2002年6月のはじめ、N.Y.にある美術大学を卒業し、あと一年間プラクティカル・トレーニングビザで滞在予定だった留学生が、アパートの契約金を下ろしに銀行に向かう途中、事故が起きた。こんな事故は日常に見聞きする、よくあること。殺人事件に巻き込まれなくて良かった。でも、その留学生は、その家族は帰国後、どうなったのだろうか。突然、それまでの日常を失い、それまでの時間が存在しない場に戻った時、何がその人らしさを繋ぎ止めるのか。事故の当事者になった私は、大混乱の中、変わってしまった日常の記録を始めた。事故前の自分と繋がり直し、探している場所に辿り着けることを祈りながら。
山岡瑞子