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チャドウィック・ボーズマン、知性とカリスマの“ヒーロー”…その誇りと功績

遺作となったNetflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』では初めてアカデミー賞にノミネート。残念ながら受賞はならなかったが、彼の熱演は今後も長らく語り継がれていくはずのチャドウィック・ボーズマン。

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『マ・レイニーのブラックボトム』Netflixにて独占配信中
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  • チャドウィック・ボーズマン Photo by Gareth Cattermole/Getty Images for Disney
  • チャドウィック・ボーズマン-(C)Getty Images
思い返せば2020年8月28日、コロナ禍のハリウッドのみならず、世界中の映画ファン、マーベルファンの間に激震が走ったチャドウィック・ボーズマンの突然の訃報。しかも、関係者のごく一部にしか伝えられていなかったという闘病の日々を、私たちは彼を失ってから初めて知った。

そして、遺作となったNetflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』では初めてアカデミー賞にノミネート。残念ながら受賞はならなかったが、彼の熱演は今後も長らく語り継がれていくはずだ。

気品とカリスマ性に溢れ、知的かつ穏やかでユーモアもあり、アスリートのようにストイックな唯一無二の“アーティスト”、チャドウィック・ボーズマンのこれまで――その功績を振り返った。


留学資金を援助したのは、あのオスカー俳優!


チャドウィック・ボーズマン/『ブラックパンサー』コミコンにて (C)Marvel Studios 2017
1976年11月29日、米サウスカロライナ州アンダーソン生まれ。人種差別が色濃い中で育った。学生時代はバスケットボールに熱意を注いでいたが、チームメイトが銃で撃たれて亡くなり、それを自ら脚本にしたためて演劇にしたという。

自分たちの“物語”を伝えることに目覚めた彼は、監督を目指し、ワシントンD.C.の名門ハワード大学へ入学、監督業にも役立つはずと演技クラスをとる。そこで教鞭をとっていたのが『クリード』シリーズで知られるフィリシア・ラシャドで、彼女のすすめもあって英オックスフォード大学のブリティッシュ・アメリカン・ドラマ・アカデミーに留学する。元手のなかったチャドウィック(チャド)に、フィリシアから相談を受け資金を提供したのが、これまで2度のアカデミー賞に輝いているデンゼル・ワシントンだったことは有名な話だ。

その後、『ブラックパンサー』(18)のニューヨークプレミアに訪れたデンゼルに約20年越しとなる御礼を言うことができた、とテレビ番組で語っていたチャド。もちろんデンゼルは覚えていなかったらしいが、やがてこの縁が、デンゼルがプロデュースする『マ・レイニーのブラックボトム』での起用へと繋がっていく。

『マ・レイニーのブラックボトム』Netflixにて独占配信中
大学卒業後はニューヨークに移り住み、ハーレムで子どもたちの演技クラスを担当しながら、「LAW & ORDER/ロー&オーダー」「CSI:ニューヨーク」「ER 緊急救命室」「コールドケース 迷宮事件簿」などの人気ドラマにゲスト出演。アフリカ系アメリカ人として初めて大学アメフトの権威あるハイズマン賞を受賞したアーニー・デービスの生涯を描いた『エクスプレス 負けざる男たち』(08)で長編映画に初出演する。

そして自身も、『42 ~世界を変えた男~』(13)でアフリカ系初のメジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソン、『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』(14)でソウルの帝王ジェームス・ブラウン、『マーシャル 法廷を変えた男』(16)ではアフリカ系初の米連邦最高裁判事となったサーグッド・マーシャルという、象徴的な人物を伝記映画で次々に演じることになる。

アフリカ系の歴史的、文化的重要人物を学んだ上で築かれた彼のキャリアは、まるで、それぞれの“世界を変える”ためにあったようなもの。そんなチャドだからこそ、アフリカ系初のスーパーヒーロー、ブラックパンサーを演じたのは必然というべきか、運命だったといえる。


