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【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭 Day8

11月7日、土曜日。8時半起床。外に出ると曇り時々晴れ、という感じかな。今夜は雨の予報らしく、ひどくならないといいのだけど。映画祭もいよいよ終盤!

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『アップル』
(c)2020 TIFF 『アップル』
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  • 『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン』
11月7日、土曜日。8時半起床。外に出ると曇り時々晴れ、という感じかな。今夜は雨の予報らしく、ひどくならないといいのだけど。映画祭もいよいよ終盤!

9時半に事務局に入り、本日は日中に出番が無いので、見直す必要がある作品を見続ける。今年はリアル登壇する作品が14本、「トークサロン」でモデレーターを務める作品が18本あった、というか、ある。最初に見てから時間が立っている作品も多いので、やはり登壇する前に見直しておきたい。でも32本を見直すのはなかなかに時間がかかるわけで、映画祭前までに終えることができない。さらに関連作品も見ておきたいし(ブランドン・クロネンバーグと話すなら『アンチヴァイラル』を見直しておきたいとか、『モラル・オーダー』語るなら『アブラハム渓谷』を見直しておきたいとか)。

かくして映画祭の終盤になるまで少しでも時間が空けば作品を見続けることになる。昨日書いた、昨年と比べて全く余裕が出来た感じがないというのは、これも理由のひとつ。まったくいつも時間が足りない。もう少し、映画祭の他の場所で何が起きているのか、見て回りたいのだけど。

本日は「復活!新作映画イッキに見せます!」と題した予告編上映イベントが行われていて、YouTubeでも同時配信している。同僚が見ている画面を横目で眺め、司会の笠井さんの元気なお姿を見て嬉しく、かつ厳粛な気持ちになる。

さらに、日比谷の会場から連日配信されている「アジア交流ラウンジ」、黒沢清監督とジャ・ジャンクー監督の対談という目玉企画の日だったのだけど、ジャ・ジャンクー監督が体調不良とのことで、その場で参加キャンセルとなったみたい。ああ、ご本人の体調も心配だけど、準備していたスタッフたちもさぞかし力を落としたことだろう…。胸が痛む…。

17時から本日初めて劇場(シネマズ)に行き、「特別招待作品」に出品のアニメーション『ジョゼと虎と魚たち』の上映前舞台挨拶の司会へ。登壇者は、中川大志さんと、タムラ・コータロー監督。

「コンペ」や「スプラッシュ」の延長線上にある「Tokyoプレミア2020」はなんというか、ホーム・グラウンドのような場なので、あまり緊張することはないのだけど、「特別招待作品」部門はどうしても「アウェー感」があって、緊張する。とても個人的な話で恐縮だけど。ただ、例えば『ジョゼと虎と魚たち』を目当てに訪れたファンに、少しでも映画祭そのものにも興味を持ってもらう機会なのであるとするなら、映画祭の人間が司会に出てアピールする必要もあるのだと思う。

とまあ、ちょっとカッコつけ過ぎかな。本気でそうは思っているけれど、でも実は単に監督と観客の間に立つのが好きだということと、アニメももっと紹介したいなと思っていたから、という単純な動機で司会を願い出ていたりするのだけど。

ということで、『ジョゼと虎と魚たち』、上々の盛り上がりのうちに、無事終了。

事務局に戻り、夜のお弁当。金兵衛! このタイミングで金兵衛ですね。ナイス! 鳥のつくね弁当を頂く(金兵衛さんは魚のお弁当で有名だけど、鳥も美味しい)。枝豆とひじきの和え物、昆布と油揚げと人参の和え物、マカロニ、福神漬け、ソーセージ、小判型のつくねが三つに、卵焼き。そしてたっぷり白いご飯。素晴らしい。

20時から、「TIFFトークサロン」。この回は、「Tokyoプレミア2020」からギリシャ映画『アップル』のクリストス・ニク監督をお迎えする。そして、素晴らしい作品に呼応するような素敵なQ&Aになった!

『アップル』は、記憶とは何か、記憶は選別できるか、記憶がその人を作るのか、などの問いを、ミニマルな美しさとセンス溢れるタッチで描く作品。レトロなタッチも独特の雰囲気を醸し出し、主人公の孤独をユーモアを交えて紡いでいく。ということで、尋ねたいことはたくさんある。目の前のパソコンに、視聴者からの質問も続々と上がってくる。

オープンリールのテープ再生機や、ポラロイドカメラといったアナログな装置が活躍する世界を舞台とした理由、実に印象的で全編に効果をもたらすファーストシーンを思い付いたきっかけ、脚本の構造を考える順番、現代社会に対する風刺として用いられるメタファー、人間にとって辛い記憶がもたらす意味、映像のコンセプト、主演俳優がどういう俳優であるかの説明、リンゴの意味…。

示唆に富み、ユーモアたっぷりのトークになって大充実だ。リンゴを用いたきっかけのひとつとしては、(作品の着想の元にもなった)祖父が大のリンゴ好きで、一日にリンゴを7個も8個も食べる人だったから、という説明にスタジオのみんなも暖かく大笑いする。「旧約聖書の知の果実としてのリンゴの意味はある?」との質問がすかさずパソコンに入ってきて、このインタラクティブな面白さはたまらない。

