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「ホロコーストでゲイが迫害を受けていたことを人々は知らなかった」『刑法175条』限定上映イベント開催

『大いなる自由』の公開を記念し、1999年製作のナチ政権下で迫害された同性愛者たちを描く貴重なドキュメンタリー『刑法175条』が限定上映、トークイベントが行われた。

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『大いなる自由』公開記念『刑法175条』イベント©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
『大いなる自由』公開記念『刑法175条』イベント©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
  • 『大いなる自由』公開記念『刑法175条』イベント©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
  • 『大いなる自由』©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
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  • 『大いなる自由』©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
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2021年のカンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞、2022年アカデミー賞国際長編映画賞ショートリスト選出作品『大いなる自由』の公開を記念し、1999年製作のナチ政権下で迫害された同性愛者たちを描く貴重なドキュメンタリー『刑法175条』が限定上映、ジャーナリストで作家の北丸雄二と主にクィアの作家による作品の上映・発信を行う「ノーマルスクリーン」の秋田祥登壇のトークイベントが行われた。


>>『大いなる自由』あらすじ&キャストはこちらから

Bunkamura初の配給作品となる『大いなる自由』は、戦後ドイツで男性同性愛を禁ずる「刑法175条」のもと、愛する自由を求め続けた男の20余年にもわたる闘いを描いた、静かな衝撃作。

ドキュメンタリー映画『刑法175条』は7月21~23日の3回のみ限定上映、7月22日にトークイベントが行われた。20数年前、N.Y.のゲイ&レズビアン映画祭で同作を初めて観たという北丸氏。本作を再見した感想を「当時と印象が違った。この映画が撮られた1995年から2000年、そして今。色々な時代のことを考えなくてはいけない」と明かす。


「ホロコーストの生き残りの人たちが存命で、語れる最後のチャンスに作られた」作品


取材当時の90年代はホロコーストでゲイがこんな迫害されていたことを人々は知らないんですよね。ホロコーストの生き残りの人たちが存命で、語れる最後のチャンスに作られ、そして2023年にこれがこうして上映されて、こんなにたくさんの方が来場している。今この時代だからこそなおさら観てほしいし、TVとかで放送してほしい」と語り、本作が作られた当時のことを「1969年にアメリカで起こった現代ゲイ解放運動の嚆矢とされている<ストーンウォールの反乱>というものがあり、1994年にストーンウォールが25周年を迎えます。そこで初めてストーンウォールの資料の発掘・聞き取りが始まるわけです。エイズがピークを迎えて、それを克服しようとしている時代に、世界各国でゲイの歴史をもう一度掘り起こす動きが出てきた。その中の1つとして、このドキュメンタリーが作られたのではないか」と分析する。

秋田氏は「ちょうど今NETFLIXで『エルドラド:ナチスが憎んだ自由』という作品が配信されているんですが、1920年代のベルリンでクィアの人々が集まったクラブについてのドキュメンタリーで、『刑法175条』でインタビュアーをしていたホロコースト記念博物館のクラウス・ミュラーさんが監修していて、すごくよくできてる」と話す。

「でもそのクラブを舞台にした作品なので、収容所の中とか175条のことはそこまで多くは出てこない。『刑法175条』の監督ロブ・エプスタインの『ハーヴェイ・ミルク』を配給したパンドラが『ピンク・トライアングルの男たち』というまさに強制収容所に送られた同性愛者の体験記を出版していますが、20年以上経った今、こういった作品がまた作られてほしいと思います」と語った。


2023年、「ナチスの動きのようなものが世界のあちこちで生まれている」


また、北丸氏は女性同性愛者がナチスドイツの摘発対象とされなかった理由を、「女性たちが主権を持っていなかったこともあるが、<アーリア人種を産むことができた>というのが理由なんですよね。そして産むことができるということはレズビアンが矯正できたことになる。日本でも“女性は産む機械”なんて発言がありました」と語り、さらに劇中、ヒトラーの台頭でクィアの人々が集まったクラブが閉鎖されたエピソードに触れる。

「トランプ就任翌日にホワイトハウスのホームページからゲイとレイズビアン、エイズに関する一切の情報が消えてしまったというのによく似ている。歴史というのはこうして繰り返すのだろうと思いました。2023年の今、こうしたナチスの動きのようなものが世界のあちこちで生まれているんですよね」と指摘。

それを受け秋田氏は「トランプやボルソナーロ(前ブラジル大統領)、イスラエルの状況など、この数年でも色々な変化があります。映画の中で、ユダヤ人はニンニク臭いから席を変えてほしいといわれた、と登場人物が学校での記憶を語るシーンがありましたが、トランプの差別的な発言にすごく近い。自分がいま世界で起こっていることをここ10年くらいで体験しなかったら、教室で『ユダヤ人はにんにく臭い』と言われたことがホロコーストと繋がっていくとはピンと来なかったかもしれません」とコメントした。


「映画というのはすごい力があります」


そして、1945年の終戦から1957年、1968年と3つの時代を描いた映画『大いなる自由』について北丸氏は「強制収容所に入れられていたハンスは本来ならば終戦によって解放されるはずなのだけど、そのまま刑務所に横滑りしてしまう。『刑法175条』に登場した、収容所で酷い目にあっていた同性愛者たちと同じ目にあっているのですよね」と関連性を語る。

「ドイツでは1969年に同性愛が非犯罪化されましたが175条が廃止されたのは1994年。2002年に初めて政府として同性愛者コミュニティに謝罪するんです。2005年には欧州議会も同性愛者をナチスの犠牲者として追悼し、他の構成員と同じ尊厳と保護を受けると決議しました。ひとつひとつ謝罪して、カタをつけてきたんですよね。ところが日本政府はまだ包括的な差別禁止法というものがない。同性婚に関しても“社会が変わってしまう”と逡巡してしまう」と現在の日本の状況を憂う様子も。

「でも、90年代に盛り上がりをみせたゲイ運動があって、その流れの中でつくられたこの作品を今こんなにたくさんの人が見ている。今度は日本でそういった運動が盛り上がるといいですよね。LGBT運動の盛り上がりって、女性の活躍の運動とも連動しているし、全ての反差別運動、全ての人権運動、全ての民主主義運動と連動している」と続ける北丸氏。

「自由とか、平等とか、そういう話だと思っていただければいいと思う。今日本でもトランスジェンダーバッシングだとか、反動がたくさん出てきていますが、くじけそうになったときは歴史が味方してくれてること、この国のこの小さな社会だけじゃなくて、いろんなところで人権のために戦っている人たちがいるんだっていうことを支えにして、時代を変えていきたいと思っています」と力を込める。

最後に「日本のジェンダーギャップ指数とかを見ても、全く意外な数字ではない。でも、映画というのはすごい力がありますよね」と語る秋田氏を受け、北丸氏は「この映画や『大いなる自由』はもちろん、レインボー・リール東京やトランスジェンダー映画祭、そして様々な作品が公開されています。そういう小さなひとつひとつの力が合わさって、いまここまできているんですよね」と締め括った。

『大いなる自由』はBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国にて順次公開中。


クィア・シネマ・スタディーズ
¥2,530
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)
《シネマカフェ編集部》

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