“ブラックパンサー”はチャドの永遠の称号に…


チャドウィック・ボーズマン-(C)Getty Images
1966年にコミックに登場したブラックパンサーは、その50年後、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)でようやくチャドを迎えて実写化が実現する。同作や『ブラックパンサー』のプロデューサー、ネイト・ムーアは『42』での彼の演技に魅了され、マーベル・スタジオ社長ケヴィン・ファイギは彼以外のキャストは考えられなかったほど「MCUにとってパーフェクトだった」と振り返っている。


彼が映画公開時にシネマカフェのインタビューに応じた際、印象的だったのが、ブラックパンサー/ティ・チャラらワカンダの人々が話す言語についてのこだわり。それは本作を大きく特徴づけるものだった。

「(アフリカの)いろんな地方の様々な言語を研究しました。最終的に、南アフリカの公用語のひとつ・コサ語をベースにして、ワカンダ特有の訛りを開発しました」と言い、「『シビル・ウォー』のときから既に行っていた作業だったので、本作ではさらに洗練させた訛りへと高めていったという形です」と彼は語った。

いまや観る者に浸透している“ワカンダ語”について、「そういうところからも、彼の自国への愛情というものが表現できてればいいなと思いますし、この主人公は王様であり政治家であり交渉事にも優れているので、物腰柔らかな口調でありながらも、断固として譲らないところは譲らない、という意志を口調からも表現したかった」とも明かしていた。

また、当時は「#MeToo」「Time's Up」が大きなうねりとなった時期でもある。チャドは「アンジェラ・バセット演じる優しく心強き国王の母・ラモンダの母性本能や、毅然とした女王らしさ、強さ・威厳みたいなものに『私もああなりたい』と惹かれる女性もいるだろう。ナキアのように、世界を見て回っただけにオープンマインドで、自立心旺盛、自分に自信を持っている女性に憧れる女性もいるかもしれない。もっと若ければ、国王の妹にして天才科学者のシュリを見て、ちょっと生意気で科学オタクの側面を『可愛いな』『自分にもああいうところあるよね』って共感できるかもしれない」と、ティ・チャラを取り巻く力強い女性たちを紹介。

『ブラックパンサー』キャスト陣 (C) Getty Images
「それぞれが共感できるキャラクターが用意されている」から、「肌の色や国に縛られず、日本人の皆さんにも共感してもらいながら楽しんでもらえると思う」と自信を覗かせていた。同作のラスト、ティ・チャラが「危機に瀕した時 賢者は橋をかけ 愚者は壁を造る」「人類は1つの民族」と語った言葉はトランプ政権下にあった現実世界へのカウンターにもなっていた。

本作は大きな支持を集め、アメコミ原作のヒーロー映画として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされ、美術賞、衣装デザイン賞、作曲賞の3部門を受賞。全米では歴代4位の興行収入を記録し、世界累計でも『アベンジャーズ』シリーズを除くMCUのヒーロー単独映画としては最大のヒットとなっている(Box Office Mojo調べ)。

だが、漆黒の戦闘スーツをまとったアフリカ系ヒーローが世界を席巻する中で、チャドは人知れず2016年に診断されたがんと闘っていたのだ…。マーベル・スタジオは今夏、撮影開始予定の『ブラックパンサー』続編以降、ティ・チャラ/ブラックパンサー役に代理キャストは立てないと明言している。つまり、チャドは正真正銘の唯一無二の存在となったわけだ。

2018年5月、母校ハワード大学の150周年を記念する卒業式で名誉博士号を授けられたチャドは、両腕を胸の前で交差する例の“ワカンダのポーズ”で挨拶を締めくくったという。


『42 ~世界を変えた男~』
耐えて、耐えて結果で示した男


『42~世界を変えた男~』-(C) 2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.
終戦後、人種隔離政策「ジム・クロウ法」真っ只中のアメリカで、対戦相手や観客に加え、審判やチームメイトからの暴言や嫌がらせに耐え抜きながら、野球で結果を出してきたジャッキー・ロビンソン。

