メキシコ、ユカタン半島北部に点在するセノーテと呼ばれる洞窟内の泉。かつてマヤ文明の時代、セノーテは唯一の水源であり雨乞いの儀式のために生け贄が捧げられた場所でもあった。現在もマヤにルーツを持つ人々がこの泉の近辺に暮らしている。現世と黄泉の世界を結ぶと信じられていたセノーテをめぐって交錯する、人々の過去と現在の記憶。そこに現地の人たちの語りで流れる「精霊の声」「マヤ演劇のセリフテキスト」など、マヤの人たちにより伝えられてきた言葉の数々。カメラは水中と地上を浮遊し、光と闇の魅惑の映像に遠い記憶がこだますする。いまもこの地に住む人々にも取材し、集団的記憶や原風景を映像として立ち上げようと試みた。
小田香