阿部寛インタビュー 変化を求めてさすらう男、その役者道に「カッコよさは必要ない」
「恥をかくことがすごく楽しい」――。駆け出しの若手俳優の言葉ではない。今年公開される3本の出演映画は全て主演で…
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原作は直木賞作家・道尾秀介が2009年に発表し、「日本推理作家協会賞」に輝いた本格ミステリー小説。「何本も映画の仕事をやって来た中で、これまでにない佇まいというか、大きなスクリーンの中で落ち着いてただそこにいる自分を見つけられた。これまで過激に役作りすることが多かったけど、『普通にできるじゃん』って思いました」と“自然体”の演技を本作での新たな発見として挙げる。
幅広い役柄をこなすが、阿部寛は決していわゆる“カメレオン俳優”というタイプの役者ではない。古代ローマ人を演じていようが、刑事を演じていようが、常に見た目は誰が見ても阿部寛である。なのに不思議と作品の中では、過去の役柄を感じさせることなくその世界で生きるキャラクターとして存在しているのだ。今回演じた詐欺師のタケさんこと武沢も然り。外見は加賀恭一郎とほとんど変わらないが、中身は全くの別人である。
「今回に関しては、詐欺師だから騙すテクニックをリアルに…といったことは考えなかったです。テツさん(村上ショージ)と組んで日銭を稼いでいる、どこか下町の人情的な雰囲気があったので、役作りというよりは力を抜いて入っていければいいかなと。『テツさん、あんたさ…』とか普段の自分が使わない下町風の言いづらいセリフも結構ありました。ただ、自分が言いやすいように直せば結局、役を自分の側に近づけることになる。あえてそのままでいきました」。
見た目の変身に頼らず内面で演じ分ける。役を自分に近づけるのではなく、自らが役に寄り添う。常に難易度の高い道を進む阿部さん。「自分でハードルを作ってやっていく方が好きなんです」とサラリと言ってのけ、今年、蜷川幸雄の演出の下で俳優人生で初めて経験したシェイクスピアの舞台(「シンベリン」)でのエピソードを嬉々とした表情で明かしてくれた。
「外国の派手な衣裳を着て、『(ひざまずきながら)愛してます』なんてセリフをいまの自分が言えるのかな? と思っていたところもありました。若い頃なら敬遠していたかもしれない。実際に最初、舞台に立ったときにすごく“ノッキング”したんですよ。これまでやったこともないことだから、セリフをどう言えばいいのか? どっちに行けばいいのか? 幼稚園児かと自分で思ったくらいです(苦笑)。自分より若い俳優が見てると恥ずかしいんですが、そういうことを全て超越して素っ裸になって作っていくことができたと思います」。
阿部寛という看板の重さ、背負っているものの大きさも重々自覚している。しかし、いやだらかこそ攻める姿勢を失って立ち止まれば、その先には停滞どころか下降しかない――そんな危機感が言葉の端々からひしひしと伝わってくる。恥をかき捨てながら「背負っているものをはぎ取るところまで行けたら」と自らに言い聞かせる。
「いままで映画で賞なんかを獲ってこなかった分、身軽なのかな(笑)? もしアカデミー賞でももらってたら、守りに入っていたかも。そういうものと無縁だったからこそ『失敗してもいいじゃないか』って思えるのかもしれない。でも、その身軽さは常に持っていたい。俳優として認められることで自分を守ろうとして作品を選ぼうとするようになったら、面白くないですから。数年前にあるファッション誌で二十数年ぶりに表紙をやってモデルに戻ったんですけど、そうするともう気分はモデルになってしまって“カッコよく思われたい”という呪縛に囚われる。そういう罠に引っかからないためにも、常にいろんな役を繰り返していく。よく分からない人で居続ける方が、どんな役にもシフトできるから。外見でも生き方でも『カッコいい』なんて言われることは、決してカッコよくないぞと思うから。役者を思う存分にやるには、そんなのは必要ないものなんだぞと」。
本気で遊び続ける48歳。「次は何しようかな」といたずらっぽく微笑むさまがたまらなくカッコいい。
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