最大限に達した怒りをバッドにぶつけるシーンは、穏やかなティ・チャラのチャドからは想像もつかないはずだ。チャドが再び命を吹き込んだジャッキーの背番号「42」は、メジャーリーグ全球団共通の永久欠番となっている。


『ドラフト・デイ』大逆転が待っている


『ドラフト・デイ』 (C)2014 Summit Entertainment, LLC.  All Rights Reserved.
ケヴィン・コスナーが弱小アメフトチームの再建を託されたジェネラル・マネージャーを演じ、チームのために大物ルーキーを獲得する1日を描く物語。チャドは、十分な実力はありながらも人気白人選手の獲得のためにドラフト会議でないがしろにされる、オハイオ大学のボンテ・マック役を演じた。


『ジェームス・ブラウン~最高の魂を持つ男~』
必見のライブシーン!


『ジェームス・ブラウン~最高の魂を持つ男~』(C)Universal Pictures (C) D Stevens
特徴的なステップやファンクの表現など、チャドのなりきりぶりに唸る作品。白人のために、目隠しされながらリング上で殴り合い見世物となった少年時代や、自分を捨てた母親(ヴィオラ・デイヴィスが演じている!)への愛憎といった、ジェームス・ブラウンを形づくってきたもの全てが音楽になる。

『ジェームス・ブラウン~最高の魂を持つ男~』(C)Universal Pictures (C) D Stevens
それをどこまでもストイックに、挑戦し続けて演じ切った今作のチャドはもっと評価されていい。


『キングのメッセージ』製作総指揮も担当


貧しく、暴力と隣り合わせにある故郷、南アフリカのケープタウンから夢を抱いてアメリカに旅立ったはずの妹がドラッグに溺れ、失踪する。チャド演じるジェイコブ・キングはその原因となったマフィアに復讐を誓うが、壮絶な暴力の渦に巻き込まれていく。南アフリカといえば、ティ・チャラの父ティ・チャカを演じた名優ジョン・カニの出身地でもある。


『キング・オブ・エジプト』
唯一のアフリカ系として存在感を発揮


『キング・オブ・エジプト』(C)2016 Summit Entertainment,LLC.All Rights Reserved.
古代アフリカの神々の争いを描いたエンタメ大作だが、オーストラリアやスコットランド、デンマーク出身の俳優たちがメインキャストを務める中で、唯一のアフリカ系俳優として加わった。しかも演じたのは、知恵を司る神トトで、彼にぴったりの役柄。


『マーシャル 法廷を変えた男』
ユダヤ系弁護士とコンビに


1940年、全米黒人地位向上協会の弁護士サーグッド・マーシャルが、ユダヤ系の弁護士フリードマン(ジョシュ・ギャッド)とコンビを組み、運転手ジョゼフ(スターリング・K・ブラウン)の無実を晴らすために差別主義者の判事やマスコミ、地元民らと対峙しながら奔走する。公民権運動を推し進めたマーシャルは、チャドと同じハワード大学の出身だ。

改めて見返すと、マーシャルが別の裁判で時々不在にするのは、演じたチャドの治療のためだったのかも…と思えてくる。なお、今作の主題歌「Stand Up For Something」を歌ったアンドラ・デイは、本年度『The United States vs. Billie Holiday』(原題)でビリー・ホリデイを演じ主演女優賞にノミネートされた。


『21ブリッジ』ステファン・ジェームズにも注目


『21ブリッジ』 (C) 2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.
ニューヨーク、マンハッタン島での一夜を描く、近ごろ珍しくなったハードボイルド・クライムアクション。『キングのメッセージ』でも組んだローガン・コールズと共同で製作し、劇場公開映画としては最後の出演作となった。