「ユーモアの演出センスに共感する先人監督は?」との質問には、ロイ・アンダーソン、チャーリー・カウフマン、スパイク・ジョーンズなどの名前があがり、僕から「アキ・カウリスマキは?」と尋ねると、「もちろんもちろん、忘れてた」という反応で、ニク監督の興味の方向性が想像できて楽しい。

主演のアリス・セルヴェタリスさんは、ヨルゴス・ランティモス作品にも出演しているギリシャの実力派俳優であり、監督は今作へのレファレンスとして『エターナル・サンシャイン』を見てもらったという。あとは、スタンダードを画面サイズに採用した理由も、非常に興味深い。

『アップル』を見た方、とても充実したQ&Aになっているので、是非チェックを!



21時に終わり、21時15分に劇場に行き、『私をくいとめて』の2度目のQ&A。初回のEXシアターに比べ、今回は小振りのスクリーンで、リラックスした雰囲気で話せるのがいい。大九監督からは、劇中に使われる大瀧詠一さんの「君は天然色」を巡るエピソード、そしてこの曲が流れるシーンの「あの」アイディアについて語ってもらうことからスタート。

そして、キャスティングが決まった経緯、綿矢りささんの原作との相違点、その綿矢さんにまつわる楽しいエピソード、そして、「あの」シーンに対する大九監督のこだわりと、そこに臨んだ、のんさんの意気込み…。いや、ダメだ、映画の中身に関わることばかりではないか! 書けない!

ポイントは、確かにラブ・ストーリーではあるのだけれど、それよりも、30歳を少し過ぎた女性の等身大の日々を描く人間ドラマであるということなのだと思う。ヒロインは「脳内相談役」との会話を続け、それが映画の柱の一つになっているけれど、これとて特異なこととして描いているわけではなく、誰にでもありうることなのではないかという視点に立っている。『勝手にふるえてろ』のヨシカと同じく、『私をくいとめて』のミツコも、あなたであり、僕なのだ。この点において「綿矢×大九」作品は抜群の普遍性と訴求力を持つと思う。

予定の30分があっという間にすぎてしまい、結局40分くらい話したのかな。大九監督は、僕の質問が曖昧になってしまっても、迷わず的確な回答を、ある程度の情報量とともに返してくれるので、とても話がしやすく(いや、甘えてはいけないのだけど)、トーク時間の終了が惜しい。次作でもお迎えできますように!

事務局に戻り、30分ほどパソコンに向かい、23時から「トークサロン」。今回は「ワールドフォーカス」部門のオーストリア映画で『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン』のサンドラ・ヴォルナー監督。そういえば、大九監督と先日の登壇時の待ち時間に話していた時、本作が大層素晴らしかったと言っていた。ああ、サンドラ監督が来日していたら、大九監督と対談を企画できたのに!

「トークサロン」が始まり、サンドラ監督が画面に現れると、あまりに綺麗なのでのけぞってしまった。事前に顔合わせをする時間がなかったので、本番が完全に初対面。しかし、初対面でいきなり容姿を誉めるのは昭和で終わりだろうということで、おくびにも出さずトーク開始。ブログには書いてもいいかな。どうかな。

それはともかく、これまた滅法トークの中身が濃くて面白い。知的な挑戦をしている作品なので、監督の話についていくのにそれなりの覚悟が必要だ。僕はもう一度YouTubeでアーカイヴ化された映像を見るつもりだけれど(みなさんも是非)、AIアンドロイドを「容器」として描こうと発想した、という時点で話に惹き込まれる。「容器」とはいったいどういうことか? 詳しくはYouTubeへ!


アンドロイドの「記憶」や「夢」について、アンドロイドを媒介にして露呈する人間の本質について、「記憶のデータベース」について。そして、本作のアンドロイドは100%生身の人間が演じていて、模型やCGではないという驚きの事実について。顔に特殊メイクを施し、その一部の線を消すのにCG処理は使っているが、本体(?)は人間の少女が演じている。すごい。

僕が盛り上がったのが、「オープニングとエンディングで虫の声が聞こえるのはどうしてでしょう?」という視聴者からの質問。この質問に対する答えの面白さに、僕はしびれた! なんと面白いのだろう!

本作、イメージフォーラムにぴったりだと思うのだけど、Yさん見たかな…。期待したい!

そういえば、サンドラ監督に影響を受けた監督の名前を挙げてもらったところ、ハネケとウルリヒ・ザイデルは当然として、やはりデヴィッド・リンチ、そしてルクレシア・マルテル、アピチャッポンの名前があがる。いやあ、分かるなあ。

『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン』、東京で上映が出来て本当によかった。今後の展開に期待!

終わって0時。今宵2個目の弁当(昨日と一昨日が3つだったので、ちょっと反省した)で、鳥の照り焼き弁当で、美味しくいただく。弁当の日々、本気で幸せ。

ブログを書いて、本日は2時半に上がれそう。あと2日。やばい、寂しくなってきた。安全に、悔いなきよう、がんばろう。
《矢田部吉彦》

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