【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭 Day11

18日、金曜日。7時半起床。今朝は快晴!

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18日、金曜日。7時半起床。今朝は快晴!

映画祭終盤になると追加上映が多く組まれ、見逃した作品をキャッチアップできるチャンスがある。でもスケジュールが出るのが直前な上に、見ていない(見たい)作品の時間が重なることもしばしばで、どうにも動きが決まらなくて焦る!

熟慮ののち、9時半からの上映に行くことにする。8時半に行って並び、問題なく入場できたので一安心のスタートだ。見たのは、「ある視点」部門のスウェーデン作品『Border』。

アリ・アッバシ監督の前作『Shelley』が上出来のアートホラー作であったことや、今作に『僕のエリ 200歳の少女』の原作者が脚本参加していることなどで事前の期待も高かった作品だけれど、映画祭序盤に組まれていた公式上映以来、クチコミが一気に広がり、『Border』は前半戦最大の話題作の1本になっていたのだ。

僕は見逃していて地団駄を踏んでいたのだけど、間に合ってよかった!ああ、これは話題になるのは当然。見たことのない作品に出合った時の興奮と喜びは何物にも代え難い。

スウェーデンの港の出入国管理官の女性が主人公で、異形の容姿の持ち主である。しかし彼女は特殊な能力を持ち、怪しい手荷物を識別することができる。そんな彼女の前に不思議な男が現れる。はたして危険人物なのか、それとも自分と同類の存在なのか。女性の人生は揺れ始める…。

というのが冒頭10分くらいの入り口。いやあ、これは何も知らずに見るべきタイプの作品。笑いと驚きとショックと哀しみと愛に溢れた作品だ。『僕のエリ』が好きな人はもちろん、知らない人でも映画好きなら絶賛するはず。日本の公開を期待しつつ、アリ・アッバジという名前を絶対に覚えておくようにしよう。

続けて11時半の追加上映に並び、コンペのステファンヌ・ブリゼ監督新作『At War』へ。突然の工場閉鎖の決定に猛抗議する組合が、会社側と真っ向からぶつかり合う様子を完璧なリアリズムタッチで描く強力な作品だ。

組合のリーダーを演じるのはヴァンサン・ランドン。彼が引っ張る形でストライキを決行し、会社側に閉鎖決定を覆させようと強固な意志で立ち向かっていく。あらゆる相手と激論を交わす場面の連続で映画が構成され、直接の雇用主である工場長、工場を有するフランスの会社、その親会社のドイツの大企業、大統領官邸、さらには仲間内といった具合に、激論に次ぐ激論の連続から目が離せない。

ニュース番組の報道を適宜交え、迫真のドキュメンタリーを見ている気分になる。そして役者たちがひたすら素晴らしい。役者の映画だ。あんなに自分の思っていることを口に出せたらいいなあと的外れな思いも抱きつつ、ともかく熱量と勢いが半端ではない作品だ。そしてテーマは極めて現代的で普遍的なので、楽しんでばかりはもちろんいられない。ステファン・ブリゼ監督の力量に感服。

続いて14時のコンペ上映に向かったら満席でNG。開演直前だったので、それは織り込み済み。ダッシュで別会場に向かい、ギリギリで滑り込むことが出来た。

見たのは「ミッドナイト・スクリーニング」部門の再上映で、ジョー・ペナ監督、マッツ・ミケルセン主演の『Arctic』。アイスランド映画とされているけれど、監督はブラジル人のはず。夜中上映部門の作品だけあって、小難しいことは考えずとにかく楽しめ!という作品だ。カンヌでこういう作品を見ると本当に嬉しくて、没頭する。

マッツ・ミケルセン扮する男が北極で遭難しており、極寒の環境下でサバイバル生活を送っている。思わぬ出来事で瀕死の重傷を負った女性の面倒も見ることになり、救助を求めて移動を決意する。試練の連続に見舞われるマッツ、果たして生き残れるだろうか??