将来、もし誰かがチャドに次ぐような位置の俳優になるとしたら、逃亡犯の1人マイケルを演じたステファン・ジェームズ(『ビール・ストリートの恋人たち』)なのでは? と今作を目にした方ならよぎるかもしれない。マイケルの境遇には、チャドが込めた思いが浮かんでくるようだ。


Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』
スパイク・リーがベトナム戦争の傷描く


『ザ・ファイブ・ブラッズ』Netflixにて配信中
スパイク・リー監督が放つ「Black Lives Matter」にして、反戦映画。ベトナム戦争で心の傷を負った退役軍人たちが、当時隠した金塊と敬愛していた隊長の亡骸を探すために再びトラウマの地を踏む。戦争の爪痕を要所要所で挟んでくるが、そのとき、勇ましくカリスマティックにチャド演じる隊長の姿も“蘇る”。

今回残念ながら候補にならなかったが、主演のデルロイ・リンドーはアカデミー賞にノミネートされて然るべきの熱演。できればチャドと壇上で並ぶ姿が見たかった…。


Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』
シーンを掌握する魂込めた演技


『マ・レイニーのブラックボトム』Netflixにて独占配信中
ハワード大学時代にチャドも触れたであろう、劇作家オーガスト・ウィルソンの戯曲を映画化。“ブルースの母”と呼ばれたマ・レイニー役のヴィオラ・デイヴィスも今回、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされていた。

ちなみに、製作のデンゼルは先にウィルソンの戯曲「フェンス」を自身の監督・主演で映画化しており、第89回アカデミー賞4部門にノミネート、ヴィオラが助演女優賞を受賞している。

『マ・レイニーのブラックボトム』Netflixにて独占配信中
今作では、1927年のシカゴを舞台に、マ・レイニーのバックで演奏する若きトランペッターのレヴィーを演じたチャド。実際に演奏できるまで指使いを徹底的に学んだという。

同じくNetflix配信中の「マ・レイニーのブラックボトムが映画になるまで」によれば、当時は南部から北部に希望を求めて移動するアフリカ系が続出しており、レヴィーもここで何かを掴みたいと野心むきだしで白人のレコーディングディレクターにすり寄っていく。

『マ・レイニーのブラックボトム』Netflixにて独占配信中
やがて彼の焦燥は、真夏のうだるような暑さもあって体中からジリジリと湧き出てくる。その汗と、狂気の血と涙とが入り交じった中でレヴィーが語る自分史のシーンは、今作最大の見どころ。訃報の後に伝えられた共演者の証言から、相当、身体が衰弱していたはずだが、それすら忘れさせる熱気を放っている。

それまではマ・レイニーやバンド仲間に食ってかかり、生意気な口調で軽やかなダンスを見せたり、マ・レイニーの恋人を口説いたりしていたのだから、そのギャップがまた凄まじい。

『マ・レイニーのブラックボトム』Netflixにて独占配信中
さらにNetflixでは、「チャドウィック・ボーズマン:あるひとりの表現者」として彼の人生と功績を紹介する特別番組を配信中、ヴィオラやデンゼル、スパイク、ダナイ・グリラ、恩師であるラシャドなどが登場する。

「チャドウィック・ボーズマン: あるひとりの表現者」独占配信中
その中でチャド自身が、自分は「俳優ではなくアーティスト」と語った言葉が耳から離れない。アフリカ系としての誇りを持ち、その差別の歴史を踏まえた上であくまでも芸術の表現者として作品に転化していったチャド。その志を受け継ぐ者は、きっと現れるに違いない。
《上原礼子》

「好き」が増え続けるライター 上原礼子

出版社、編集プロダクションにて情報誌・女性誌ほか、看護専門誌の映画欄を長年担当。海外ドラマ・韓国ドラマ・K-POPなどにもハマり、ご縁あって「好き」を書くことに。ポン・ジュノ監督の言葉どおり「字幕の1インチ」を超えていくことが楽しい。保護猫の執事。LGBTQ+ Ally。レイア姫は永遠の心のヒーロー。

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