ(Akhet Tewende)&マークス・イムホーフ監督(Markus Imhoof)&Raffaele Falcone(ラファエレ・ファルコン)/『Eldorado』プレミア-(C)Getty Images
  • ガエル・ガルシア・ベルナル/『Museum』プレミア-(C)Getty Images
  • イルメナ・チチコヴァ(Irmena Chichikova)&ローラ・ベンソン(Laura Benson)/『Touch Me Not』プレミア-(C)Getty Images
22日、木曜日。6時45分起床。今年のベルリンは本当に天気に恵まれた! 朝の気温はマイナス1~2度くらいかな? 青空が広がる素晴らしく気持ちの良い朝。

今朝は9時から「アウト・オブ・コンペ」の『Eldorado』(写真)のマスコミ試写でスタート。現在の難民の状況を描く重要なドキュメンタリー。監督はスイス人で、南イタリアの海上で活動する巨大な難民救助船に乗り込み、救助のオペレーションを取材する。2千人の難民が乗船する光景に、胸がえぐられる。

上陸してからの難民キャンプ生活、不法労働、そして亡命申請や他国への移動の状況などを、90分という短い時間で包括的に見せてくれる。しかも、安直にまとめている印象は与えず、単なるルポルタージュという冷たさもない。それは、2次大戦中にイタリア人の少女を難民として受け入れた家に監督が育った経緯が挿入されるからで、監督にとっては姉のような存在だった少女との文通が映画のもうひとつの軸となっている。

欧州を揺るがし続ける難民問題の最前線を見せる一方で、監督のパーソナルな物語でもあり、奥行きのある貴重な作品だ。難民の状況を映画で見ているだけで何もしない自分に罪悪感を抱いてしまうけれど、だからといって無知のままでいていいわけではない。日本でも見られる機会を作らないと。

11時45分から、コンペ部門のメキシコ映画で『Museum』。ガエル・ガルシア・ベルナル主演の実話もので、博物館から国宝級のマヤ文明の出土品を盗んだ青年たちの物語。義憤に駆られた犯行であることは分かるのだけれど、それ以降の展開がどうにも冗長で、青年たちへの感情移入も中途半端にとどまり、退屈してしまった。主人公の行動を親友のナレーションで綴るスタイルも、効果を上げるよりは混乱の元になっている。期待していた作品だけに、残念。

上映が終わり、ショッピング・モールのインド料理スタンドでチキンカレーのボックスを買い、ベンチで食べる。この店、実は美味しい。ペロリと飲み込み、ランチ所要時間は5分。

14時半から、「パノラマ部門」でアルゼンチン映画の『The Omission』。山間部の町を訪れる訳あり風の若い女性を巡る物語。途中からさっぱり話が分からなくなってしまったのだけれど、集中力が散漫であった自分が悪い。とはいえ、超クローズアップで繋ぐスタイルに食傷気味であったことも確かで(最近ますます増えている気がする)、もう少し普通に撮ってもバチは当たらないと思うのだけど。

続けて16時15分から、同じく「パノラマ部門」で台湾の『Xiao Mei』という作品。複数の人物がシャオメイという女性について証言し、姿を消してしまったシャオメイの人物像を浮かび上がらせながら、彼女の行方を探していく内容。スタイルに斬新性はなく、証言者の数が多いので少し飽きてしまうけれど、きちんとお金をかけたインディー作品でシャープな映像は見応えがある。虚像と実像を巡る考察も興味深く、あの世とこの世を結ぶ視点もあったりして、決してつまらない映画ではない。こうやって書いていると見ていた最中よりもよい映画である気がしてきた。機会があったら再見しよう。

1時間ほど時間が空いたので、カフェに入ってパソコンを開いてブログを少し書いてみる。

19時から「フォーラム部門」でチリの作品『The Wolf House』へ。驚きのストップモーションアニメ。少女が小屋にかくまった豚を狼から守るダーク・ファンタジーで、これまた瞬きをする間も惜しいくらい、映像に目が釘付けになる。流動的に姿を変え続けるストップモーションアニメの技術は驚愕的で、これを作るのに一体どれだけ時間がかかったのだろうと想像するだけで気が遠くなる。興奮と刺激に満ちた現代アート作品だ。

この作品は是非ともイメージ・フォーラム・フェスティバルか、イメフォで開催される斬新なアニメ映画祭「GEORAMA」で上映してもらいたい!ということで、早速連絡してみよう。

20時15分に上映が終わり、フィリピンのパーティーに顔を出すべくタクシーに乗って会場に行ってみると、扉が開かない。隙間から中を覗くと、どう見ても無人だ。慌てて招待状を確認してみたら、明日だった…。ああ。またタクシーに乗って映画祭会場に戻り、往復で20ユーロを丸々損してしまった。ああ、バカだ…。

それでも、映画祭会場でかつての同僚に会えて、30分ほどビールを飲みながら互いに近況報告が出来たのでよかった。ベルリン初参加の彼女は、このブログを読んで『Shut Up and Play the Piano』(Day2参照)を見ることにしたところ、ものすごく面白くて目下ベルリンのベスト1だという。それを聞いて僕もとても嬉しくなる。このブログがほんのささやかでも誰かの役に立っているしたら、やっぱり嬉しい。睡眠時間を削る甲斐があった…。

本日6本目は、22時からのコンペで、ルーマニアの『Touch Me Not』という作品。男性との物理的接触に抵抗がある中年女性が、様々な体験やセラピーを通じて自分の肉体と向き合おうとする物語。

セックスを描いてセックス以上の概念を伝えようとする映画が僕はあまり得意ではなく、なんというか、どうしてもインテリの知的遊戯に思えてしまう。変態的プレイを描きながらも「本当に描きたいことを読み取りたまえ」と上から言われているようで、どうも僕の思考はこの分野の深読みが苦手みたいだ。本作の変態プレイにしても、その他の設定にしても、映画としては挑発的なクリシェに見えてしまい、思考がその先に進まない。

肉体に肉体を語らせるクレール・ドゥニや、セックスをポルノグラフィーから解放しようとするアラン・ギロディーなどは心から共感できるのだけれど、セックスに観念的な読解を求めてくる作品にはどうやって向きあっていいのか分からない。本作のセックスや肉体は記号のようで、感情や快楽を奪われている。記号としてのセックスをどう読み解けばいいのか。

セックスを知的に語れないとバカだとみなされる風潮に異を唱えていたのは内田樹氏だった。僕の知能不足を棚に上げて、ここは内田さんに頼りたい…。

上映終わって0時過ぎ。むむー、と思考を巡らせながらホテルへ向かう。ベルリンはやはり手強い。ぬるい映画に慣れてしまわぬよう、一年に一度、ガツンと戒めてくれる、本当に貴重な映画祭だ。そんなベルリン映画祭も明日が自分にとっては最終日。寂しい!ブログをここまで書いてそろそろ2時。寝ます!
《矢田部吉彦》

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