「極地のサバイバルもの」に興奮しない人はいないと思うけど、その期待に十分に応えてくれる面白さ。大満足。マッツ最高。

続けて17時15分から、これも「ミッドナイト」の再上映で韓国のユン・ジョンビン監督新作『The Spy Gone North』へ。主演はファン・.ジョンミン。

韓国から北朝鮮に潜入した実在のスパイの活動を描く大作ドラマ。「ブラック・ビーナス」のコードネームをつけられた男はビジネスマンを装って北に近づき、商売を持ちかけ、キム・ジョンイルにも面会を果たす。そこに金大中が有力候補となった韓国の大統領選挙を巡る思惑も交錯し、朝鮮半島を揺るがす事態となってゆく…。

序盤は展開が早く、付いていけない箇所もあったけれど、中盤以降のスケール感溢れる展開は見応え充分。ファン・ジョンミンももちろん、北側のパートナーとなる高官を演じるイ・ソンミンがとてもいい。高レベルの政治エンタメだ。

上映終わり、同じ会場で20時からコンペ作品の再上映に並び、見たのはフランスのヤン・ゴンザレス監督新作『Knife + Heart』。70年代末のパリを舞台に、ヴァネッサ・パラディ扮するゲイ・ポルノ映画の監督が連続殺人事件に巻き込まれる物語。次々と俳優たちが殺されていき、失恋の痛手も抱える監督は泥沼に陥っていく…。

エロティックで残酷な18禁映画のルックだけれど、画面がクリーンというか、ショットがゴージャスでカッコいいので惹きこまれる。けれん味たっぷりの演出、アルモドバル的な色遣い、戯画化されたキャラクターも楽しい。果たして、ゲイの男性を次々と襲う殺人鬼は、来るべきエイズ時代のメタファーなのだろうか…。

続けて本日6本目は、22時からコンペの再上映で、レバノンのナディーヌ・ラバキ監督新作『Capernaum』(写真)。これは傑作。

12歳の少年が刺殺未遂の罪で逮捕され、裁判が行われる。10歳未満にしか見えない少年は両親を相手に訴訟を起こしたいと法廷に告げ、その理由を問われると「自分を産んだことに対して」と答える。そこから映画はフラッシュバックで少年と家族に何があったかを語っていき、スラムの劣悪な環境下の壮絶な暮らしが見えてくる…。

少年の目線に密着したカメラと細かいカット割りはリアリズムと迫力に溢れ、観客はレバノンの都会の隅でサバイブする貧困層の生活に立ち会うことになる。すし詰めの部屋での生活、街頭の物売り、そして学校とは無縁。カンヌとしては2004年の『誰も知らない』以来の強烈なネグレクト映画だ。

柳楽優弥氏が当時最年少で受賞したことを想起するけれど、本作の少年も主演男優賞は決定と言いたくなるほどの素晴らしさだ。僕は普段はプロの大人の俳優に受賞してもらいたいとの思いがあるけれど、本作の少年は別格の素晴らしさで議論すら不要ではないだろうか? カンヌコンペ、終盤にとんでもない作品が用意されていた! これはすごい。

本日の上映はこれにて終了。いよいよ明日(19日)の夕方がクロージングセレモニーで、賞が発表される。僕はコンペでは、現時点でスパイク・リーとヌリ・ビルゲ・ジェイランとセルゲイ・ドゥヴォルツェヴォイの3作が未見。明日見るつもりだけれどセレモニーの裏なので結果発表前に見終わるのは難しそう。

その中であえて予想をしてみると…。

パルムドール(1等賞):『万引き家族』(是枝監督)
グランプリ(2等賞):『Happy as Lazzaro』(アリーチェ・ロルヴァケル)
監督賞:『Burning』(イ・チャンドン)
脚本賞:『Leto』(キリル・セレブレニコフ)と『At War』(ステファンヌ・ブリゼ)のダブル受賞
審査員賞:『Ash is Purest White』(ジャ・ジャンクー)
女優賞:安藤さくら(『万引き家族』)と『Ayka』の女優のダブル受賞(後者は未見だけれど!)
男優賞:『Capernaum』の少年
審査員賞:『Cold War』(パヴェル・パウリコフスキ)

いやあ、今年は難しい! 果たして結果はいかに!
《矢田部吉彦》

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