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新たな進化遂げるのか? 逆境に立つ香港映画のこれから

東京都の約半分という小さな土地から、バラエティ豊かな映画を生んできた香港。表現の自由に対する規制が強まる中、香港映画はどんな進化を遂げるのか。

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『男たちの挽歌』©2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
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  • 『時代革命』第22回東京フィルメックス 特別上映作品
  • 『花椒(ホアジャオ)の味』©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.
  • 『我が心の香港~映画監督アン・ホイ』2020©A.M. Associates Limited
  • 『ポリス・ストーリー 香港国際警察』© 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
  • 『忠烈図』
  • 『北京オペラブルース』©2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.
  • 『霊幻道士』©2017 CJ E&M CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED
《text:Rie Nitta》

根強いファンがいる香港映画。ド派手なアクション映画やナンセンスギャク満載のどたばたコメディを思い浮かべるかもしれないが、実はラブストーリーや社会派ドラマなど、東京都の約半分という小さな土地から、バラエティ豊かな作品が生み出されてきた。

香港の映画産業が大きく様相を変えたのは、1997年の中国返還。中国市場を意識した大味な中国との合作映画が増えてかつての輝きを失った。さらに、近年の民主化運動やそれに対する中国政府の締め付け強化に、香港映画の将来を不安視する声が高まっている。

「水になれ」というのは、ブルース・リーの有名な言葉だ。時代のうねりの中で、香港映画は再び、水のように柔軟に形を変えていく。大ヒットしたアクション大作からインディペンデント作品、さらには過去の名作まで、多様な香港映画の上映が続くこの冬の日本。香港映画に何が起きているのか、今までとこれからを考えながら、その魅力を探る。


香港映画が世界に輝いていた時代


かつては一大娯楽産業基地として栄え、東南アジアなど世界に映画を輸出していた香港。たとえ映画を見たことはなくても、世界中の少年がブルース・リーの真似をしていた。

1970年代半ばになると、アン・ホイやツイ・ハークなど「香港ニューウェーブ」と称される新しい波の旗手たちが現れ、それまでの大衆的な路線に対して革新的な映画作りを試みた。

題材も、『男たちの挽歌』シリーズのようなギャング映画、時代劇アクションの武侠映画、社会問題を扱ったものや家族ドラマなど、さまざまなジャンルに広がっていく。もちろん王道の娯楽映画も大人気。日本でも、ジャッキー・チェンなら老若男女が知っている大スターだった。

香港映画の最盛期は1990年代前半。年間200本以上が製作されたが、90年代後半に入ると、不況による資金繰りの問題や観客の減少によって陰りが見え始める。ちなみに、公開ベースであるが、2020年に現地で上映された香港映画はわずか34本だった。

そんな1990年代に注目された監督が、ウォン・カーウァイだ。それまでの香港映画にはないスタイリッシュな作風で世界の映画ファンを魅了。日本でも90年代、香港映画を入り口に、香港に魅せられて足繁く現地に訪れる女性たちが現れた。『恋する惑星』(94)『天使の涙』(95)などで切り取られた街並みを見ると、その頃の熱狂と共に、香港の香りや人々の活気を思い出す映画ファンも多いのではないだろうか。香港映画のイメージをすっかりお洒落にしたのが『花様年華』(00)だろう。トニー・レオンとマギー・チャンが織りなす大人の恋と、禁欲的でありながら色香漂うチャイナドレスなど洗練された衣装に目を奪われた。

『花様年華』(C) APOLLO

そんなウォン・カーウァイ作品のインパクトは絶大で、アカデミー賞で作品賞などを受賞した『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督、『ノマドランド』でやはりアカデミー賞に輝いたクロエ・ジャオ監督など、多くの映画監督に影響を与えている。

世界の映画ファンを魅了した一方、分かりやすい娯楽作に慣れた当時の香港の観客には不人気で、香港映画市場を盛り上げる起爆剤にはならなかった。

1997年に迫った中国返還に対する不安が香港社会に蔓延していたこの頃、世の中の漠然とした不安を色濃く反映させた作品も登場する。大陸から香港に渡った男女の愛と孤独を描いた『ラヴソング』(96)や、若者の過酷な日常を描いた『メイド・イン・ホンコン』(97)といった作品がそれで、中国返還と前後して公開されて支持を集めた。


中国との合作が増える一方、市井の人を描く秀作も


中国返還後は、中国・香港の合作映画が急増。ツイ・ハークやピーター・チャン、チャウ・シンチーなど、活動の拠点を大陸に移した映画人も多く、巨大な中国市場を意識した時代劇大作や大味なアクション大作へとジャンルが偏り、香港映画の人気低迷に拍車がかかる。

久々の大ヒットとなったのが2002年の『インファナル・アフェア』だ。マフィアや警察を扱った作品は数多く作られてきたが、緻密な脚本と繊細な人間ドラマはそれまでの香港映画とは一線を画すものだった。本作は後にハリウッドで『ディパーテッド』(06)のタイトルでリメイクされ、マーティン・スコセッシ監督にアカデミー賞をもたらす。

長年ベテランの撮影現場で経験を積んだ監督のデビュー作がヒットした『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』(12)のようなケースもあった。ちなみに本作のリョン・ロクマン監督は今年、香港の大スター、アニタ・ムイの伝記映画を監督し、現地で大ヒット公開中だ。日本で見られる日を待ちたい。

香港に残って撮り続けた監督たちもいる。ジョニー・トーは『ザ・ミッション 非常の掟』(99)や『エグザイル/絆』(06)などで独自の香港ノワールの世界を築き、現在、日本公開中の『花椒(ホアジャオ)の味』(19)で製作を務めたアン・ホイ監督も香港で映画を作り続けている。

『花椒(ホアジャオ)の味』 ©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

『花椒(ホアジャオ)の味』は、アン・ホイが才能を見込んだ女性監督ヘイワード・マックの作品で、支え合う異母姉妹の姿に心温まる秀作。このように、市井の人々を描いた低予算の作品や、女性が主人公の良作の充実も近年の流れだろう。年老いた家政婦と雇い主の血のつながりを越えた関係を描く『桃(タオ)さんのしあわせ』(11)や、30歳を前に生き方を模索するヒロインが共感を呼んだ『29歳問題』(17)が代表的。『誰がための日々』(16)も介護やうつ病という難しい問題を世に問うた作品で、かつてのような派手さはないが、多様で身近なテーマの作品が作られるようになっている。


香港人のアイデンティティを見つめる動き


中国政府による表現の自由に対する圧力は日増しに強まっており、香港映画の未来を憂う声が後を絶たない。

普通選挙の実施を求めて若者がデモを行った2014年の「雨傘運動」以降、香港では自分たちのアイデンティティを見つめる動きか強まっている。

雨傘運動を記録した『乱世備忘ー僕らの雨傘運動』(16)や、2019年に香港理工大学で学生のデモ隊と警察の間で繰り広げられた攻防戦の様子を間近でとらえた『理大囲城』(20)などのドキュメンタリー映画が作られ、海外の映画祭で受賞するなど注目された。

今年のカンヌ国際映画祭では2019年の民主化デモの様子を生々しくとらえたドキュメンタリー映画『時代革命』が、中国当局の妨害を懸念してサプライズ上映され、話題を呼んだ。11月に開催された第22回東京フィルメックスでも、前日に急きょ特別上映が発表されてニュースになっている。

『時代革命』

昨年、中国による香港国家安全維持法(国安法)が施行され、体制批判的な内容を含む映画は取り締まりの対象に。さらに今年、過去の作品まで検閲の対象になるとのニュースが駆け巡って映画関係者を戦りつさせた。

『時代革命』のキウィ・チョウ監督が手掛けた劇映画も上映する「香港映画祭2021」(開催中)キュレーターのリム・カーワイ監督は、香港映画の未来について「悲観的に捕らえる必要はない」と言う。コロナ禍の影響などもあり、国安法の施行以降、まだ映画の製作が本格的に始まっていない状況だとしたうえで、「必ず中国当局の規制がかかるという事実を受け止めて、企画を開発して撮っていくしかない」と語る。「香港の映画監督たちは創造性を磨いて、新しい映画の可能性を開いていくのではないかと期待している」

多様な文化を内包し、豊かな映画を生み出してきた香港。逆境に負けず、香港映画は新たな進化を遂げようとしている。

香港映画界の変遷がよく分かるアン・ホイ監督の人生を追ったドキュメンタリー映画『我が心の香港~映画監督アン・ホイ』が全国順次公開中。また、来年1月4日から1月30日にかけて、国立映画アーカイブ(東京・中央区京橋)で香港映画の歴史をたどる特集上映「香港映画発展史探求」が開催されるので、併せて紹介しておきたい。武侠映画の巨匠キン・フー監督の『忠烈図』やツイ・ハーク監督の冒険活劇『北京オペラブルース』、ジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』、日本でもヒットした『ポリス・ストーリー 香港国際警察』や『霊幻道士』など計21本が上映される。

《新田理恵》

趣味と仕事が完全一致 新田理恵

大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、日中友好関係の団体職員などを経てフリーのライターに。映画、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆するほか、中国ドラマ本等への寄稿、字幕翻訳(中国語→日本語)のお仕事も。映画、ドラマは古今東西どんな作品でも見ます。

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